今回は日立ハイテク企業年金基金です。同基金は今年度から少なくとも3年間、キャッシュバランス・プラン(CBP)の利息クレジットを引き上げ、受給者への年金給付を増額することを決めました。例のない加入者・受給権者への還元策を打ち出すことができた背景や、年金資産運用に対する独自の哲学などを常務理事兼運用執行理事の遠藤健一さんに伺いました。

遠藤健一さん
日立ハイテクは、主要製造拠点の茨城県那珂地区にバスケットボール女子日本リーグ所属の「クーガーズ」を擁する

知られざる世界シェアトップ企業

不勉強を恥じるばかりですが、「株式会社 日立ハイテク」という会社を全く知りませんでした。

遠藤 事業再編や社名変更などが続きましたので、無理もありませんよ。せっかくですから、まず当社自体のことを簡単にご説明します。

株式会社 日立ハイテクの沿革と概要

1947年 日製産業(株)設立。先端産業分野における専門商社
2001年 日立製作所の計測器事業と半導体製造装置事業を承継。社名を(株)日立ハイテクノロジーズと変更
2020年 (株)日立ハイテクに商号変更。その後、上場廃止し日立製作所の完全子会社
【主力事業】ヘルスケア、ナノテク(半導体)、「見る・測る・分析する」能力を活用するソリューション

ご覧のような経緯から、商社とメーカーの2つの機能を持つユニークな業態です。

最近、半導体事業のことを多少勉強しているのですが、半導体製造プロセスで使われる走査電子顕微鏡では世界中の75%のシェアを持っていると知り、驚きました。

遠藤 そうです。ヘルスケアでの分析ツールであるDNAシーケンサー(配列解読装置)だと世界シェアは95%になります。

言わば、「知られざる世界シェアトップ企業」ということですね。では本題の企業年金基金の概要を教えてください。

日立ハイテク企業年金基金の概要

  • 所在地/東京都港区虎ノ門1丁目
  • 設立年月/2004年10月(代行返上し、厚生企業年金から企業年金基金に)
  • 資産総額/1011億円
  • 加入者数/7818人 受給者数/3028人 待期者数/1045人
  • 予定利率/2.5%
    (いずれも2023年3月末現在)

資産急増し財政剰余377億円

遠藤 当基金は企業年金基金になった時点でCBPを導入しました。ご案内のようにCBPの利回りは「再評価率」といって、国債の利回りなど客観的な指標を基に決めています。当基金では「新発10年国債の過去1年平均」を採用していますが、長く続く超低金利で利回りが低く抑えられています。制度上は仕方ないのですが、受給側には不利な状況が続いていたわけです。

しかし年金基金を運営する立場から言えば、運用資金に余裕があるということですし第一、他の基金で年金給付を増額するという話は聞いたことがありません。

遠藤 確かに総幹事の信託銀行や生命保険会社にも確認してもらいましたが「前例がない」とのことでした。しかし、おかげさまで当基金では年金資産がこのところ急増して、今年2023年3月末で377億円の財政剰余が生まれました。これは、格付投資情報センター(R&I)が推計した国内の確定給付型年金(DB)の平均的な利回りで試算した理論値を200億円ほど上回るレベルでした。

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