ヌビーン・ジャパン「プライベート・キャピタル・フォーラム2025」 運用会社・日本を代表するゲートキーパーが語り合う、2025年のプライベート・クレジット市場の展望と投資機会
2025年6月19日、ヌビーン・ジャパンが都内で「プライベート・キャピタル・フォーラム2025」を開催した。当日は、ヌビーン傘下でプライベート資産の運用に強みを持つチャーチル・アセット・マネジメントおよびアークモント・アセット・マネジメントの運用責任者が登壇し、それぞれが本拠を置く米国・欧州でのプライベート資産の投資妙味を説明したほか、2025年のプライベート・クレジットの投資機会に関するパネルディスカッションなどが行われた。本記事ではパネルディスカッションを中心に当日の内容の一部を紹介する。
ヌビーンのオルタナ資産AUMは1兆円弱まで成長
鈴木 2018年に日本拠点であるヌビーン・ジャパンが立ち上がった。その後、当社のビジネスは、創業時から手掛けている米国地方債の運用を中心に成長を続けてきたが、足元、国内外で急伸を見せているのがプライベート資産だ。特に日本の機関投資家から受託するオルタナティブ資産の運用残高は、足元で1兆円弱にまで成長している。
「プライベート・キャピタル・フォーラム」は本年で2度目の開催となった。今回は当社の当初想定を超す人数の参加者にお越しいただき、驚いている。それだけプライベート資産への強い関心が続いているということだろう。

代表取締役社長
シニア・マネージング・ディレクター
鈴木 康之氏
ヌビーンのプライベート資産運用の強みの一つが、グループ傘下に米国のプライベート資産運用大手のチャーチル・アセット・マネジメント、そして欧州のプライベート・デット運用のパイオニアであるアークモント・アセット・マネジメントという2つの運用会社を傘下に有していることだ。
本日はそれぞれの運用会社の運用責任者、そして日本のオルタナティブ投資のけん引役を務めてこられたエー・アイ・キャピタルの佐村礼二郎社長、三井住友信託銀行の増田徹常務執行役員を会場に招き、2025年のプライベート・クレジット市場の展望と投資機会についてパネルディスカッションを行う。多様な立場のプレーヤーが現在、そしてこれからのプライベート・クレジット運用をどのように見ているのか、皆様の参考になれば幸いだ。
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トップインタビュー(ヌビーン・ジャパン 鈴木康之氏)
オルタナティブ投資拡大の土台作りを通じ資産運用立国の実現に貢献する
「2025年プライベート・クレジット市場の展望と投資機会」
■マット・リネット氏(チャーチル・アセット・マネジメント シニア・マネージング・ディレクター、シニア・レンディング統括責任者)
■マーカス・マイヤー・クリュッグ氏(アークモント・アセット・マネジメント パートナー、ポートフォリオ・マネジメント共同統括責任者)
■増田 徹氏(三井住友信託銀行 常務執行役員)
■佐村 礼二郎氏(エー・アイ・キャピタル 代表取締役社長 CIO)
【モデレーター】
■ジーン・ミャオ氏(チャーチル・アセット・マネジメント シニア・マネージング・ディレクター、シニア投資ストラテジスト)
米国・欧州ともに市場成長へ期待感

シニア・マネージング・ディレクター、シニア・レンディング統括責任者
マット・リネット氏
ミャオ 最初に足元のプライベート・クレジット(以降、PC)の運用環境についてチャーチル・アセット・マネジメントとアークモント・アセット・マネジメントのそれぞれの運用責任者の視点を伺いたい。チャーチルのリネットさん、米国市場はどのような状況か。
リネット 関税、金利動向、そしてM&Aの活発化がいつ本格的になるのかといったマクロテーマがすべて相互に関連しており、切り離せない状況だ。特に関税政策が最終的にどう落ち着くのかという点で、市場は明確な方向性を求めている。
トランプ政権による関税政策の発表のしかたは、正直言って残念だった。最初から「すべての品目に一律10%の関税をかける。対象はこの業種で、この国だ」といった明確なメッセージがあれば、市場の受け止め方もかなり前向きだったはずだ。しかし、今のように不確実性が残る状況では、完全に関税の影響を受けないと判断できる案件でなければ投資できない。
金利の先行きについては多少の安心材料がある。FRB(米連邦準備理事会)が急いで追加利下げをするとは思っていないが、今のところ利下げ方向に向かうのは間違いないという雰囲気で、金利動向は一時的に安定している。
