金利上昇や銀行の伝統的な融資ビジネスの縮小、運用戦略として高いリターンが期待できるなどを背景にプライベートデット戦略の注目度が高まっている。中でも機関投資家が関心を寄せるのが欧州のプライベート・クレジット投資だ。この分野のパイオニアであるパーク・スクエア・キャピタルの創業者であるロビン・G・ドゥーマー氏と、日本拠点代表の麻生博文氏に、欧州クレジット投資の魅力や同社の運用スタイルについて聞いた。

パーク・スクエア・キャピタル

ニッチでもトップクラスの有力企業を有する欧州

パーク・スクエア・キャピタルはメザニン・ファイナンスを皮切りに、欧州のプライベート・クレジット市場がまだ黎明期であった2004年に設立した資産運用会社だ。2007年からはシニア投資にも進出し、中堅・中小企業(ミドルマーケット)へのダイレクトレンディング(DL)を手掛けるようになった。現在は欧州、米国、アジアに8つの拠点を設けており、2023年10月末時点の預かり資産残高は約145億ドル(約2兆1660億円)に至る。

2023年10月5日に来日した創業者のロビン・G・ドゥーマー氏は、日本の機関投資家との交流の中で、DL投資への関心度や理解度の高さに感銘を受けたという。

ロビン・G・ドゥーマー氏
パーク・スクエア・キャピタルLLP
創業者/マネージング・パートナー
ロビン・G・ドゥーマー

「日本の機関投資家の流動性クレジット投資の大きさは有名ですが、想定以上にプライベートデット(PD)やクレジット投資に多くの資金を振り向けていました。また、まだ投資には至っていないものの、投資候補先として洗練された知識を持つ機関投資家も多く見受けられました。日本の金利も変化している中で、海外のクレジット投資が日本の機関投資家にとって重要な投資対象の一つと捉えられていることは、当社にとって喜ばしいことです」(ドゥーマー氏)

同社が日本に参入してきた当初の顧客は、大手銀行や生命保険会社が中心だった。しかし近年は年金基金や事業法人の顧客も増えるなど、投資家層の裾野が広がりつつある。そうは言っても、一般的な日本の機関投資家のポートフォリオは欧州より米国への投資比率が高い。

パーク・スクエア・キャピタル・ジャパン日本拠点代表、日本ビジネス責任者の麻生博文氏は「私たちが主な投資先とする欧州市場は米国より歴史が浅いものの、投資機会を多く見出すことができます。2022年度はウクライナ戦争により欧州への影響について慎重に行方を見守る動きがありましたが、今では地域分散の観点からもグローバルの機関投資家がリサーチしています」と語る。

実際、欧州についてもここ20年で、PDやプライベートエクイティ(PE)、レバレッジド・バイアウト(LBO)など多数のアセットクラスの市場が大きく成長してきた。

「欧州は米国と比べ、健全でデフォルトリスクが低水準な家族経営企業やコングロマリット企業が、初めてLBOで資金調達したり事業を売却したりする案件がまだ多くあります。欧州には未だニッチながらも各地域で市場シェア率の高い事業などを展開する優良企業が点在している点も魅力的です」とドゥーマー氏は説明する。

PEのリターン平均を上回る好成績なDLの可能性

金利上昇やスイスのクレディ・スイス経営危機といった昨今の情勢から、欧州の銀行は融資基準をより厳格化し、LBOなどの案件に総量としては消極姿勢である。米国は中小企業の資金調達手段が豊富であるのに対し、欧州は伝統的に銀行が中小企業向けの融資市場をほぼ独占してきた歴史が長いため、中堅企業が資金調達する手段は米国より限られる。

麻生 博文氏
パーク・スクエア・キャピタル・ジャパン
日本拠点代表/日本ビジネス責任者
麻生 博文

「健全で信用リスクが限定的で、質の高い事業を展開しているにも関わらず、銀行からの融資が受けられない中堅企業へ資金を提供することは当社のようなプライベート・クレジット運用会社にとって一種の使命とも言えます」(麻生氏)

足元では、インフレ高進やサプライチェーン問題、資本市場のタイト化、金利上昇などが重なり、LBO市場は相当なボラティリティに見舞われている。中でもゼロ近傍の金利水準から4~5%まで引き上げられたことで、LBO市場のデフォルト率の上昇が懸念される。

