三菱UFJ信託銀行 資産運用情報 インフレ環境下での株式・債券の分散効果

須田 真太郎
三菱UFJトラスト投資工学研究所
研究部 主任研究員
2013年 東北大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年4月に三菱UFJトラスト投資工学研究所入社

鈴木 康太
三菱UFJトラスト投資工学研究所
研究部 研究員
2020年 立命館大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻修士課程修了。同年4月に三菱UFJトラスト投資工学研究所入社
Ⅰ . はじめに
投資対象資産としての債券、特に国債はその高い信用力や低いボラティリティ、また株式に対して負の相関を持つことから「安全資産」と呼ばれることがある。株式と債券を一定の割合で保有するポートフォリオ運営は、まさに両者の分散効果を享受する運用手法であり、バランス運用の基本である。しかしこの数年でこうした前提は崩れてしまった。持続的なインフレ基調とともに金利は上昇(債券価格は下落)し、それが株価下落にも繋がってしまったため、債券は株式に対する安全資産としての役割を果たせない相場環境が続いている。
本稿では株式と債券の分散効果、それを測るひとつの指標である相関に着目し、両者の相関がどのような要因によって変動するかを考察していきたい。具体的には、経済成長ファクターとインフレファクターという2つのマクロリスクファクターを軸に株式や債券の価格、ならびに相関の変動要因を考察していく。また高頻度価格データを用いて、経済成長ファクターやインフレファクターが投資家に強く意識される経済イベント発生時に着目し、どんなイベントを契機として株式と債券の分散効果が崩れてしまうかについても考察を行う。以上の分析を通じ、債券の安全資産としての役割について再検討していきたい。
Ⅱ . 株式と債券の相関
1. 株式と債券の相関の歴史
図表1は米国市場と国内市場における株式と債券の相関 (Stock Bond Correlation、以後本稿ではSBCと略すことにする)を1970年1月から2025年12月末まで示したものである。図表1では月次の株式・債券リターンを利用し、過去5年分(=60か月分)のデータにより相関係数を計算して毎月ローリングした結果を示している(※1)。ここで強く言及したいのは、SBCはマイナス(逆相関)が通常と考えられることが多いが、それは長い歴史の中で2000年代に特有の事象であり、むしろ70年代や80年代はSBCがプラス(順相関)で推移することが多かったということだ。「足元SBC がプラスとなり異常な局面だ」と考える読者がいるかもしれないが、図表1からは「70~80年代の相場環境に戻った」と解釈した方が自然だろう。また国内市場のSBCは米国市場のそれに比べて早く、90年台からマイナスに突入していた点も特徴的である。
※1 米国株式と米国債券はS&P500指数とBloomberg米国債(米ドル建て)、国内株式と国内債券はTOPIX とBPI国債(円建て)を使用。なお債券指数について、米国は1973年以前、日本は2000年以前のデータが欠損のため、各国の10年利回りデータからデュレーションを10年と想定して仮想的に国債リターンを計算し、代替した。

ではなぜ70~80年代、そして足元はSBCがプラスだったのか、逆に2000年代はなぜSBCがマイナスだったのだろうか。本稿ではその理由を探っていきたい。そのためにまずは株式や債券の価格がどのような要因によって変動するかについて考察した後、SBCの変動要因について考えてみよう。
2. SBCの決定要因 ~経済成長ファクターとインフレファクター~
SBCの決定要因を考えるに先立ち、まずは株式と債券のリターンの変動要因を明らかにすることから始めていきたい。本稿ではBrixton et al. (2023)を参考に、株式と債券のリターンが2つのマクロリスクファクター、①経済成長ファクターと②インフレファクターによって変動すると仮定したい。この仮定に実際のデータを当てはめて検証していくに辺り、マクロリスクファクターをどのようなマクロ経済指標に基づき表現するかが重要となる。本稿では参考文献を参考に、経済成長ファクターとして鉱工業生産指数と非農業部門雇用者数(日本の場合は失業率(※2))、インフレファクターとして消費者物価指数と企業物価指数の各々2つのマクロ経済指標を活用していく。図表2はその中でも鉱工業生産指数と消費者物価指数の変化率について、1980年1月から2025年12月までの推移を示している。
※2 失業率は他のマクロ変数と異なり指標の上昇が経済のマイナス成長を意図するため、失業率は符号を反転させて上昇が経済のプラス成長となるように活用する。

