日本を取り巻く地政学的リスクの高まりが招く円急落
米中が対立する新冷戦時代においては、日本が極東における武力紛争に巻き込まれる地政学的リスクを反映して、有事の円売りが為替市場を席捲するであろう。
- ポスト冷戦時代に確立した「リスクオフの円高」
- 新冷戦時代における「地政学リスクの崖」
- 自民党親米保守派の台頭と日中関係の悪化
- 米国による「ドンロー主義」への回帰
- 円相場は1ドル=200円に向けて下落する
ポスト冷戦時代に確立した「リスクオフの円高」

梅本 徹
1990年代以降のポスト冷戦時代において、日本は地政学的リスクとはほぼ無縁であった。ソ連の軍事的脅威がなくなり、米国がコミットしたテロとの戦争とは宗教的に一線を画したからである。
したがって、同時代おいては、経済的・地政学的リスクが弱まる際には「リスクオンの円安」が、逆に強まる際には「リスクオフの円高」が外為市場を支配した。
新冷戦時代における「地政学リスクの崖」
ところが、米中対立の新冷戦時代には状況が一変する。台湾有事に代表される極東における武力紛争に日本が巻き込まれる蓋然性が幾何級数的に増加したためである。現在の過渡期において、為替市場は、引き続き「リスクオフの円安」と「リスクオンの円高」という従来の慣習に執着している。
しかし、ひとたび日本本土が軍事衝突の舞台となるリスクが認識されれば、市場において爆発的な円安が生じるであろう。これは、円相場の「地政学リスクの崖」を招来する。最終的には、新冷戦時代において、地政学的リスクが弱まる際には円高、強まる際には円安、さらに、日本本土が戦場となるリスクが高まれば「地政学リスクの崖」という急激な円安が生じることとなろう(図表)。

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自民党親米保守派の台頭と日中関係の悪化
1970年代以降の自民党が親中の経世会(旧田中派)に支配されていた時代には、日本外交は日米同盟を基軸としつつも比較的良好な対中関係が維持されていた。
ところが2000年代以降、経世会の支配力が弱まり、自民党内おいて親米保守派が実権を握ると、日米の軍事協力の強化が顕著となり、日中関係は悪化の一途をたどった。小泉政権下において自衛隊がイラク戦争に派遣され、安倍政権下では集団的自衛権の限定的行使が可能となった。岸田政権下では防衛費のシーリングが撤廃され、高市政権によって防衛費の増加に拍車がかかっている。
米国による「ドンロー主義」への回帰
一方、米国は、冷戦終結後の1993年に誕生したクリントン政権が親中に大きく舵を切った。ところが、2010年代に、急激な経済発展とともに覇権主義を強める中国のGDP(購買力平価ベース)が米国を凌駕すると、2017年に発足した第一次トランプ政権は対中貿易戦争の火ぶたを切る。
さらに、2025年1月に誕生した第二次トランプ政権は、同年4月の相互関税導入によって中国への対決姿勢をさらに強めるが、結局、中国によるレアアースの輸出規制と米国産大豆の輸入制限によって、同年11月には休戦を強いられる。また、同年12月に発表された国家安全保障戦略(NSS)では、米国によるモンロー主義(ドンロー主義)への回帰と西半球への資源集中が鮮明となり、2026年1月には米軍によるベネズエラ攻撃(アブソリュート・リゾルブ作戦)が断行された。
米政権内における関与抑制派(リストレイナー)の台頭によって、米国による東アジアへのコミットメントの継続性に疑問が生じている。
そのような中、2025年11月の高市首相による台湾有事発言を契機に、日中関係は急激に悪化、国際社会では、日本の極東における孤立が懸念され始めている。円相場は、「地政学リスクの崖」に向けて着実に急落への歩みを進めているとみることができよう。











