債券 高金利の復活と「オールド・ノーマル」時代への回帰
財政・金融政策は曲がり角
「金利の復活」で投資家はインカム収入を得ることが容易になったが、良いことばかりではない。これまで不況を和らげてきた財政政策は難しくなり、非グローバル化により各国の金融政策は個別色が強くなる。結果として金融市場のボラティリティは以前より高まりやすくなったとみている。
まずは財政政策の息切れだ。我が国のみならず、実は、米国でも公的債務の対GDP(国内総生産)比が第二次世界大戦期の水準を超えてきた。近年はパンデミック対応の景気対策や医療負担により公的債務は多くの国で急増し、今後、地政学的イベントに対する国際支援や軍事費予算の増加が予想される。金利の上昇は国債の借り換えに伴い政府の利子負担分の増加をもたらすことから、政府の財政運営は厳しさを増していく。市場では2024年にかけ景気減速局面入りへの関心が高まるが、景気対策が必要な局面が来ても政府の財布の紐(ひも)は堅そうで、経済対策の遅れが懸念される。
では金融政策はどうか。FRB(米連邦準備理事会)は「Higher for Longer (より高金利を、より長期間保つ)」をモットーに、なかなか利上げサイクル終了の言質を与えない。市場では2024年秋頃の利下げ転換を織り込むが、転換の時期についてはこれまで後ろ倒しを繰り返してきたのが実情だ。
気になる点がもう一つある。足元沈静化しつつあった食料品価格やエネルギー価格などが、品目によっては反発の動きもあることだ。これは資源輸入国でのインフレ圧力の復活を意味する。インドネシアではしばらく休止していた利上げを2023年10月に再開させた。インフレ退治はサービス・インフレの沈静化待ちだと思われていたが、モノのインフレは地政学的イベントや非グローバル化の影響を受けやすい。金融政策の方向性は各国の経済構造の違いを反映して分かれそうだ。
このように、景気の悪化を和らげる施策は、以前より抑制される可能性が高そうだ。背景には、ニアショアリングや資源・食糧の安全保障といった非グローバル化に伴うキーワードが見え隠れしている。これはグローバル化が軌道に乗った2000年以前の時代を彷彿とさせる。パンデミックに対応する「ニュー・ノーマル」が拡がってから僅(わず)か数年、世界は「オールド・ノーマル」に逆戻りした感がある。
金利低下は幅が出やすい
2024年の債券投資は、高格付け債券への投資を通じてインカムを確保する絶好の機会と捉えるのが妥当だろう。
市場予想通り景気減速に向かう場合、政策対応の不在により債券のキャピタル・ゲイン獲得の余地は思ったより広がるとみている。デフォルト率の上昇を警戒するとしても、当面はデュレーションが比較的長い高格付けの社債やMBS(不動産担保証券)が様々な投資主体から物色されやすいとみる。
足元、外国債券においては、多くの国でまだ長短金利差が小さいか、逆イールドの形状にある。このため為替ヘッジ付きの外債投資は依然逆風にさらされており、日本のみならず欧州やオーストラリアでも債券投資の資金動向は国内回帰が優勢だ。しかし、長短金利差が拡大に転じる場合には、為替ヘッジ付きの投資が再び活発化する余地を生む。また、近年の利上げ局面では資金はマネーマーケットファンドに積み上がっている状況だが、短期金利の低下となれば、この滞留資金が安全性の高い債券投資に向かい金利低下を演出する局面が出てくる。
最後に、他国より一拍遅れて円金利の上昇への警戒が強まっていることにも注意が必要だ。安全資産として債券への資金配分を行う場合、為替ヘッジ付き外国債券の方が円建て債券よりも機能しやすい可能性には留意したい。