パーク・スクエア・キャピタル 約20年間の運用実績に裏付けられた「シニア損失率0.02%」のリスクコントロールJ-MONEYカンファレンス 講演レポート
2004年の創業以来、欧州クレジット市場の専門家としてプライベート・クレジット運用戦略を提供してきたパーク・スクエア・キャピタル。同社は2023年7月11日、東京都内で開催されたJ-MONEYカンファレンス(主催:J-MONEY)で、その優れた運用パフォーマンスの秘訣や、プライベート・クレジット投資に追い風となる欧州の運用環境のレビューなどについて解説した。
補完的な3つの運用戦略
当社はダイレクトレンダーとして欧州で最も古い歴史を持つ運用会社のひとつだ。我々は創業した2004年から欧州プライベート・クレジットへの投資を手掛けてきたが、当時まだダイレクトレンディング(DL)という言葉はなかったに等しい。
2008年の金融危機(GFC)前まで、欧州ではレバレッジド・バイアウト(LBO)などの資金調達は、銀行が主な貸し手として対応していた。しかし当時は、負債負担の高さから彼らが債務リスクの高いジュニア劣後などを引き受けることは稀であった。そこで当社が、ジュニア劣後を直接アレンジする専門の運用会社としてスタートすることになったのだ。その後、GFCを経て大企業のシニア債や、ミドルマーケット向けのDLなどにもサービスを拡大していった。
このようにして資本構造のすべてのトランシェに対してクレジット・ソリューションを提供できる体制を整えてきた当社は、現在、企業やPE(プライベートエクイティ)ファンドなどのスポンサーにとって有力な資金調達機会の提供者となっている。同時に、ジュニアなどの劣後資本への投資を中心とした「キャピタル・パートナーズ戦略」、大企業向けのシニア債に投資する「クレジット・オポチュニティーズ戦略」、ミドルマーケット企業に対するDL戦略である「ローン・パートナーズ戦略」という3つの補完的な運用戦略プラットフォームを通じて、世界中の政府系ファンドや年金基金、保険会社などの機関投資家に魅力的な運用機会の選択肢を提供している。
「ビール飲みの欧州」地域に焦点
当社の運用の特徴は、「保守的(conservative)」を重視している点にある。そして、そのパフォーマンスの堅実さが、いくたびもの景気サイクルの転換、そしてGFCや新型コロナウイルス禍といったイベントに耐えて、優れたリスクコントロール特性を発揮してきたことは注目に値するだろう。
いくつか創業来のパフォーマンスを紹介したい。まずシニア債の累計投資金額に限れば、年率に換算した損失率はわずかに0.02%という程度。加えてミドルリスク水準と位置付けるジュニア投資も、損失率は年率0.13%と、他社の戦略がシニア債投資で記録するのと同等の水準で抑えられている。なお範囲をすべての運用対象に拡大しても、創業来の損失率は0.07%程度だ。
これらの数字が、市場環境がイージーであった直近数年間に期間を限定したトラックレコードではなく、金利高の時期や金融危機、パンデミックなどの困難な期間を通じた約20年間の実績であることは改めて強調しておきたい。
前述のように、こうした良好なパフォーマンスの背後にあるのは、ボラティリティからリターン獲得の機会を得られるPE投資と異なり、クレジット投資では単純に損失を出さないことが優れた運用成果に繋がるという考え方が基本にある。そのため、我々はボラティリティが低く、かつ予測可能性の高い産業・企業を厳選して投資を行うことを運用理念としている。
実際にポートフォリオの構成も、BtoBサービスやソフトウェア、ヘルスケアといったセクターを中心に銘柄の多様性が確保されている。これらの業界は、景気の良し悪しに関わらず、比較的安定して利益を創出できる傾向が強いためだ。半面、小売業や石油・ガス、自動車製造などのシクリカルな業界は、ボラティリティの高さから投資を避けている。
なお投資先の地域も欧州であればどこでも良いわけではない。焦点を絞るのは、我々が親しみを込めて「ビール飲みの欧州」と呼んでいる、ドイツ、北欧、英国、ベネルクス3国が中心だ。これらの地域では、万が一の場合に投資家の立場を守る仕組みが整っているからだ。
運用環境は順風満帆
このような運用理念に基づいて、欧州プライベート・クレジット市場の成長とともに20年近く右肩上がりのパフォーマンスを残してきた当社だが、現在の市場環境は、クレジット投資にさらなる追い風になっていると見ている。まず注目したいのは2008年以降、貸金市場を支配してきた銀行の存在感が減退しており、その一方で企業やPEファンドの資金調達の引き受け需要がプライベート・クレジットに集まる動きが加速していることだ。案件数や金額もさることながら、これまで相談に現れなかったような大企業も、近年ではプライベート・クレジットに資金調達の機会を見出すようになっているくらいだ。
現在、企業やPEファンドが資金調達の意欲を衰えさせている兆候は見られない。にも関わらず、銀行だけでなくLBOなどの主な引き受けであったCLO(ローン担保証券)は新規発行額をかなり落としており、既存のCLOも2023年までに再投資期間が終了する予定である。つまり、旺盛な資金調達需要の存在に応えるために、プライベート・クレジットの重要性がいっそう高まってきているのだ。
そんな中、各国中央銀行の利上げの影響によるベースレートの上昇基調や、高進するインフレを受けた手数料上昇がスプレッドに反映されるなどの状況も後押しして、欧州クレジット市場のリターン水準は上昇を続けている。例えば現在、シニア債のオールインイールドは10 ~11%程度の水準にある。ちなみに、こうした金利上昇局面を一過性のものだとする意見もあるが、これまでの「資本コストがかからなかった時代」こそアブノーマルだったのだろう。ノーマルはむしろ、GFC前のような金利のある世界だ。
加えて欧州には、ローン契約時のコベナンツ(担保)契約の厳格化が進んでいたり、米国と同等の経済規模を持ちながら資本市場が細分化されているため、応えられていない融資ニーズが多く残されていたりといった、リスク水準が抑えられる一方でリターン水準を向上させる追い風要因が多く存在する魅力もあることは知っておいてほしい。
また、歴史的に見ても最高水準のPEのドライパウダー(投資待機資金)が積み上がっている現状も、プライベート・クレジットには長期的な吉報だろう。欧州におけるDLのファンドレイズ金額は、いまだPEが調達した総資本の25%にとどまる。したがってプライベート・クレジット市場は、PEファンドの調達ニーズに応えるために今後、一層の成長を遂げなければならないからだ。
こうした状況は一世一代のチャンスだ。市場のベータのみを追求するのは宝の持ち腐れといっても過言ではないだろう。それでも、金利ある世界への移行による不確実性に対処しながら安定してアルファを獲得するためには、マネージャーの地力が求められる。経験豊富な欧州クレジット市場の専門家が集う運用チームと、景気サイクルの試練に耐えてきた実績を擁するパーク・スクエア・キャピタルを水先案内人としてこの資産クラスに対する足掛かりになれば幸いである。
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