さて、これらのマクロリスクファクターと株式・債券リターンの関係を確認していこう。図表3を参照してほしい。図表3はマクロリスクファクターがプラスな局面とマイナスな局面別に、株式と債券のリスクリターン効率(SR)を示したものである。具体的には、図表2の分析期間をマクロリスクファクターの平均値よりも高い局面(プラス)と低い局面(マイナス)の2局面に分け、それぞれの局面別に株式・債券リターンのSRを計算する。その上で、分析全期間の平均値からの乖離を超過SR として示したのが図表3である。

図表3によると、株式と債券リターンとマクロリスクファクターとの関係性を図表4の通りまとめることができる:

このような株式・債券リターンとマクロリスクファクターとの関係性から株式と債券リターンの共分散(SBCの元になる量)について考えてみよう。図表5に株式()と債券リターン()の共分散𝐶𝑜𝑣(, )を、2つのマクロリスクファクターを用いて表現した。

このモデルについて詳しく見ていこう。まず図表3の結果から株式リターン()は経済成長ファクター()に対してプラスに反応( > 0)し、インフレファクター()に対してマイナスに反応( < 0)する傾向にあることが示された。一方で債券リターン()は経済成長ファクターに対してマイナスに反応( < 0)し、インフレファクターに対してマイナスに反応( < 0)する傾向にあることが示された。この関係式から、SBCの元になる株式・債券リターンの共分散を経済成長ファクターとインフレファクターの分散、そして両者の共分散により表現することが可能となる。このモデルに基づいて考えると、SBCをプラスに押し上げる要因は2つある。ひとつはインフレファクターのボラティリティが高い局面、もうひとつはプラス、マイナスどちらに影響するかわからないが、経済成長とインフレファクターの共分散が大きい局面である。
これも図表5の(3)式で示した各要素の関係性について、実際のデータを活用して確認してみよう。具体的には、図表3で株式・債券リターンとの関係性が確認されたマクロリスクファクター、つまり経済成長ファクターを非農業部門雇用者数(日本の場合は失業率)、インフレファクターを消費者物価指数として以下の回帰モデルを推定する:
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左辺の株式・債券リターンの共分散、また右辺の経済成長・インフレファクターの分散と共分散、いずれも過去5年のデータを元にローリングで計算し、回帰モデルの推定を行う。図表5の(3)式の通り、我々のモデルの予想ではβ1 < 0、β2 > 0が期待される。β3はプラスかマイナスか、また影響が大きいのかはモデルからは予想が困難なため、図表6の推定結果を確認していきたい。図表6では回帰係数のt 値を確認しており、これが±1.96 を超えていると有意水準5%で統計的に有意な結果と判断することができる。まずモデルの予想通りβ1 < 0、β2 > 0の関係を日米両国で確認でき、両者ともに統計的に有意であることがわかる。特にβ2のインフレファクターの分散(ボラティリティ)に対する係数はt 値が非常に高い結果である。またβ3については米国で有意であるもののマイナスに推定され、また日本ではt 値がほぼゼロのため、経済成長とインフレファクターの共分散の要因について、SBCへの影響は限定的と言えるだろう。

以上の結果から、日米両国で共通かつ統計的に有意にSBCをプラスに押し上げる要因のひとつはインフレファクターとの示唆が得られた。インフレファクターに対して株式と債券リターンが同方向に反応することがSBCをプラスに押し上げ、その大きさはインフレファクターの分散(ボラティリティ)に依存するとの結果である。この結論を受け、改めて図表2で紹介した日米のSBC推移を、図表7に示すマクロリスクファクターのボラティリティと合わせて確認してみよう。SBCがプラスであった70~80年代、そして足元の相場では高インフレ環境であり、インフレファクターのボラティリティが経済成長ファクターのそれと比べて大きな相場環境だった。逆にSBCがマイナスだった2000年以降は経済成長ファクターのボラティリティの方が高い局面が多かった。特に国内市場は90年代からSBCがマイナスに突入していたが、これも国内のインフレファクターのボラティリティが90年代から低下していた点を踏まえると、モデルの想定と整合的だと言える。

