トランプ関税による円と人民元のタンデムライズ
- トランプ関税の目的は行き過ぎた人民元安の解消か
- ニクソン・ショックとトランプ関税の類似性
- 弱腰外交が招いた人民元のダーティーフロート
- 米国を凌駕した中国のGDPと覇権的世界戦力
- 期待される円と人民元のタンデムライズ
トランプ関税の目的は行き過ぎた人民元安の解消か
トランプ米大統領による「相互関税」の目的は、中国の資本規制の撤廃と完全変動相場制移行によってもたらされる市場圧力を通じた、行き過ぎた人民元安の是正ではないだろうか。
ニクソン・ショックとトランプ関税の類似性

梅本 徹
1970年代初頭、米国の経常収支が継続的に赤字し、復興によって先進国となった日欧諸国と米国間に経済摩擦が勃発した。ニクソン政権のコナリー財務長官(当時)は、1971年8月、金とドルの交換を停止し、10%の輸入課徴金を導入、世界の金融市場は大混乱に陥った。
ジョージ・シュルツ(元米国務長官)とケネス・ダム(元米国務副長官)の両氏は、「コナリー財務長官は国際金融という廊下で二丁拳銃を発射しながらまさにテキサス流にシグナルを送った」と当時を振り返っている。
同年12月のスミソニアン合意によって、ドルは切り下げられ、輸入課徴金は撤廃、1973年3月には、変動相場制への移行が実現した。このニクソン・ショックに際して導入された10%の輸入課徴金は、米国が日欧の貿易相手国にドル切り下げと変動相場制を促す交渉の切り札と位置付けられる。
弱腰外交が招いた人民元のダーティーフロート
発足間もないブッシュ政権は、2001年に中国のWTO(世界貿易機関)加盟を承認するが、2003年には、米中間の経済摩擦が激化し、その矛先は再び通貨制度に向けられる。
米国は、中国が過去約10年間1ドル=8.28人民元にペッグしてきた固定相場制度を「第二のブレトンウッズ」とよび、変動相場制への移行を求めた。ニューヨーク選出のチャールズ・シューマー上院議員は、27%の関税引き上げを提唱し、ニクソン・ショックの再来も懸念される。
しかし、当時のスノー財務長官は、金融市場の混乱を回避する道を選択、2004年のG7(7か国)財務相・中銀総裁会議に中国を招待し、対話を重ねることで、2005年には、人民元の管理変動相場制(ダーティーフロート)移行が実現した。
米国を凌駕した中国のGDPと覇権的世界戦力
2016年に、中国のGDP(購買欲平価換算)が米国のそれを凌駕、習近平国家主席による覇権的な世界戦略が明確となる。
2017年に発足した第1次トランプ政権は、米中貿易戦争の火ぶたを切り、1993年にクリントン政権が開始した米中共存成長モデルに終止符を打った。この対立的な対中スタンスは、バイデン政権によっても引き継がれ、2025年1月に発足した第2次トランプ政権は、遂に「相互関税」によって、中国に対する対決姿勢を決定的なものとした。現在、金融市場は、ニクソンショック時と同様、大混乱に陥っている。
期待される円と人民元のタンデムライズ
日米経済摩擦を通貨政策の観点から振り返ると、ニクソン・ショックによって導入された変動相場制、1980年代の資本規制や実需原則の撤廃等の制度変更を通じて、市場圧力によってもたらされた著しい円高がわが国の経済成長率の継続的な低下を招いたとみることができる。
相互関税をニクソン・ショックの輸入課徴金と同様に、すでに先進国となった中国から何らかの譲歩を引き出す交渉の切り札とするなら、米国の矛先は再び通貨制度に向けられているのかもしれない。すなわち、日本の場合と同様に、中国が資本規制を撤廃した上で完全な変動相場制に移行し、市場圧力によってもたらされる、行き過ぎた人民元安の是正によって、中国経済の経済成長率低下が期待される。
今後、ドル人民元相場が、現在の著しい過大評価を修正するかたちで、中長期的な下落トレンドを辿るとすれば、ドル円相場もそれにつられる形で、将来的に1ドル=100円割れまで下落する可能性がある。
