資源権益の購入価格も左右する為替相場では、日本円とスイスフランが“逃避先”として注目を集めています。スイスは通貨高阻止へ無限の為替介入に踏み切りました。今の円相場をどのように見ていますか?

渡辺 為替相場は基本的にはビューティー・コンテストの世界であり、市場参加者の多くが良いと思う通貨の価値が上がります。しかし現状は「レッサー・アグリー・コンテスト」。グッドではないが、ベターだからという理由で円が買われているのでしょう。

しかし、日本も景気低迷が長引いており、震災もありました。

渡辺 円がレッサー・アグリー・コンテストの為替相場で評価されているのは、価格が急落する可能性がドルやユーロに比べて小さいと見られているから。日本銀行の過去のアクションを見て、多くの投資家はバーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長のようなドラスティックなQE(量的金融緩和)はやらないと思っているフシもあります。

世界経済が不安定な現在は、リターンの上積みよりも元本の安全性を第一に考えているのでしょう。

それにしてもここ最近のドルの価格急落は目を引きます。

渡辺 ヘッジファンドは別として、平均的な投資家は、工業生産や貿易、ポートフォリオ運用などの観点からグローバル経済・金融を見わたし、各通貨圏のウエートを踏まえ、それからあまり乖離しないようにするものです。かつて米国は世界のGDPの4割を占めており、特に1960~90年代はみんながドルを保有しておこうと考えていた時代だったのです。

しかし、今や米国のGDPは世界の3割に低下し、政治的指導力にも陰りが見られるようになってきた。「何か危なっかしいな」との印象を多くの投資家が抱いています。そのため、今世紀に入ってからの世界の投資家の基本的発想は、過去何十年間の累積である「ドルのオーバーウエート」を解消したいというものです。最近の「ドル安・円高」の根底には、このような歴史に裏打ちされた大きなうねりがあると考えています。

誕生直後のユーロにはドルに唯一対抗できる通貨との期待もありましたが。

渡辺 1999年に導入されたユーロは2000年秋に対ドルで0.8まで落ちましたが、その後は上がって、2008年夏には対ドルで1.6まで上昇しました。この頃は、ユーロが世界の単一基軸通貨になるとは思わないけれど、ドルとのデュアルカレンシーくらいにはなるのではと買った投資家も多かったようです。ただし、2010年初頭顕在化したギリシャ問題を契機に、やはりずっと持ち続けているのは何となく危ないと思われているような状況になっています。

為替の動きは貿易収支がカギとの論評も聞かれますが、私が財務省にいた頃(2007年に退省)でも、貿易決済目的の外貨売買は世界の為替取引全体の6分の1から7分の1ほどしかありませんでした。メインはポートフォリオ運用であり、年金基金などの機関投資家がリターンを得るにはどの通貨で運用すればいいかという極めてマネタリーな事象の結果なのです。

現在は、それを保有することで期待できるリターン、もしくはボラティリティの大小で通貨が選ばれ、投資家の注目を集めた通貨の価値が上昇する時代にあるといえるでしょう。いずれにせよ2012年11月の米大統領選までは先行きの見通しにくい状態が続きそうです。

来年秋までは円高状況が続く可能性もあるというわけですね。そんななか、JBICは2012年4月に日本政策金融公庫から分離され、新たに株式会社国際協力銀行として発足します。

渡辺 実は今年7月に大きな組織改編を行い、「資源・環境」「インフラ」「産業」という3つの営業部門制に整理しました。また、4月に成立した株式会社国際協力銀行法によって、先ほど申し上げた先進国向けの輸出金融のほか、期間1年以内のつなぎ資金を供与する投資金融などもできるようになっている。私自身は、来年4月の分離・独立に対して特別に構えてはいません。

民間銀行と「質的補完」

新しい国際協力銀行はどのような姿を目指しますか?

渡辺 政策金融機関としてのJBICには3つのファンクションがあると考えます。

1つ目はリーマン・ショック後に実施したようなカウンター・シクリカル・ファンクション。景気が低迷したら融資を絞るのではなく、反対に資金供給増に踏み切る存在でありたいと思います。

2つ目がカタリティック・ファンクション。日本語では触媒機能とでも言いましょうか。ここ数年、インフラや資源関連のプロジェクトではファイナンスが巨額になっている印象を受けます。先ごろJBICも参加したパプアニューギニアの大型LNGプロジェクトは総額1兆円を超えました。海外や地元の金融機関も多数参加する大型プロジェクトでは、私たちのような政府の信用をバックにした金融機関が取りまとめ役を務めたほうが進めやすいと思います。

3つ目は、プロジェクト進行中に問題が発生したとき仲介役を担うトラブル・シューティング・ファンクションです。2009年にアフリカのある国でクーデターまがいの事件が発生し、鉱物採掘プロジェクトがストップしました。同プロジェクトへの貸し手の一人であり、政策金融機関でもあるJBICが交渉の席につくことで、相手側も真剣に耳を傾けてくれました。あまりありがたくない仕事ですが、日本企業がより一層海外に活路を求めつつあるなか、今後はトラブル・シューティング・ファンクションを発動する機会も多そうです。

民間銀行とプロジェクトを奪い合うのではなく、それぞれが得意とする分野でサポートし合う「質的補完」をキーワードに、日本経済に資する政策金融機関を目指します。