少子化とインフレが大学経営を揺さぶるなか、預金・債券中心の資産運用は転換点を迎えている。文部科学省・経済産業省はガイドブックを策定し、大学に自律的なアセットオーナーとしての体制整備を促す。資金の性格をどう見極め、外部の知見をどう活用し、学内で合意形成を進めるのか。大学の資産運用の高度化に向けた実務の道筋を探る。

「預金・債券=安全資産」という前提を問い直す

少子化の進展に伴い、2040年には大学進学者数が現在と比べて3割近く減少すると見込まれている。特に私立大学では、学生生徒等納付金が収入の約8割を占める。日本の大学にとって、中長期的な教育研究活動を維持するための財源多様化は待ったなしの課題だ。加えて、昨今のインフレ環境下では、預金や低利回り債券を中心とした運用だと、実質的な資産価値が目減りし、将来の購買力を維持できなくなるリスクが高まる。こうした背景から、2026年7月、文部科学省と経済産業省は共同で「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」を策定した。

ガイドブックの作成に先立ち、文部科学省は全国の国公私立大学を対象に「大学の資産運用実態把握等調査」を実施した。その結果、大学全体の運用対象資産は10兆円を超える規模に上ることが明らかになった。しかし同時に、多くの大学が預金・債券中心の運用に偏っている現状も見えてきた。一部の大規模法人では、株式やオルタナティブ資産を含む多角的なポートフォリオを構築している一方で、大規模法人であっても預金・債券が8割を超える大学も多く存在するなど二極化が浮き彫りとなった。

また、私立大学では運用目標を設定している法人は約27%、基本ポートフォリオを設定している法人は約11%にとどまるなど、運用に必要な体制やガバナンスが十分に整備されていない状況も明らかになった。

預金・債券中心の運用が広がった背景の1つには、リーマンショック後の混乱を受けて2009年に文部科学省が学校法人に発出した、いわゆる「平成21年通知」がある。「元本が保証されない金融商品による資産運用については、その必要性やリスクを十分に考慮し、慎重に取り扱うべき」などの内容が、安全性を過度に重視した運用を招いた要因になっているとの指摘があった。この点について、今回のガイドブックでは、平成21年通知は株式など元本が保証されない金融商品での資産運用を妨げるものではないことを明記している。

文部科学省 高等教育局 私学部参事官(学校法人担当)付 私学経営支援企画室長 大野雅史氏は、「従来のデフレ環境のもとで、預金・債券を安全性の高い資産ととらえてきた大学が多い。しかし、昨今のインフレ環境下では、インフレ率を下回る利率の預金・債券だけの運用では実質的な資産価値が目減りし、将来の購買力を維持できなくなるリスクが高い。株式などリスク資産への投資も前向きに検討する必要がある。これからの時代、資産運用は、大学の教育研究の充実に資する財源確保策として、真剣に向き合っていくべき事柄になってくる」と力を込める。

文部科学省高等教育局研究振興局大学研究基盤整備課資金運用企画室長大野雅史氏青山 祥一朗氏牧野華子氏
大野 雅史氏(写真左):文部科学省 高等教育局 私学部参事官(学校法人担当)付 私学経営支援企画室長
牧野 華子氏(写真中央):文部科学省 高等教育局 私学部参事官(学校法人担当)付 私学経営支援企画室 財務調査係長
青山 祥一朗氏(写真右):文部科学省 研究振興局 大学研究基盤整備課 資金運用企画室長

また、学校法人の運用対象資産に占める仕組債の割合は、全体の1割程度にも上る。「株式などへの投資を禁止する内部規程がある法人などにおいて、低金利のなかで一定のリターンを得ようとした結果、資産区分上は債券である仕組債に頼ってきた経緯もあるのではないか」(文部科学省 研究振興局 大学研究基盤整備課 資金運用企画室長 青山祥一朗氏)

仕組債はデリバティブが組み込まれた複雑な金融商品であり、リスクや手数料などの条件を十分に理解しないまま購入している可能性も懸念される。ガイドブックでは、金融庁の見解も引用しつつ、特性・リスクを正しく理解し、慎重に購入の可否を検討・判断する必要があると注意喚起している。

こうした状況を踏まえ、資産運用を促進・高度化するには、理事長・理事など役員の関与が不可欠だ。財務部など現場の担当者が問題意識を持っていても、経営陣の理解が得られずに運用が進まないケースは少なくない。大野氏も「将来を見据えて、法人の大事な資産をどう有効活用していくかという重要な経営判断なので、理事長・理事といった経営層が深くコミットしなければならない」と強調し、トップ層への啓発を重要課題の1つに掲げている。

初めてリスク資産に投資する大学は状況に応じた段階的なアプローチを

運用を本格化させるに当たり、ガイドブックでは、基本スタンス(運用目的・運用目標・運用方針)の策定、体制・ガバナンスの整備、評価・情報提供──の3点を一体で進めることを第一歩として示している(図表1)。

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