トランプ政権の対日意識の本音とは……
国内優先の色が濃くなった第2次トランプ政権
2025年4月1日現在、アメリカのトランプ政権が輸入自動車に一律25%の追加関税を課す政策を打ち出し、日本政府の適用除外要請は受け入れられなかった。この政策の背景には、トランプ政権の経済ナショナリズムと対日意識の複雑な本音が見え隠れする。
まず、トランプ政権が自動車に25%の追加関税を課すに至った背景には、「アメリカ第一主義」に基づく貿易赤字削減と国内産業保護の強い意図がある。トランプ大統領は選挙戦中から、米国の貿易赤字を問題視し、特に自動車産業を保護する姿勢を明確に示してきた。2024年の対米輸出データによれば、日本の自動車輸出は約6兆円を占め、米国の対日貿易赤字に寄与する主要品目である。トランプ政権は、この赤字を縮小するため、関税を恒久的な手段として位置づけ、相手国から譲歩を引き出す交渉材料としてだけでなく、直接的な経済効果を狙ったと考えられる。
次に、日本政府の適用除外要請が受け入れられなかったことは、トランプ政権の同盟国に対する認識を如実に示している。過去のバイデン政権では、鉄鋼・アルミニウム関税で日本やEUに一定の除外措置を設けたが、トランプ政権は同盟国と非同盟国を区別しない方針を明確にしている。例えば、2019年の日米首脳会談で交わされた「自動車への追加関税は課さない」との合意があったにも関わらず、今回それを無視したことは、トランプ政権が過去の約束よりも現在の国内優先を重視している証左である。
さらに、対日意識のホンネを探ると、米国が長年抱く「不公平な貿易慣行」への不満が根底にある。米国通商代表部(USTR)の報告書では、日本の自動車市場における非関税障壁が批判されてきた。具体的には、安全基準や環境規制が米国車にとって参入障壁となり、米国車の日本市場シェアが低いことが問題視されている。また、日本政府の燃料電池車(FCV)への補助金がトヨタを優遇し、外国車を排除しているとの見方も強い。トランプ政権は、これらを「非関税障壁」として関税正当化の口実とし、日本を単なる同盟国ではなく、経済的競争相手と見なしていることがうかがえる。
加えて、米国内の政治的圧力も無視できない。自動車産業は雇用創出の要であり、ラストベルト地域の労働者支持を得るため、トランプ大統領は強硬策を採る必要があった。日本車への関税は、国内生産回帰を促し、雇用を守る象徴的な政策として機能する。一方で、日本の自動車メーカーは米国で生産拠点を拡大してきたが、輸入依存度が高い部品や完成車への関税は、日本経済に打撃を与える。試算では、日本のGDPを0.2%押し下げる可能性があり、産業空洞化への懸念も高まる。
最後に、トランプ政権の対日意識の本質は、経済的実利主義と大国間競争の投影である。日本を標的に含めることで、中国やEUへの牽制も意図している可能性がある。つまり、日本への関税は単なる二国間問題ではなく、グローバルな貿易戦争の一環と捉えられる。トランプ政権は、日本が米国との関係を盾に抵抗することを見越しながら、あえて一律適用を押し通した。この強硬姿勢は、経済的優位性を維持しようとする米国の本音を露呈している。
結論として、トランプ政権の自動車関税は、貿易赤字削減と産業保護を目的とした経済ナショナリズムの産物であり、日本政府の要請が退けられた背景には、同盟国への配慮よりも国内優先を選んだ姿勢がある。対日意識のホンネは、不公平感と競争意識に根ざし、日本を経済的対抗馬と見る視点が顕著である。この政策は日米関係に新たな不和を生むことになった。
和田 大樹
株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役社長 CEO
一般社団法人 日本カウンターインテリジェンス協会 理事
株式会社 ノンマドファクトリー 社外顧問
清和大学講師(非常勤)
岐阜女子大学南アジア研究センター 特別研究員
研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者として安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として、海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。特に国際テロリズム論を専門にし、アルカイダやイスラム国などのイスラム過激派、白人至上主義者などテロ研究を行う。テロ研究ではこれまでに内閣情報調査室や防衛省、警察庁などで助言や講演などを行う。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会、防衛法学会など。多くのメディアで解説、出演、執筆を行う。詳しい研究プロフィールはこちら