1995年以前に逆戻りする米国の通商政策と1ドル=130円までの円高の可能性
- 「トランプ2.0」がもたらすドル安予測が現実化
- トランプ政権による為替政策のドル安大転換
- スタグフレーションに陥る米国経済
- 日銀は4月1日に向けて金融引き締め姿勢を強化
「トランプ2.0」がもたらすドル安予測が現実化
筆者は、2024年の米国大統領選挙キャンペーン中より、「トランプ2.0」は大幅なドル安を招来すると論じてきたが、いよいよ、米国の通商政策が1995年以前に逆戻りする可能性が高まってきた。
トランプ政権による為替政策のドル安大転換

梅本 徹
トランプ大統領は、2025年3月3日に、「中国や日本などが自国の通貨を切り下げる場合、アメリカにとって非常に不公平で不利な状況をもたらす」と述べた。これに先立つ1月20日付け「米国第一の通商政策」に関する覚書と2月13日付け「相互関税」に関する覚書は、いずれも「為替操作」に言及している。また、ベッセント米財務長官は、2025年2月14日に、「我々は為替操作も注視している」と述べていた。
故マッキノン・スタンフォード大教授は、1997年の論文「円高シンドローム」の中で、1970年から1995年までのドル安円高は、経済学的には不合理な米国の通商圧力とそれに迎合した日銀の引き締め的な金融政策の産物であるという趣旨のことを述べている。
一方、1995年4月、当時のクリントン政権下で為替政策を担当していたルービン財務長官は、1970年以降実施されてきたドル安政策の大転換を図った。以降、歴代米財務長官は、「米国の経常赤字は同国の貯蓄・投資バランスが反映されたものであり、サービス化が進展した米国経済にとって、海外からの資金流入の助長を通じて国内投資を誘発することが重要」との観点から、「強いドルは米国の国益」との発言を繰り返してきた。
このような中、2015年2月14日のベッセント財務長官による「米国が強いドル政策を採っているからといって、他国が通貨安政策を採っていいことにはならない」との発言は、再び米国の通商政策がドル安へ転換した兆候と認識すべきである。
スタグフレーションに陥る米国経済
これまで金融市場は、トランプ政権による関税引き下げを交渉の”bargaining chip”(切り札)と位置付けてきた。しかし、同政権が真剣に二国間の貿易赤字削減を目論んで関税をやみくもに引き上げるのであれば、サービス化と空洞化が進展した米国経済は、間違いなくスタグフレーションに陥るであろう。
最近の米国株価の下落はそれを予見したものと考えることができる。これもまたドル安要因である。
日銀は4月1日に向け金融引き締め姿勢を強化
さらに、マッキノン氏が指摘した通り、米国の政策転換は、今後日銀に米国の通商圧力に迎合した引き締め気味の金融政策を強要する可能性が高い。
トランプ大統領が1月20日に署名した「米国第一の通商政策」に関する覚書には、「財務長官は、貿易相手国のドルに対する為替政策をレビューし、国際収支の有効な調整を妨げ相手国に貿易上不公正な競争優位性を与えている為替操作やミスアラインメントへの対抗策を推奨し、為替操作国と認定すべき国を特定する」「財務長官は4月1日にまでに大統領に報告する」と記されている。
また、2月13日に署名された「相互関税」に関する覚書には、「公正化かつ相互化のための計画」として検証すべき点の中に、「為替レートが市場価値から乖離することを招き、米国民に不利益をもたらす政策や慣行」が含まれている。
米財務省は、かねてより、半期為替報告書を通じて、貿易相手国を、(1)対米貿易黒字の大きさ、(2)経常黒字の対GDP比率の大きさ、(3)持続的で一方的な為替介入の有無の観点から精査し、為替操作国への認定を行ってきた経緯がある。
日本は、直近2回の報告書で、(1)および(2)に関して“クロ”と判定されているが、ここ数年間における継続的な円相場の下落は主に日銀による金融緩和の結果であり、しかも実施された為替介入はドル売り介入であるため、為替操作国に認定されていない。
しかし、トランプ政権にこれまでの理屈が通じる保証はない。2019年には、ECB(欧州中央銀行)の利下げを通じたユーロ安に関して、当時のトランプ大統領とドラギ総裁の間で論争が繰り広げられた。
ドル円相場は、クリントン政権がドル高政策転換を果たした1995年4月以降、名目87%、実質217%も上昇している(図表)。

日本政府には、トランプ政権との経済摩擦を避けるために、為替操作国の報告期限である4月1日に向けて、外国為替市場において明確な円相場の上昇を演出することが求められよう。少なくとも、ドル円相場が、160円に向けて上昇を続けるような事態だけは避ける必要がある。それには、日銀が金融引き締め姿勢を強めることが肝要と思慮される。