前回から3回連続で、プライベートアセット(PA)のポートフォリオ構築を実際に構築する上での考え方や留意点をお伝えしています。前編では、PAは確としたベンチマークがないので「ファンドの品揃えと投資タイミングの両方の分散が重要」ということを学びました。今回はこの時間軸の分散がなぜ重要なのか、クローズドエンド型ファンドとオープンエンド型ファンドとどう向き合うのが良いのか、こういった点について山浦厚能さんに解説していただきます。

リターン予想に基づく投資は「NO」

PAのビンテージ分散の重要性について、山浦さんはワインを例に説明されました。煎じ詰めるとPA投資は「農業なのだ」と思ってしまいます。

山浦 ある意味、その通りです。ワインに限りませんが、生産者は収穫の時期だけ働いているわけではありません。良い収穫を願って、1年を通じて適切な手入れ作業を行っています。結果的に天候等の外部要因によって、その年の出来栄えに差が生まれますが、運悪く品質が低下した年に当たったからといって翌年以降、手入れを放棄することはありません。投資家も同様です。ビンテージの将来リターンの予想に基づいて投資するのではなく、毎年着実な仕込みを行うことが重要です。

良い案件を見つけるための時間的猶予

PA投資で初心者がつまずくのが、「クローズドエンド」の仕組みを理解することです。

山浦 そうですね。プライベートアセットによく見られるクローズドエンド型のファンド特性を理解しておくことが、投資を開始する上での第一歩かもしれません。伝統的資産と比較することが大事です。例えば、伝統的資産のファンドは時価で評価されており、欲しい資産を即座に確保することができます。クローズドエンド型ファンドではそうはいきません。①投資家は出資金額を決定し②その範囲内で運用者が投資を行ったタイミングで資金を払い込み③投資案件を売却する――こうして初めて投資家に資金が払い戻されます。

一般的にクローズドエンド型ファンドには3年から5年の投資期間が与えられます。つまり、投資期間中に良い投資案件を発掘するための時間的猶予を運用者に与えている仕組みです。逆に言えば運用者が十分な検討を行わず、早期に運用資産を積み上げる行為を回避する狙いがあります。投資タイミングの良し悪しも、超過収益の源泉に内包されていると言い換えても良いでしょう。

【図表1】PEファンドの投資進捗とNAV倍率(累積)
PEファンドの投資進捗とNAV倍率
出所:ラッセル・インベストメント作成

【図表1】は、平均的なプライベートエクイティ(PE)ファンドのNAV(Net Asset Value:純資産価値)の推移です。投資が進捗するごとにNAVは大きくなり、6年目にピークを迎え、その後、売却が進むことで徐々に減少していきます。したがって、ある時点で1つのファンドに投資をするだけでは、将来的にNAVが低下し、目標とする資産配分から乖離していくわけです。そこで毎年新しいファンドに投資を行う、つまりビンテージ分散を行うことで、長期的にNAVが安定していくことになるのです。

オープンエンドとの組み合わせも一手

このところ企業年金の間では、途中解約も可能なオープンエンド型のファンドを求めるケースが増えています。

山浦 おっしゃる通りです。必ずしもクローズドエンド型ファンドだけでポートフォリオを構築する必要はありません。通常の投資信託のように換金が可能なオープンエンド型ファンドと組み合わせていくことで、より効率的にポートフォリオを構築できます。

【図表2】クローズドエンド型とオープンエンド型の相違点
クローズドエンド型ファンド オープンエンド型ファンド
ファンド時価の推移 投資期間(一般的に3~5年)で良い案件を取得するため、時価は徐々に上昇し、案件売却の都度時価は低下する 案件へ投資済なのでファンド投資後、早期に投資家が希望する時価残高を確保できる
流動性 原則解約不可 ロックアップ(売却禁止)期間を設けるファンドもあるが解約可能
コアかノンコアか 投資案件の価値を中長期的に高めるためPE全般、並びに不動産・インフラのノンコア戦略と親和性が高い 原則、優良案件の長期保有を目指すことから、不動産・インフラのコア戦略と親和性が高い

出所:ラッセル・インベストメント作成

そもそもクローズドエンド型ファンドは、投資案件の価値を高めるまでに時間がかかるため、中途解約を認めない構造です。ということは、十分なキャッシュフローを生み出しているものの、キャピタルゲインが大きくない案件を保有しているファンドであれば、オープンエンド型とすみ分けができます。実際に、クローズドエンド型ファンドには、期待リターンが高い戦略であるPEや不動産・インフラのノンコア(キャピタルゲイン追求)戦略が多く含まれます。そして、不動産・インフラのコア(インカムゲイン追求)戦略はオープンエンド型のファンドに多く見られます。特徴を整理すると【図表2】の通りです。

「最終投資時点」での分散でOK

肝心の「ビンテージ分散」ですが、タイミングの定義が曖昧な気がします。

山浦 鋭いですね。ビンテージ分散は必ずしもファンドに投資した年だけで考える必要はなく、最終投資案件ベースで考えれば良いのです。

例えばオープンエンド型ファンドでは、過去から運用してきた保有案件には様々な年代が含まれていることがあります。一方、クローズドエンド型はこれからのビンテージに投資することになります。つまり、オープンエンド型とクローズドエンド型を組み合わせることで、過去のビンテージへのアクセスと将来的な成長案件が併存するわけです。まさにビンテージ分散そのものです。