Ⅲ. 株式と債券の相関を崩す経済イベント
前節までは70、80年代から足元までのマクロリスクファクターと株式・債券リターンデータから両者のリターン変動要因やSBC変動要因について考察してきた。分析の結果、SBCをプラスに引き上げるひとつの要因として、インフレファクターのボラティリティが高く、その時にインフレファクターに対して株式と債券が同方向に反応することが一因と考えられるとの示唆が得られた。しかし、長期間の株式・債券リターンの相関性が経済成長とインフレという2つのマクロリスクファクターのみに影響されるとの前提は荒い仮定であり、それ以外にもさまざまな要因によって変動すると考えるのが自然である。
そこで本節では分析をより精緻化していきたい。具体的には経済成長やインフレが投資家に強く意識される経済統計発表イベント(以後、経済イベントと称する)に着目し、経済統計発表時の瞬間的な価格変動に焦点を当てていきたい。投資家が本当に経済成長やインフレを意識して投資行動を変えているのであれば、対応する経済イベント時に価格が大きく反応するはずである。経済イベントの瞬間であれば、その情報のみに投資家が反応して投資行動を変えたと考えられることから、インフレに対して株式と債券が同方向に反応するかをより精緻に観察できると想定されるからである。
1. 経済イベントとサプライズ
前節同様、経済成長ファクターに関連する経済イベントとして鉱工業生産指数と非農業部門雇用者数(日本の場合は失業率)を、またインフレファクターに対応する経済イベントとして消費者物価指数と企業物価指数の発表イベントを考える。ここで図表8を元に2つのサプライズを定義していきたい。まず1つ目が経済サプライズであり、これは公表される経済統計自体から導かれるサプライズである。統計が発表される前のエコノミスト予想(※3)を𝐹𝑡 、予想の標準偏差をσ𝑡 、そして実際に公表された速報値を𝐴𝑡 と書くと、経済サプライズを(𝐴𝑡 − 𝐹𝑡 ) ÷ σ𝑡 として定義する。つまり事前のエコノミスト予想に対し公表された速報値がより高い(ポジティブ・サプライズ)か、低い(ネガティブ・サプライズ)かを表す指標である。

2つ目は瞬間リターンサプライズ(以後、瞬間リターンと省略することがある)であり、経済イベント時の資産価格の変化率から算出される。資産価格は投資家が全ての情報を織り込んで価格形成がなされた結果であるとの想定の下、経済イベント10分前から20分後(トータル30分間)の価格変化率(※4)として定義する。瞬間リターンがプラスやマイナスに大きな値を取っているということは、投資家の事前の想定に反する経済イベントの結果が公表されたため投資行動を大きく変え、結果として資産価格が大きく変動したと解釈する。本稿では日米の株式先物と10年国債先物を活用して瞬間リターンを計測していく。図表7の事例の場合、経済サプライズが+2.0 なのでエコノミスト予想よりも高いインフレが公表された局面であり、それを受けて投資家はよりインフレを警戒し、米国10年国債先物価格がたった30分の間に87.42bp 下落(つまり金利上昇)したとみることができる。
実際のデータを元に、経済サプライズと瞬間リターンサプライズの関係性を見ていこう。図表9は2012 年1月初から2025年12月末までに公表された米国の消費者物価指数(CPI)と非農業部門雇用者数(Non-Farm payroll)について、両サプライズの関係性を図示したものである。横軸は経済サプライズ、縦軸は瞬間リターン(※5)を示している。
※3 本稿でのエコノミスト予想は、複数のエコノミストによる予想の平均値を指す。
※4 価格変化率はベーシス単位で表示することにする。
※5 図表8の縦軸である瞬間リターンサプライズは、株式と債券リターンのスケールを揃えるため、両資産リターンのボラティリティで瞬間リターンを除している点に注意する。

