商業用不動産を巡るリスクの総点検・第5回 債券セクター~REIT社債と商業用不動産ローン担保証券~
米欧を中心に商業用不動産(CRE)市況の悪化やそれに伴う銀行の経営不安などが懸念されています。2024年2月には米地銀ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)やCRE向け融資専門の独中堅ファンドブリーフ銀行で関連損失が明らかになり、市場に動揺が広がりました。また、米連邦準備理事会(FRB)の金融安定報告書の中でも金融システムに対するリスクとして継続的に挙げられています。市場の中でもCREに関するリスクが懸念されている一方で、多くの取引がプライベートであることや様々な資産クラスやセクターが関係することも相まって、その全体像を見通すのはなかなか容易ではありません。
本連載ではCRE市場と関連する資産クラスの動向について解説することで、そのリスクの所在と大きさをできるだけクリアにしたいと考えています。最終回となる第5回は債券セクターとしてREIT社債とCREローン担保証券(CMBS)を概観します。
1.グローバル債券市場に占めるCRE関連セクターの比率は限定的
まず、CRE関連セクターであるREIT社債とCMBSのグローバル債券市場に占める比率を確認します。図表1はBloombergグローバル総合指数(除く日本)の構成比の一部ですが、2024年6月末時点でCMBSとREIT社債の構成比はそれぞれは0.7%、0.5%程度となっており、CRE関連セクターの比率は限定的となっています。
セクター | 構成比(%) |
CMBS | 0.7 |
Agency CMBS | 0.4 |
Non Agency CMBS | 0.4 |
Financial Institutions | 7.9 |
Banking | 5.3 |
Brokerage Asset Managers Exchanges | 0.3 |
Finance Companies | 0.2 |
Insurance | 1.2 |
Other Financial | 0.3 |
REITs | 0.5 |
2.REIT社債~スプレッドは2023年の米地銀破綻時に拡大もその後縮小傾向~
図表2はREIT社債のセクター構成比を示したものです。第1回で紹介したCRE市場全体のセクター構成比と比べると商業施設の比率が高いのが特徴的ですが、オフィスや集合住宅の比率は市場全体並みとなっています。
図表3はREIT社債の指数とスプレッドの推移を示したものです。指数は2020年のパンデミック時に大きく調整した後、回復基調にありましたが、2022年以降、金利上昇を受けて再度下落しています。足元は金融政策の転換が視野に入る中、回復の兆しが見られます。スプレッドはパンデミック時に大きく拡大した後は経済活動の再開などを背景に縮小傾向にありましたが、2023年の米地銀破綻を契機とした金融不安時に再拡大しています。その後は縮小傾向にあるものの、オフィスセクターの拡大幅は他セクターと比べて大きく、足元でもスプレッドが開いたままとなっています。
3.CMBS~一部格付のスプレッドはパンデミック時の水準に~
図表4はBloomberg米国CMBS指数の格付構成比です。AAAやAA格の高格付グループが占める比率が約95%で大半となっています。過去のデータによるとCMBSのローンが棄損する可能性があるのはBBB格以下とされています。図表1に示した通り、グローバル債券市場に占めるCMBSの構成比は1%未満であることから、仮にBBB格の一部でデフォルトが起きても債券市場全体への影響は限定的と言えそうです。
構成比(%) | |
AAA | 67.2 |
AA | 27.4 |
A | 3.4 |
BBB | 2.0 |
合計 | 100.0 |
図表5はCMBSの指数とスプレッドの推移を示したものです。CMBS指数もパンデミック時に大幅調整した後、回復基調にありましたが、その後の金融引き締めによる金利上昇などを背景に軟調な値動きとなっています。特に相対的に格付けが低いBBBやA格のスプレッド拡大は顕著で、BBB格についてはパンデミック時の水準までスプレッドが拡大しています。上述の通り、CMBSのローンが棄損する可能性があるのはBBB格以下とされていることから、足元のスプレッド拡大はCRE市場の市況悪化に伴うローンのデフォルト懸念が重荷となっているようです。
清水 英彦(しみず・ひでひこ)
ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ
ポートフォリオ・ストラテジスト
2006年、ステート・ストリート投信投資顧問(現ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ)入社。業務管理部・運用評価グループにてポートフォリオのパフォーマンス計測・分析を中心に、クライアント・レポーティング、リスク分析などを幅広く担当。2009 年より同グループ・マネージャーとしてチームをけん引し、パフォーマンス分析のクオリティの向上、プロセスの効率化・安定化に貢献。2019 年12 月、運用部に転属。ポートフォリオ・ストラテジストとして株式インデックス運用、スマート・ベータ、ESG などのプロダクトを担当。上智大学法学部国際関係法学科卒業。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA®)。国際公認投資アナリスト®。