インフレ率の高止まりで日銀は近く政策修正へ
電力規制料金の引き上げが6月の消費者物価指数の押上げ要因
2023年6月の東京都区部のコア消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、前年同月比3.2%上昇した。伸び率は5月の3.1%から小幅ながら加速、季節調整済み指数でみると、前月比0.3%上昇した。東京電力が申請していた家庭向け規制料金の値上げが認可され、6月から電気代が引き上げられたことが影響した。
都区部指数に遅れて公表される全国の指数も、6月はコアベースで前年同月比3.3%の上昇と前月の3.2%から加速すると予想される。大手電力10社中、中部、関西、九州を除く7社が規制料金を引き上げたことが押上げ要因になる。
一方、電気代などの影響を含まない「生鮮食品・エネルギーを除く総合指数」の前年比上昇率は、都区部ベースで2023年5月の3.9%から6月は3.8%に鈍化した。新年度入り後の価格改定で小売価格の引き上げに動いた企業が多く、6月は値上げの動きが一服したとみられる。
食料・エネルギー以外の品目にも値上げの動きが広がる
もっとも、2022年来の原燃料高に伴う価格転嫁は道半ばの状況で、多くの企業はコスト上昇分を製品価格に十分に転嫁できていない。値上げを進めた一部商品では販売数量が減少しているものの、企業は消費の動向を見極めながら、この先も断続的に価格を引き上げていくとみられる。
こうした動きはサービス業にも広がっている。代表的なレジャー施設である東京ディズニーリゾートは2023年10月から入場料を最大1500円引き上げると発表した。人件費や光熱費を中心に運営コストが上昇しているためで、その他の遊園地やレジャー施設でも入場料金を引き上げる動きが広がっている。
個人消費が総じて底堅さを維持していることもあって、当面も値上げの動きが続くとみられ、消費者物価上昇率は高止まりしよう。2022年後半の上昇ペースが高かった反動で今年後半の伸びは鈍化するものの、2023年末までのコア消費者物価の上昇率は物価安定の目標である2%を上回って推移すると予想される(図表)。
なお、この予測は電気・ガス代の負担軽減策が2023年9月(10月検針分)までで打ち切られ、10月(11月検針分)以降は通常の水準に戻ることを前提としている。負担軽減策が延長された場合、消費者物価上昇率は今年11月以降、予測値対比で1.0%程度押し下げられる可能性がある。
日銀は早ければ7月会合でYCCの修正へ
物価上昇が定着してきたことを受けて、大規模な金融緩和政策も転換点を迎えつつある。今年4月に日銀総裁に就任した植田氏は、「粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴うかたちで2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現する」と表明しているが、金融政策を今のかたちで据え置く可能性は低いだろう。
近く想定されるのは、YCC(長短金利操作)の修正だ。過去に日本経済新聞へ寄稿された記事のなかで、植田総裁は「長期金利コントロールは微調整には向かない仕組み」と指摘している。日銀内でも「早い段階でYCCの見直しを検討すべき」との意見が挙がっており、比較的早い段階でなんらかの政策修正が打ち出されると考えられる。
筆者もフォーキャスターとして参加している日本経済研究センターのESPフォーキャスト6月調査によると、回答があったエコノミスト36人のうち15人が7月27~28日の金融政策決定会合でYCCの修正が決まると想定している。具体策としては、長期金利誘導目標の変動幅拡大が最多で、誘導目標の対象年限短期化や撤廃なども挙げられている。
昨年来の物価上昇の主因はあくまでもコストプッシュによるものであり、2%の物価安定の目標が達成できたわけではないが、少なくともデフレ状況からは脱却している。金融政策の持続性という観点からも現行の緩和政策を修正する時期を迎えている。
植田総裁は拙速な緩和修正には否定的だが、YCCの修正は緩和政策の持続性を高める手段であると説明することは可能だ。YCCの修正に関して、植田総裁は「ある程度のサプライズはやむを得ない」とも語っており、政策修正は事前に示唆することなく決定されるとみている。
次回7月の会合後に公表される展望レポートでは、物価見通しが引き上げられる可能性が高く、早ければそのタイミングで日銀はYCCの修正に踏み切ると予想している。