米国では9兆ドルを超えるミドル・マーケット市場における資金需要の存在や、プライベート・エクイティ(以降、PE)のファンドレイジング数の急増を背景に、PCの取引が今後活発化するとみている。そして、チャーチルやアークモントのような一流の運用プラットフォームは、長年にわたる関係性や、堅調なポートフォリオ運用実績によって、依然として質の高い案件を獲得し続けている。しかし、マクロ経済や前述の関税政策の動向等不確実な要素がまだいくつか残っている以上、「案件の流れはそれなりにあるが、市場全体としては期待されていたような急増には至っていない」という今の環境がしばらく続くのではないか。
ミャオ アークモントのクリュッグさん、欧州市場についてはどうか。
クリュッグ 欧州におけるPCの運用環境について、2つの視点から説明したい。まず私の専門であるポートフォリオ・マネジメントの観点。そしてもうひとつ、新規投資の執行(デプロイメント)の観点からだ。
パートナー、ポートフォリオ・マネジメント共同統括責任者
マーカス・マイヤー・クリュッグ氏
ポートフォリオ・マネジメントについては、今はある意味で“ひと息つける時期”にあると感じる。欧州では金利が低下基調にあり、それがPCの借り手企業のキャッシュフローの改善に寄与している状況だ。また、世界を騒がせているトランプ政権の関税政策に関連したボラティリティやリスクとも、欧州市場は比較的隔離された立ち位置にある。それは我々の多くの投資先企業がローカルまたは地域密着型の企業であり、米国との取引がほとんどないためである。また、業種的にもモノの生産ではなく、地域向けのサービス提供を行っている企業が多い。
次に新規案件のデプロイメントについては、非常に力強い流れがあると感じている。複数の根本的な要因が背景にあるが、それらは今後数年間も引き続きプラスに働くだろう。最も重要な要因は、欧州市場におけるPC運用の成熟度が米国と比較してまだ低い点だ。これは欧州市場に成長余地がまだ大きく残されているということを意味する。実際に欧州市場は過去数年で急成長を見せている。
ボラティリティに対応するマネージャーの力量が試される1年に
ミャオ ここで日本の機関投資家の見解も伺いたい。三井住友信託銀行はプラットフォーム上で幅広いオルタナティブ投資をカバー・統括している。PC投資についてどのように見ているか。
増田 日本の機関投資家の間では、PCは2020年前後から急速に需要が高まり、現在まで非常に好調に拡大を続けてきた。ここで強調しておきたいのは、PEのアロケーションがPCに移行したのではなく、あくまでPCへのアロケーションが純増、つまり「追加されてきた」点だ。
常務執行役員
増田 徹氏
背景にはいくつか理由が考えられる。例えばPCがフローティングレート(変動金利)の投資であることから、金利上昇局面において比較的有利な投資対象となる点が挙げられるが、それ以上にPC市場そのものが拡大し、投資対象となる案件や運用機会が増えてきた点が重要だろう。
とはいえ今後については、地政学的な動きや外部環境による不確実性が無視できない。そもそもPC市場は、リーマン・ショック前まではそれほど存在感のある市場ではなかった。むしろ、それ以降の新しい金融秩序の中で急成長してきた分野と言える。そのため、足元で世界経済の景気後退も示唆される中、マクロ経済がどのように“ソフトランディング”に向かうのか、それと同時に、外部環境のボラティリティが高まる中でPCマネージャーがいかにして安定的なリターンを実現できるか――といった側面が試される展開になるのではないか。
特に後者のマネージャーの運用成果の点で大切なのは、ハイイールド債などとは異なる、よりソリッドでディフェンシブな特性を持つリターンを示せるかどうかだろう。それをクリアできたら、機関投資家だけでなく、将来的には富裕層や個人投資家にとっても、基本アセットとして位置づけられる可能性がある。2025年はPCにとって、「ボラティリティにいかに耐え、どのようなリターンを構築できるか」が問われる1年になると個人的に感じている。
ミャオ 日本では金利上昇も市場の関心の的であるが、その影響は。
増田 国内金利はまだ急激に上昇しているわけではなく、絶対水準もさほど高くない。依然として、円債の利回りは海外のプライベート・デット(以降、PD)やダイレクトレンディング(以降、DL)に大きく水を空けられている。それ以前に、日本にはPCのような信用スプレッドを提供する運用商品がほとんど存在せず、国内金利商品とPCはまったく異なる位置づけで運用されているのが実態だ。国内金利が上がったからといって、PCへの投資の勢いは大きく変わらないだろう。
ミャオ 日本・米国・欧州のさまざまなプライベート戦略をカバーするゲートキーパーとして、エー・アイ・キャピタルの佐村様は日本の投資家のPC投資をどう見ているか。
佐村 近年、とりわけDLが日本の投資家にとってプライベート資産の中核となるアセットクラスへと成長してきた印象だ。