「特にB to C事業を展開している企業の多くは寡占業種と言え、コスト高から次の借り換え満期よりも前に運営難に至るケースが想定されます。そうした中で堅実なクレジット(借り手)に融資しているかどうかで、DLは今後のパフォーマンスに大きな差が出てくるでしょう」(ドゥーマー氏)

パーク・スクエア・キャピタルではメザニンからシニアまでの運用戦略があり、投資家としては様々なリスク/リターンの選択が可能であるが、一方で、PE業界のリターン展望については、やや低下するという見方もある。Preqin調査ではPEの中央値リターンが15.9%の中で、DLからの借り入れコストが上昇しているということは、リターン格差が小さくなる可能性もある。

「PEをはじめ多くの運用戦略のリターンの展望が厳しくなる中、ベース金利の変化と共にDL戦略は相対的に投資妙味が高まっていると言えます」(ドゥーマー氏)

メザニンで培ったDD手法で優良な融資先を厳選する

同社の経済環境に左右されにくい安定したパフォーマンスの秘訣は、慎重なクレジット選定とポートフォリオのモニタリングの徹底だ。「当社の主な投資対象はソフトウエア、ヘルスケア、ビジネスサービスにおいて利益率の高いB to B企業です」(麻生氏)。例えば、参入障壁が高い業界の寡占企業は、物価上昇によるコスト増を提供するモノ・サービスに価格転嫁しやすく安定的な収益が見込め、有望な投資対象となり得る。

「当社は、メザニンで培ってきた厳格なデューデリジェンス(DD)をシニア運用でも適用しています。メザニンは、資金を提供するものの経営に介入するようなことはほとんどありません。そのため事前の調査が非常に重要です」(ドゥーマー氏)

近年、PE企業はドライパウダー(待機資金)が歴史的な水準まで積み上がり、デットを提供するパートナーを常に模索している。パーク・スクエア・キャピタルにもP E 企業から調査レポートは届くが、成長率見通しなどは楽観的なものも含まれているため、同社はそうした調査レポートを鵜呑みにせず、必ず多方面から融資に値するか再検証を行う。

具体的には、市場自体の伸びしろや、競合、モノ・サービスの競争力、サプライヤー分析など事業の根幹の分析を重視する。「規制に左右されかねない事業や、潜在的な訴訟リスクを孕む事業はキャッシュフローへの影響があるため投資対象外としています」(麻生氏)。

実際、新型コロナウイルス下でも同社の投資先でクレジットの懸念のあった先は1件程度であり、その案件についてもワークアウトレベルの交渉などにより既にリターンを出してイグジットしている。「当社の投資先は、デューデリジェンス時に仮に経営権を持つことになってもよいような案件に限られます。それはとても慎重な選別が必要なことであり、無理に投資することは決してありません」(ドゥーマー氏)。

メザニンとシニアのどちらも大規模なファンドとして組成するノウハウを持つパーク・スクエア・キャピタルには、通常はシンジゲート化されるような超大型案件も、PEファンドから早期段階で声がかかるという。今後DLニーズが高まるにつれ、パーク・スクエア・キャピタルが案件のリード的立場として債権者としての交渉を代表する案件が増えていくことが期待される。

「20年にわたり欧州のクレジット投資を提供してきた当社は、自社の運用に関する情報だけでなく、市場見通しや足元のトレンド、DL投資におけるナレッジについても発信していく方針です。日本の機関投資家の皆様が欧州のクレジット市場へアプローチする際に、ぜひサポートさせていただければ幸いです」(麻生氏)

当記事は、パーク・スクエア・キャピタルLLPならびにパーク・スクエア・キャピタル・ジャパン株式会社(当社)の紹介ならびに現在の市場環境における当社の見解を述べたものであり、情報提供を目的として作成されたものです。当記事は特定の金融商品の勧誘を行うものではなく、また当社承諾なしに複製・転用はすることはできません。内容については信頼できると思われる情報に基づき作成されていると考えておりますが、その正確性及び完全性を保証するものではありません。

パーク・スクエア・キャピタル・ジャパン株式会社

お問い合わせ
パーク・スクエア・キャピタル・ジャパン株式会社
電話:03-4579-8445
Email: hiro.aso@parksquarecapital.com
東京都千代田区大手町1-7-2 東京サンケイビル