高校授業料実質無償化が4月の消費者物価指数に影響

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉

東京都区部消費者物価指数(中旬速報値)は概ね調査月の最終週の金曜日午前8時30分に公表されている。翌月の第3金曜日午前8時30分に公表される全国の消費者物価指数に先立ち、先行指標として東京都区部(中旬時点)のみの結果を速報として公表するものだ。

2024年4月26日に公表された4月の東京都区部消費者物価指数(中旬速報値、2020年=100)は天候などの影響で価格変動が大きくなりやすい生鮮食品を除く総合が106.4、前年同月比はプラス1.6%上昇と3月のプラス2.4%から0.8ポイント縮小した。生鮮食品を除く総合の上昇は32カ月連続だが、2022年3月プラス0.8%以来の低い上昇率となった。

4月東京都区部消費者物価指数・総合指数・前年同月比は3月のプラス2.6%からプラス1.8%に鈍化した。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数・前年同月比は3月のプラス2.9%からプラス1.8%に鈍化した。

東京都では2024年度より高校の授業料助成の所得制限を撤廃し実質無償化した。これが4月の消費者物価指数に影響した。高等学校授業料(公立)の2020年=100とした指数は3月までの100.0から5.5に低下した。高等学校授業料(私立)は3月までの100.9から38.7に低下した。

また、東京23区では小中学校の給食費無償化が実現したことも影響した。学校給食の2020年=100とした指数は2023年3月で103.7だったが、9月51.3、2024年3月35.7と給食費無償化を実施する特別区が増えるたびに低下し、2024年4月に遂に0.0になった。

前年同月比をみると、4月の私立高校の授業料はマイナス61.7%低下した。3月はプラス0.6%上昇だった。4月の公立高校の授業料はマイナス94.5%低下した。3月は0.0%と横ばいだった。

総務省によると、高校授業料無料化の影響を除いた伸び率は、総合でプラス2.3%(寄与度がマイナス0.49ポイント)で、除く生鮮食品ではプラス2.1%(同マイナス0.51ポイント)との試算だ。3月の前年同月比からは各々0.3ポイントの低下にとどまる。

但し、同じ4月29日に発表された4月の大阪市消費者物価指数だと、総合は・前年同月比はプラス2.4%で3月と同じ伸び率。生鮮食品を除く総合・前年同月比はプラス2.0%で3月のプラス2.3%から0.3ポイントの鈍化にとどまった。大阪市では大学授業料(私立)やPTA会費(小学校)の上昇があり、授業料という項目は上昇している。

通常は、先行的に発表される東京都区部消費者物価指数・前年同月比の前月との変化幅と全国消費者物価指数・前年同月比の変化幅が概ね一致することが多い。

しかし、4月の全国消費者物価指数では、他の地域の多くが東京都のような無償化を4月に実施できていないと思われるので、影響はあまり大きくないと思われる。東京都区部消費者物価指数の3月からの変化幅を4月の予測にそのまま使うことは好ましくないと思われる。

【図表1】東京都区部消費者物価指数・注目の項目・指数の推移(2020年=100)
東京都区部消費者物価指数・注目の項目・指数の推移
出所:総務省

外国パック旅行費のデータ収取方法の変更で消費者物価指数が上昇

先行して発表された東京都区部消費者物価指数と全国消費者物価指数との動きが乖離する現象は意外な形で2024年1月分でも発生していた。

全国1月分での外国パック旅行費の動きだ。全国消費者物価指数で、外国パック旅行は前年比プラス62.5%と2023年12月の0.0%から大幅に上昇した。外国パック旅行費の高騰はデータ収取方法の変更によるものだ。

Webスクレイピングによる物価データ収集を外国パック旅行費だけは2020年1月に開始した後、コロナの影響により2021年1月から停止していた。海外への渡航が制約されたため、安定的にデータが取れなくなったからだ。

2023年5月に政府が大幅にコロナの制約を緩和した後、Webスクレイピングによる収集自体は再開したものの、安定的に収集できるかを確認する時間が必要だったという理由で、実際に公表資料に反映させたのは、全国の2024年1月分からだ。事前のアナウンスがない状態で、3年分の価格変化が一気に反映され、前年同月比で0.2ポイント全体の消費者物価指数の上昇率が高まった。

外国パック旅行費のデータ収取方法変更をまず1月全国消費者物価指数に反映させ、東京都区部消費者物価指数では2月中旬速報値の公表時に過去に遡って1月分がプラス62.9%に上方修正された。

東京都区部消費者物価指数の1月中旬速報値では上昇を反映させず、全国1月分発表に際し事前の告知もなかった。そのため、ほとんどのエコノミストの1月全国消費者物価指数の予測は下方に外れた。

物価高への補助政策の縮小・終了などで前年同月比上昇が予測される電気代、都市ガス代

2024年4月の東京都区部消費者物価指数の前年同月比の動きをみると、生鮮食品を除く食料はプラス3.2%と3月プラス4.6%から上昇率が縮小し、2022年6月のプラス3.1%以来の低い伸び率になった。

2023年4月の値上げから1年が経ち、アイスクリームやチョコレートの上昇率が縮小した。また、飼料代とエネルギー価格上昇や、鳥インフルエンザの影響で、2023年6月にはプラス33.2%まで上昇率を高めた鶏卵はマイナス2.2%の低下と21年4月マイナス0.1%以来のマイナスに転じた。また2019年9月マイナス4.2%以来の下落率になった。

こうした、価格が落ち着いてきた生鮮食品を除く食料などの動きとは逆に、価格上昇が見込まれるのが、電気代などだ。4月の電気代はマイナス2.1%低下で3月のマイナス3.0%から下落率が縮小した。

都市ガス代も3月のマイナス12.0%から下落率を縮め、マイナス7.0%の低下となった。4月の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」による押し下げ効果(寄与度)は総務省の試算値によるとマイナス0.45%(内訳:電気代はマイナス0.31%、都市ガス代はマイナス0.14%)である。

電気・ガス価格の物価高対策の補助金は24年4月の使用分まで講じられ、5月の使用分については激変緩和の幅を縮小することになっている。電気代、都市ガス代は目先上昇率を高める。支払い月を翌月とみて、6月分・7月分請求分で補助政策の縮小、補助政策の終了となり、物価押し下げ効果がなくなる。

それに加え、5月からは 再エネ賦課金も値上がりする。再エネ賦課金は、再生エネルギーで創った電気を優遇された価格で買い取る固定価格買取制度で、必要な費用を電気の使用者から集める料金のことだ。

2023年度は1.40円/kWhと2022年度の3.45円/kWhから大きく値下りしていたが、2024年度は3.49円/kWhと前年度に比べ1kWh当たり2.09円値上りする。2024年度分の適用期間は2024年5月~25年4月になるので、5月の使用分電気代は補助政策の縮小と併せかなりの上昇となろう。また、足元の燃料価格や円安の動向からみて先行き追加の値上げが予想される。

【図表2】東京都区部消費者物価指数・注目の項目・前年同月比の推移
東京都区部消費者物価指数・注目の項目・前年同月比の推移
出所:総務省