代表取締役社長 CIO
佐村 礼二郎氏
ただ、市場の不確実性の高まりに伴い、日本の機関投資家の間では「PC運用はDLのみで本当に大丈夫か」と心配する声も増えてきたようだ。その対策として、例えばアセット・バックト・ファイナンス(資産担保証券)や、アセット・ベースト・レンディング(資産担保融資)、あるいはよりリスクを取っていくオポチュニスティック・クレジットなどの複数の戦略をDLの補完戦略として組み合わせ、ポートフォリオ全体でのPCのリスク分散を図る動きが出てきている。
これまで注目されていなかった戦略に視線
ミャオ いま佐村様にお話しいただいたように、様々なPC戦略に投資の幅を広げていくことも選択肢として注目が高まっている。資本構造の劣後部分、たとえばメザニンやジュニア債務などに投資の視線を広げていく動きは、運用会社から見てどうか。
リネット 非常に意義深い視点だ。現在、多くの機関投資家はシニア・セキュアード・ローンといった保守的なPC資産中心の“土台”に、目標収益を達成するために劣後部分を上乗せしている格好だ。その上乗せ部分を拡大する議論が起こっていることにこそ、不確実性は残るもののPC投資の先行きに一定の楽観を抱く投資家心理が反映されているように思う。
ただし当然ながら、資本構造の下位に位置する資産に投資するとき、マクロ経済環境に対して不透明感があるなら確実により大きな資本リスクを取る構図になる。追加的なリスクを許容する準備が整っていない投資家は、シニア債に対して健全なレバレッジをかけることでリターンを高めるという選択肢がある。現状のように、グロス利回りが9.5〜10%ある環境では、たとえば1.5倍〜1.75倍のポートフォリオ・レバレッジを適用すれば、シニア債投資で15%前後の利回りを狙うことも可能だ。
ちなみに近年では、メザニンやセカンドリーンの貸付において、借り手に「PIK(支払利息の繰延)」を認める代わりに高い利回りを要求する手法がにわかに注目を集めている。ただし、我々チャーチルのように厳格な引き受け基準を持つ投資家は、伝統的なミドル・マーケットローンではPIKの導入には慎重な姿勢を崩していない。PIKの導入が過度なレバレッジの兆候であると考えているためだ。それよりも、借入金の総量を抑えつつすべて現金でのクーポン支払いによって安定した収益を確保することの方が好ましい。
増田 リネットさんの指摘はもっともだ。例えば、しっかりクーポン収入があるタイプの投資商品は、基本的にはキャッシュフローが早い段階で戻ってくるため、仮にその後何か問題が起きても、既に回収できている部分も含めて総合的なリカバリー範囲が広くなる傾向がある。一方、PIKのようなストラクチャーでは、何か問題が起きたときの回収率が低くなりやすい。クレジット投資ではデフォルト時の回収率がどれだけ見込めるのかも重要な視点である。
投資家としては、やはりしっかりとキャッシュフローが出るタイプのクレジットの方を重視したいところだ。その上でリスクの高い投資にどれだけ踏み込むかは、各投資家の投資方針や資産配分次第で、要は「どれだけリスクを取りたいのか」に行き着くだろう。
佐村 日本の投資家の場合はPC運用であまりリスクを取らず、安定的なインカムを期待する方がほとんどだ。そういった意味では、例えばDLなどをベース資産として、そこに補完的な形でオポチュニスティック・クレジットといった戦略を組み込むにせよ、ジュニア債務のように大きくリスクを取る形ではなく、あくまでシニア債務の枠組みの中でやや難易度の高い案件に取り組むという形になるのではないか。個人的にDLは、クレジットリスクや流動性プレミアムを取っていく投資だと捉えている。一方で、オポチュニスティック・クレジットは、同じシニアであってもマーケットタイミングや資本構造の歪みなど、案件ごとに異なるリスク要因が存在する。そのため、リスク・リターンの構造や特性が若干異なる。
私がいま投資家と話すとしたら、現在のようにマクロ経済環境の不確実性が高い局面では、どのような状況下でもリターンを狙えるという意味で、オポチュニスティック・クレジットのような戦略もポートフォリオに加える価値はあるとお伝えすると思う。ただし、そのような戦略は市場規模が小さいため、日本からのアクセスは限られるのも事実だ。メインの投資戦略として取り組むのではなく、あくまでサテライト的な位置付けになるだろう。
ただし、今後日本の金利水準が徐々に上がっていく中で、ジュニア債務など、これまであまり注目されてこなかったPC戦略に新たに投資妙味が生まれてくる可能性は頭に入れておきたい。
プライベート・クレジットのマネージャーに求められる「守りのアルファ」