左図のインフレファクターである消費者物価指数について、債券(TY:●)と株式(ES:×)の両資産ともにポジティブな経済サプライズになるほど瞬間リターンが低下する正の相関傾向を示している。また右図の経済成長ファクターである非農業部門雇用者数に目を移すと、ポジティブな経済サプライズになるほど債券の瞬間リターンは低下し、また株式の瞬間リターンは上昇する負の相関傾向があるようだ。これは前節で長期間のリターンデータを用いた検証と同様の結果であり、やはり投資家はこれらのマクロニュースを意識して投資行動を変更していることが推察できる。他の経済イベントや日本の場合はどうだろうか。図表10は非説明変数を瞬間リターンサプライズ、説明変数を経済サプライズとした回帰分析を行い、回帰係数のt 値を示したものである。図表10左図の米国市場について、経済成長ファクターの場合は株式と債券の瞬間リターンが経済サプライズに対して逆方向に動きやすいことを、またインフレファクターの代理変数の場合は同方向に動きやすいことを示している。一方、右図の国内市場に目を向ける。概ね米国市場と同様の現象が確認されたのだが、国内経済イベントよりも米国経済イベントへの反応のt 値が高く推定されていることから、国内株式・債券リターンが国内経済イベントよりも米国経済イベントにより反応していると解釈できる。

(注)t 値±3.0 以上は棒グラフ表示していません
以上の結果から、前節で確認された経済成長ファクターやインフレファクターに対する株式・債券リターンの反応は経済イベント時という当該ファクターが強く意識される局面でも投資家行動に影響をしており、特にインフレファクター、その代理変数としての消費者物価指数や企業物価指数が公表される経済イベント時において、高インフレサプライズであれば株式と債券が同時下落しやすいことを確認した。これは前節の議論から、SBCをプラスに押し上げる要因のひとつであり、それが経済イベント時に限定しても観察されたことになる。
もう1つ、瞬間リターンサプライズから見える面白い結果を確認しよう。図表11は米国の経済成長(非農業部門雇用者数)とインフレ(消費者物価指数)に関する経済イベントについて、債券先物により計算された瞬間リターンサプライズを図示したものである。

図表11を見ると、2020年頃まではインフレイベント時は債券先物の変動が小さく、経済成長イベント時の変動の方が大きかったのに対し、2021年頃からはインフレイベント時の変動が急激に大きく、経済成長イベント時の変動を上回る推移をしている。先の図表7を思い返すと、ちょうどこの頃からインフレファクターのボラティリティが大きくなり、SBCがプラス推移するようになった。瞬間リターンサプライズの大きさは対象の経済イベントに対する投資家の注目度の高さとしても見ることができる。そのときの市場変動を支配している要因については当然投資家も注目していると考えられるので、瞬間リターンサプライズの変動の大きさはマクロリスクファクターのボラティリティと関係し、SBCに影響していると考えることができる。
2. 経済イベント時の株式・債券ポートフォリオへの影響
これまでの議論から、本稿の主題であるSBC、すなわち株式リターンと債券リターンの相関性をプラスに押し上げる大きな要因のひとつはインフレファクターであることが明らかになってきた。そこで本節はインフレに関する経済イベントとして、消費者物価指数の公表イベントに着目し、SBCや株式・債券ポートフォリオへの影響を調べていこう。
最初に、経済イベント時にSBCがプラス方向へ押し上げられてしまうのかを確認してみよう。冒頭の図表1では過去5年の月次リターンデータを元にしたSBCを観察したが、それでは経済イベント時の影響は見えにくい。そこで、株式先物と債券先物の5分間隔のリターンデータを活用し、過去24時間のデータを元に算出したSBC(イントラデイSBCと呼ぶ)を算出し、経済イベント時にどれだけイントラデイSBCが変動するのかを確認しよう。