さらに、これから新しくPA投資を検討する場合、既存の案件を別の投資家から購入する「セカンダリー投資」という選択肢もあります。ほとんどがクローズドエンド型になりますが、ビンテージ分散の面でも有効な戦略と言えるでしょう。

投資の中断は避けたい

PA投資はワイン醸造と似ているとすると、当然「天候不良」に左右されるわけですよね。

山浦 そうです。【図表3】はPEにおけるビンテージ別のリターン実績です。ここではIRR(Internal Rate of Return:内部収益率)、つまり「投資の現在価値と、将来得られるキャッシュフローの現在価値が等しくなる割引率」を使っていますが、組成年によってリターンが良い時と悪い時があることが分かります。

特に悪いビンテージは2005年から2007年にかけて見られます。これは2008年に起こったリーマン・ショック以前のビンテージであり、まさに運用者にとっては案件を仕込んでいる時期(投資期間)に該当します。「後から見れば」という注釈がつきますが、当時の価格は割高であり、大きなショックからマイナスの影響を受けた案件が足を引っ張ってしまいました。

【図表3】PEのビンテージ別四分位IRRの推移
PEのビンテージ別四分位IRRの推移
注:2023年3月時点。米ドルベース、報酬控除後。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を示唆、保証するものではない
出所:Pitchbookのデータを基にラッセル・インベストメント作成
※クリックすると拡大します

農業における悪天候の発生と同様、リーマンショックのような市場イベントがいつ発生するかはわかりません。しかし、ショックの時点で投資をやめてしまうと、結果的に期待以下の実績で終わってしまう結果になりかねません。時間軸の分散を通じたリターンの安定化が必要不可欠というわけです。

「ビンテージ分散」のルール化を

しかし、山浦さん。多くの企業年金では、ごく少人数で伝統的資産から多様なオルタナティブのファンド選定、さらにはモニタリングなどの業務も抱えており、手いっぱいというのが実情です。その上で、「毎年ビンテージ分散せよ」? いやあ、「とてもじゃないが手が回らない」という叫びが聞こえてきそうです。

山浦 分かります。そういった場合は追加的な手数料が発生するものの、FOF(Fund Of Funds)を通じたポートフォリオ構築が現実的な対応となります。しかし、FOFもいずれ投資期間が終了します。そこで次のファンドに切れ目なく投資をすることが、ビンテージ分散にとって重要なポイントになります。

また、企業年金の運用担当者が交代して「ビンテージ分散の重要性」が引き継がれない事態に陥るケースも想定されます。これは、組織におけるルーティンの確立不足ということになります。

資産運用に関するルーティン業務の例として、以下のようなものがあります。

・数年に1度、ALM(Asset Liability Management:資産・負債総合管理)を実施して基本資産配分を見直す
・資産配分や運用機関構成が想定以上に乖離した時点でリバランスを実施する
・定期的に運用機関の成績を評価し、より良い運用機関があれば入れ替える

これらは多くの企業年金で、既に業務マニュアルに定められているはずでしょう。ここに「PAにおける継続的プログラム」という項目を追加して、ビンテージ分散の重要性を明記してほしいと思います。ルール化あるいはルーティン化すれば、新しい担当者にとっても「十分に理解してないけど、必要な業務」であることがはっきりします。

多くの企業年金にとって、オルタナティブ投資がポートフォリオにおいて必要不可欠な役割を果たしつつあります。その重要性に鑑みれば、現在の投資比率だけでなく、将来にわたって比率が維持されるための運営上の工夫が求められていると言えそうです。

  • プライベートアセット投資は「農業」。将来リターンの予測による投資はせず、毎年着実に「仕込む」ことが肝要
  • クローズドエンド型ファンドは、良い投資案件を発掘するための時間的猶予を運用者に与える仕組み
  • クローズドエンド型とオープンエンド型のファンドを組み合わせることで、より効率的なポートフォリオ構築が可能に
  • ビンテージ分散は、投資年ではなく「最終投資案件」ベースで考えれば良い
  • 業務マニュアルに「ビンテージ分散の重要性」を明記すべき

次回は「ポートフォリオどう構築」【後編】(仮)

■このシリーズは原則的に毎月1回、10日をめどにお届けします。第8回は2026年2月10日(火)の予定です
■質問や要望は下記フォームからお願いします。今後の連載に生かします

【解説】山浦厚能(やまうら・あつのり)
ラッセル・インベストメント
ディレクター オルタナティブ・アドバイザリー部長

2007年、ラッセル・インベストメントに入社。コンサルティング部で主に企業年金を対象に、伝統的資産・オルタナティブ資産の双方を含むポートフォリオ構築や運用会社選定などに関するアドバイスを行った。2017年にオルタナティブ・アドバイザリー部に異動。主にプライベート資産のコンサルティングを担当している。
ラッセル・インベストメント入社以前は、大和銀行(現・りそな銀行)でファンド・マネージメント業務に従事した。
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)

阿部圭介

【構成・執筆】阿部圭介
J-MONEY論説委員
1980年、朝日新聞社に入社。金沢支局で新聞記者生活をスタート。整理部記者として紙面編集を担当。経済部記者として金融、証券、情報通信などを取材。経営企画室長、大阪本社編集局長、朝日ビルディング社長を経て2022年3月まで朝日新聞企業年金基金常務理事。2022年4月から現職