リネット 話が少し戻るが、先ほど増田様が言及された「デフォルト時の回収率」は、今後より注目されると考えている。ここ数年、PC投資におけるデフォルトや損失発生が抑えられてきた中でその重要性が見過ごされがちになっているが、改めて投資家は各案件の”安全機能”に配慮する必要があるだろう。我々はドキュメンテーション(契約の条件整理と締結)などでこの点に非常に重きを置いている。
具体的にどのような投資家保護の仕組みが期待できるかは、投資対象のセクターによってもやや異なる。例えば、チャーチルの主戦場である米国の「伝統的かつコアなミドル・マーケット」は、契約内容にかなり手厚い投資家保護条項を期待できる分野だ。具体的には、財務維持条項、EBITDA調整項目の上限設定、配当等の支払いに関する制約などがきちんと盛り込まれることが多い。最近話題となっている、既存債務の見直しと再構築を行う「ライアビリティ・マネジメント・エクササイズ」に対する保護条項もカバーされ、スポンサー企業が不当な行為を行えないようになっている。
他方でより上位のマーケット(アッパーミドル・マーケットやブロードリー・シンジケーテッド・ローン市場)では、借り手企業の規模も大きくなる。そこではより多くのファイナンス手段が存在するため、交渉力のバランスは明らかにPEファンドや借り手サイドに傾いていく。そうなると、いざという時の投資家保護が十分に盛り込まれないケースも増える。
クリュッグ 欧州もまったく同様で、借り手企業のEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)が1億ユーロを超えるあたりから契約の内容が大きく変わり、より借り手が強気な内容の条項が多く盛り込まれる印象がある。その点、アークモントが力を入れる欧州ミドル・マーケットは、米国と同様に投資家保護条項がしっかり契約に盛り込まれる特長がある。
加えて、欧州ミドル・マーケットの場合、まだPCの提供は少数の大手レンダーに限られていることから、貸し手企業との交渉で行使できる影響力が相対的に大きく、アークモントが実際に過半数、あるいは単独での支配権を持つことも少なくない。そうすると他の投資家との交渉なしに権利行使が可能になる。支配権の大きさも回収率に直結するポイントだ。
改めて強調したいのは、PC投資は「どのセクターで投資をするか」が非常に大きな意味を持つということだ。契約内容も、競争の激しさも、マクロ経済の動きから受ける影響の大きさも、セクターによってまったく異なってくる。
ミャオ いまチャーチルとアークモントのそれぞれから話があったように、適切な勝負場所を選ぶことはPCマネージャーにとって重要な資質になるはずだ。ところで日本のお二人は、マネージャーにほかにどのような資質・スキルが重要だと考えるか。
増田 個人的に重視してきたのは、そのマネージャーがオリジネーション能力をしっかり持っているかどうか。従業員や貸出先の企業との関係基盤をしっかり持っていて、かつ広いカバレッジを持っている。その上で、実際に取引をリードし、交渉をしっかり行うスキルがあるマネージャーを選んできた。
次に重要なのはモニタリングで、スポンサーとのコミュニケーションも含めて、しっかりと状況を管理できることが期待される。そして最後に、ワークアウト(問題解決・再構築)能力。難しい状況になった場合に、債権者としてどのように債務を守り、対処できるかが焦点になる。単に契約書上のドキュメンテーションの巧みさだけでなく、事業計画の議論など多方面にわたる問題解決能力が必要だ。
佐村 いま増田さんがPCのマネージャーに重要な資質をほぼ説明してくださったと思う。ただ、エー・アイ・キャピタルでは、PEとPCでは、マネージャーに必要な性質が少し異なると考えている。というのも、PEの場合はリターンの上振れも望めるのに対し、PDやDLはリターンの上振れがほとんどないことから、PEマネージャーは「攻め」「守り」の両面のアルファ追求が期待される半面、PCマネージャーの勝負は主に「守り」のアルファの追求に終始すると考えられるためだ。
では、守りのアルファの追求、つまり損失回避に長けたマネージャーとはどのような人たちか。その判断のポイントとして、組織のスケールに注目すべきではないかと思っている。例えばPCはPEに比べると期待リターンが低いため、手数料の多寡は気になるポイントになる。そこでスケールメリットが発揮できるとファンドサイズも大きくなり、手数料の圧縮も可能になるだろう。
さらに、今後は不確実性の高まりに伴いクレジットイベントが増える可能性も高くなるため、その際にしっかりと対応できる体制を持つマネージャーを選定することが重要だ。そこで投資後のモニタリングや、何かイベントが発生した際の緊急対応が損失抑制に向けた重要機能となる。これは運用力というよりオペレーショナルな部分のアルファと考えられ、ここでもスケールが重要と言えるのだ。