図表12は消費者物価指数公表を対象に、経済イベント6時間前から12時間後、1日後、7日後までのイントラデイSBCの平均的な推移を図示したものである。横軸の0Hは消費者物価指数の公表時間(米国の場合、冬時間であれば日本時間の22:30、日本の場合は8:30)を意味する。同経済イベントにおける経済サプライズが±0.5以内だった場合はニュートラル、+0.5以上(以下)だった場合はインフレ(デフレ)サプライズだったとし、ニュートラル・デフレ・インフレサプライズそれぞれのイントラデイSBCの平均的な推移を計算した(※6)。SBCはインフレファクターに対して株式と債券が同方向に反応し、さらにインフレファクターの変動が大きいと、よりプラスに推移しやすくなる。モデルの想定通り、経済サプライズが±0.5 を超える大きなインフレ・デフレサプライズを観測した局面では経済イベントの瞬間にイントラデイSBCが大きくプラス方向に推移しているのがわかる。またデフレサプライズよりはインフレサプライズ時に、大きくSBCがプラス方向に推移している。モデルでは想定していなかったが実際にはマーケットはインフレ・デフレサプライズで非対称に反応しており、インフレサプライズ時により株式と債券は同方向に動きやすいとみることができる。さらに、インフレサプライズ時において経済イベント前の水準までイントラデイSBCが戻るにはイベント後7日程度を要していることがわかり、経済イベントの影響が事後的にもSBCへ波及している様子が観察される。国内市場のSBCは米国に比べると上昇幅は限定的だが、日本の消費者物価指数公表時にSBCがプラスに推移する傾向は確認できる。最後に株式と債券のポートフォリオに対する経済イベント時のリターンへの影響について考察してみよう。ここでは株式と債券のリスクパリティポートフォリオ(※7)を考え、同ポートフォリオリターンが経済イベント前後でどのように推移するかを図表13で確認する。
※6 統計発表時点を0Hとし、そのときのイントラデイSBCがゼロとなるように基準化した。
※7 月末時点の株式・債券の過去5年リターンを元にリスクパリティポートフォリオを構築し、毎月末にリバランスを行う前提でシミュレーションを行った。

先の図表12と同様に、経済イベント6時間前から12時間後、1日後、7日後までのリスクパリティポートフォリオの累積リターンを経済サプライズの局面別に確認したものである。左図の米国市場を見ると、特にインフレサプライズ時において経済イベントの瞬間で平均40bpほどリターンが低下し、さらに翌1週間をかけて緩やかに40bp程度リターンが低下、トータルで80bp程度のマイナス幅を計測している。消費者物価指数の発表前後だけの局面としては大きな下落幅であると考えられる。また日本市場においても同様に経済イベント後に約10bp程度までリターンの低下が観測された。もちろんこのリターン低下は経済イベント前後の1週間程度の結果であり、ポートフォリオ運用におけるパフォーマンス評価期間の一局面に過ぎないと思う。しかしこういったイベントを契機としてSBCが上昇し、株式投資と債券投資の分散効果が失われ、一時的にポートフォリオの収益に影響するおそれがある点が定量的に示されている。言い換えれば、長期的に安定したパフォーマンスが求められるバランス運用においても、市場環境がインフレ主導型へ移行する局面では短期的なショックが分散効果の弱体化を通じて累積的な影響を及ぼし得ることを意味している。したがって、分散効果が“一時的にでも崩れる状況”がどのような局面で生じるのかを理解しておくことは、長期投資家にとっても無視できないリスク管理上の示唆を持つと考える。
Ⅴ. 総括
本稿では株式と債券の相関(SBC)の変動要因について考察を行ってきた。足元の相場環境で確認されているようなプラスのSBCは「インフレ」を軸に説明ができるのではないかとの結論にたどり着いた。つまりインフレファクターに対して株式と債券が同方向に変動してしまうことが、SBCプラスの主因であるとの結論である。70年代からの長期のデータ、また消費者物価指数などインフレが短期的に強く意識される経済イベント時の両方で結論をサポートする実証結果が得られた。
高インフレ期において株式と債券の相関がプラスに転じる現象は、決して例外的ではない。むしろ歴史的には繰り返し確認される“通常の”相関構造である。インフレが再び市場の支配的ファクターとなる局面においては、投資家は分散効果の低下を前提とした資産配分とリスク管理の再構築を迫られる。例えば株式と債券以外の資産を活用してインフレ耐性のあるポートフォリオ構築を模索することや、SBCが市場環境に応じて変動することを想定したアロケーションモデルの開発など、研究課題は山積している。本稿の分析がそうした課題解決へのスタートラインとして参考になれば幸いである。
(2026年3月9日 記)
※本稿中で述べた意見、考察等は、筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する組織の公式見解ではない
【参考文献】
・Brixton, Alfie, Jordan Brooks, Pete Hecht, Antti Ilmanen, Thomas Maloney, and
Nicholas McQuinn (2023), “A Changing Stock–Bond Correlation: Drivers and
Implications”, The Journal of Portfolio Management 49 (4), pp.64-80
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