• ドル円相場は中長期的に200円を超えて上昇する
  • 財投統廃合が招いた国債残高急増と量的緩和
  • 財政規律喪失による国債残高急増と異次元緩和
  • 日本売りか円キャリートレード再構築か

ドル円相場は中長期的に200円を超えて上昇する

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

わが国は、これまで、20世紀後半に導入されていた財政投融資(以下、財投)と2000年代以降の日銀による一連の緩和策によって、奇跡的に日本国債の大暴落(以下、JGBクライシス)を回避してきたとみることができる。

今後、現行の日本政府による財政規律の欠如と日銀の量的引き締めが同時進行した場合、財投や異次元緩和に続く第三の救世主の出現なくしては、早晩JGBクライシスが発生する可能性が極めて高いと考えられる。

また、日銀が量的引き締めを道半ばで断念した場合、直ちに内外金利差に注目した莫大な円キャリートレードが積極的に再構築されるであろう。いずれにおいても、ドル円相場は中長期的に200円を超えて上昇を継続する筆者は考えている。

財投統廃合が招いた国債残高急増と量的緩和

わが国は、戦後、財投を通じて、郵便貯金、簡易保険、公的年金から資金を市場を通さずに調達して公共事業を賄ってきた。この結果、1999年第3四半期における財投の郵貯などからの資金調達残高は83%(GDP 比、以下同じ)に達し、国債残高の66%を凌駕していた。

また、同期の財投の国債購入残高は15%に達していた。換言するなら、当時の政府債務の総額はすでに同149%に達していたが、財投の存在がJGBクライシスを防いでいたとみることができる。

そのような中、その不透明性ゆえに財投の統廃合が決定されると、1998年末、長期金利が急騰、国債市場は「資金運用部ショック」と呼ばれる大混乱に陥った。その後の財投が統廃合される過程で、財投の郵貯等からの資金調達残高は、2005年第2四半期に39%まで低下、一方、国債残高(財投債を含む)は、124%まで急増した。また、財投の国債保有残高も9%まで減少した。

この観点から、同期間における日銀のゼロ金利政策と量的緩和は、JGBクライシスを回避するために実施された考えることができる。2005年第2四半期に、日銀の国債保有額は18%まで拡大したために、日銀、財投を除くその他部門の国債保有は97%にとどまった。

財政規律喪失による国債残高急増と異次元緩和

2000年代後半に勃発した世界金融危機を契機に主要各国の財政規律のタガが外れ、2010年代になると、人口オーナス、防衛費の増加、いわゆるバラマキ財政、コロナ禍などによる歳出急増から、わが国の国債残高(財投債を含む)は、2000年第2四半期に200%まで急増する。しかし、2013年以降実施された異次元緩和によって、同期の日銀の国債保有は95%に達し、その結果、その他部門の国債保有は104%にとどまり、再びJGBクライシスが回避されたみることができる(図表)。

■部門別国債保有額と財投による郵貯等からの資金調達額(GDP比%)
部門別国債保有額と財投による郵貯等からの資金調達額
出所:日銀

日本売りか円キャリートレード再構築か

欧米ヘッジファンドは、主要先進各国の財政ポジションの悪化と中銀の量的引き締めの同時進行を材料に、新たな投機を仕掛けようとしている。彼らのレーダースリーン上の最大のターゲットが日本であることは言うまでもない。わが国は、政府債務残高においても、そのうちの中銀保有残高においても、G7(主要7国)中突出しているためだ。

日銀は、6月、長期金利の急騰によって、すでに着手した国債購入の減額(量的引き締め)のペースダウンを余儀なくされた。ここから導かれる為替インプリケーションは日本円の急落である。もし、現行の日本政府による財政規律の欠如が継続するなかで、日銀が量的引き締めを断行して、マネタリーベースの水準が例えば1990年代の水準まで減少すると予想されるなら、欧米ヘッジファンドは金融市場において喜び勇んで日本円と日本国債を売り浴びせるであろう。

これを回避するために、日銀が量的引き締めを道半ばで断念すると予想される場合、高水準の内外金利差が維持されることになり、欧米ヘッジファンドは、莫大な円キャリートレード・ポジションの構築に積極的に回帰する公算が高い。

いずれのケースにおいても、ドル円相場は中長期的に200円を超えた水準に向けて上昇を続けると筆者は考えている。