J-MONEYカンファレンス(主催:J-MONEY)が、2023年11月30日に東京都内で開催された。アリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパンの神頭大治氏は、為替市場の動向と従来型の為替ヘッジの効果を踏まえながら、新たな為替リスク管理ソリューションを取り入れた米国債券投資戦略を提案する。

「報われない」為替ヘッジ

神頭 大治氏
アリアンツ・グローバル・インベスターズ・ジャパン
投資ソリューション部長
神頭 大治

為替を単一資産としてみた場合、代表的な資産である外国の債券や株式と比較して、リスク特性にどんな違いがあるのか。2000年1月から2022年12月までの23年間で、為替ヘッジなしの外国株式は、ボラティリティが約20%で、年率6%程度のリターンとなった。同じくヘッジなしの米国投資適格社債は、約10%のボラティリティで、外国株式と同程度のリターンだった。一方の為替は、米ドル、ユーロともボラティリティは外国債券と同程度でありながら、リターンは年率1%台にとどまった。

為替ヘッジを行えば、当然だが為替リスクは低減される。外国債券に対して為替をフルヘッジした場合、同じ期間でのボラティリティはヘッジなしと比べて56%低くなったが、リスクの低減率以上にリターンが毀損した。外国債券のリターンはマイナス66%。外国株式はボラティリティがマイナス22%となったのに対し、リターンはマイナス40%となっている。

そもそも一般的な為替ヘッジとは、為替フォワード取引を利用して為替差損をプロテクトするものだ。その際のヘッジコストはどのように決まるのか、例を挙げて説明したい。前提として元本を100億円、現在の為替レートを1ドル=150円、米ドルの金利を年利5%、円金利を0%、フォワード取引の期間を1年とする。基本的に為替のフォワードレートは金利平価説に基づいて決まる。現在の100億円は、ドルに換算すると66.7百万ドルとなり、これを1年間運用すると66.7×1.05で、約70百万ドルに増える。金利0%の日本円は1年後も100億円のままなので、この100億円を70百万ドルで割ると142.86円で、これが1年後のフォワードレートとなる。為替ヘッジとは、この142.86円というレートで、1年後にドルを売却する取り決めであり、現在のレートと1年後のレートとの差額である7.14円がヘッジコストとなる。

理論上、1年後の為替レートが142.86円より円高になれば、いわゆるヘッジ益が発生するが、逆に142.86円より円安の水準、例えば1ドル=145円程度では損失が出てしまう。

この前提に基づいて、為替レートが1ドル=150円で変化なく、原資産の価格も一定であると仮定した場合、為替ヘッジを行った100億円の元本は、ヘッジコストだけで1年後に5億円弱、2年で9億円超の損失が発生することになる。

為替が円高に動けばどうなるか。1ドル=150円のレートが1年後に140円、2年後に130円になった場合、2年間の為替差益は単純計算で14%程度となる。一方、為替ヘッジ益は4%程度にとどまる。1年当たり5%近いヘッジコストを払っているためだ。そして為替が160円、170円と円安に動いた場合は、為替差損にヘッジコストが加わり、2年で約21億円のヘッジ損失が発生することになる。

以上のことから、円高局面では為替ヘッジはワークするものの、特に金利差が大きい状況では、リターンの面であまり報われない現実がある。円安局面では、もはや為替ヘッジにはメリットが見当たらないように思える。

円安局面でも為替ヘッジを考慮

今後の為替市場について、マクロ的な観点で見てみたい。為替レートは、中長期的には現実の物価に基づいた購買力平価に収束していくと言われる。30~40年の超長期ではおおむね成り立つが、短中期では様相が異なってくる。2011年頃までの30年間は、ドル/円の為替レートは購買力平価に対して円高方向にかい離する傾向があった。2011年10月に1ドル=75.32円を付けた頃から傾向が変化して、今に至るまで円安方向へのかい離が起きている。

この動きは貿易収支の動向に近い。1970~80年代の日本企業は輸出が強く、貿易収支は黒字が続いた。最近では多くのメーカーが海外に生産拠点を移したこともあり、貿易赤字とともに為替は円安に振れる傾向が強まったように思う。この傾向が変わるとしても、5~10年という時間を要すると思われる。為替は当面、購買力平価に対して円安へのかい離が続くのではないか。

円安傾向が続くなら、為替ヘッジは必要ないのではと思われるかもしれないが、必ずしもそうとは言い切れない。たとえ長期トレンドが円安であっても、短中期では円高の方向に振れることは十分に考えられる。大規模な金融危機が起きれば、ヘッジなしの資産は危機前の水準に回復するのに、ヘッジありと比べて長い時間を要することになる。長期のリターンのみを考慮するならヘッジなしがよいが、短中期のスパンで見る場合は、為替ヘッジを一定程度取り入れることを検討すべきだろう。

債券とほぼ無相関の『COL』

当社の『為替オーバーレイ(COL)・ソリューション』について紹介したい。簡単に説明すると、為替のフォワードではなく、プットオプションの買いで円高の為替差損をプロテクトしつつ、コールオプションの売りによってそのコストを下げるという手法だ。ドル/円の為替単独でのパフォーマンスについて、2012年末から2023年9月末までの期間でシミュレーションを行ったところ、COLソリューションのリターンは為替フルヘッジを1.5%ほど上回った。為替プロテクションにかかるコストを、同戦略では1.5%分セーブできたことになる。一方で年率リスクは2.2%と、為替フルヘッジの0.4%より高くなっている。

しかし、COLソリューションと債券を組み合わせると見え方が変わってくる(図表)。期間は異なるものの、米国国債のインデックスと『米国IGアクティブ運用戦略』、『米国短期ハイ・インカム債券戦略』ともに、為替フルヘッジを1.5~1.7%上回っている。一方、リターンは米ドルベースと同等でありながら、リスクはフルヘッジの場合とあまり変わっていない。これは、COLソリューションのリスク・リターン特性が米ドルベースの債券とほぼ無相関であり、もともと年率5~6%のリスク資産に、無相関である2.2%のリスクを加えても、全体のリスク量に対する影響が小さいことが要因だと考えられる。

足元のヘッジコストの高さのために債券運用で損失を経験した方は、我々のCOLソリューションを、為替ヘッジについて再考していただく材料にしていただきたい。

米ドルベースと同等のリターン・リスク特性
出所:Allianz GI, Voya Investment Management, Bloomberg、2023年9月。各資産のベンチマーク:米国国債はICE BofA 米国1-10年国債指数、計測期間は2012年12月31日から2023年5月31日まで(10年と5ヶ月);米国IGアクティブ運用戦略はBloomberg米国社債トータルリターン指数をベンチマークとして3年以上の運用実績を持つ戦略をBloombergより抽出、計測期間は2016年8月1日から2023年8月31日まで(7年と1ヶ月)、信託報酬控除後(信託報酬:0.63%); 米国短期ハイ・インカム債券戦略は運用戦略の代表口座の実績データを使用、計測期間は2016年5月31日から2023年9月30日まで(7年と4ヶ月)、運用報酬控除後(運用報酬:年率0.40%)。アリアンツ・グローバル・インベスターズ(アリアンツGI)とヴォヤ・インベストメント・マネジメント(ヴォヤIM)は長期的な戦略的パートナーシップを締結し、2022年7月25日付で運用チームはヴォヤIMに移管され、ヴォヤIMは米国短期ハイ・インカム債券戦略の運用者となりました。アリアンツGIはTransitional Service AgreementおよびService Level Agreementに基づき、運用に関する情報およびサービスをヴォヤIMに引き続き提供しています。
※上記の図表は情報提供を目的としたもので、投資助言に相当するものでなく、かつ特定の有価証券、運用戦略、運用商品を推奨または提案するものではありません。また上記内容は通知なしに変更される場合があります。
上記のシミュレーションは取引コスト、運用報酬は考慮せずに一定条件のもとに計測された想定パフォーマンスであり、将来の運用成果を示唆または保証するものではありません。先物ヘッジ、COLソリューションのシミュレーションは月次ロールを想定。COLソリューションはCOLソリューション(標準型):1年期間においてプット買いの行使価格を円高方向に5%、コール売りの行使価格を変動させることを想定。

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