政治情勢と景気実態がかい離

2025年9月末まで、米国債金利はトランプ米大統領就任式をピークに低下した。他方、株式市場は2025年4月初旬の混乱を底に上昇一途の展開だ。不確実なトランプ政策がいずれ経済成長をくじくとの見方が根強いが、実際は米経済が粘り強く、エコノミストは首をひねっているのではないか。

確かにトランプ政策は侮れない影響を経済に及ぼすが、それは物価や消費への悪影響だけではなく、プラスの効果もあるということだろう。政府部門の人員削減が目を惹(ひ)くが、米国の財政赤字は依然として6%近傍の高水準で拡張的財政である。堅調な個人消費の背景には、トランプ減税延長を早々に決めた要因もあろう。

ただし、今後を見据えるとさすがに綻びが見えてくる。関税導入前の駆け込みで積み上げた企業在庫は相当分が解消しており、今後は関税負担がより厳しく転嫁されるだろう。米国と各国との関税交渉進展につれて設備投資が一段と伸びるとの見方もあるが、私は楽観視していない。関税は議会に諮らず実行できる便利な政策手段とトランプ政権は認識している。よって、議会運営が難しい時期こそ追加関税策を連発する可能性があり、安心できない。たとえ政権からの圧力がなくとも、FRB(米連邦準備理事会)は一段の利下げを強いられそうだ。

ヘッジ外債と円債は、どちらも利回りが上昇しやすいとみている。2025年はG7の中で米国とフランスが格下げされた。政府債務の悪化が長期金利低下を妨げる環境が当面続きそうだ。かたや、海外の利下げはヘッジコストを引き下げる。これはヘッジ外債の利回り改善に繋がり、本邦の投資家には有利だ。

一方の円債だが、実質金利が他国対比で低い日本では、輸入インフレを抑制するため、円安局面での利上げをテーブルから下ろせない。利上げによる債券価格下落も懸念される円債よりも、ヘッジコスト支払いが低減するだけのヘッジ外債の方が「良い金利上昇」と言えるだろう。特に、米国の政策金利は先進国で突出して高く、今後の低下余地を残す。トランプ政策に悩まされながらも、米国投資に付き合っていくことが重要と考える。

■円債とヘッジ外債の利回り比較
円債とヘッジ外債の利回り比較
為替ヘッジコストは3カ月ロールを前提とする。格付けはスタンダード・アンド・プアーズ社の長期現地通貨建て債格付け。 期間 2024年12月末~2025年10月22日。出所:ブルームバーグ、野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング、アライアンス・バーンスタイン(アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含む)
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信用市場は悪化でなく優勝劣敗

クレジット市場は堅調そのものだった。2022年秋の米物価上昇率のピークアウト以降、セクターを問わずスプレッド縮小が続く。米ドルのベース金利が高止まる中で、スプレッドが縮小しても利回りの絶対水準が高く、投資意欲を支えている。スプレッドは確かに歴史的にみても低いが、投資適格社債では依然として格上げ企業数が格下げ数を大幅に上回っており、ハイイールド社債でもデフォルト率が低位にある。

しかしながら、投資家は「変化の兆し」に注目している。倒産件数自体は増えているし、貿易戦争で輸出先を失っている石油化学セクターなどでは大手企業のクレジット・イベントが出始めた。米短期金利が高いため、ローン市場ではデフォルトや債務交換が多く、プライベート企業の破綻にも警戒感が高まっている。

ベクトルは曲がり角を迎えただろうが、まだ悪化ではないとみる。ソブリンは、米仏の格下げのかたわら、欧州債務危機時に信用力悪化で辛酸をなめたスペインやイタリア、ギリシアなどが格上げされ、概ねフランスより低い金利で取引されている。クレジット改善が評価される事例もあるのだ。現状起きているのは、信用の質に沿った「優勝劣敗」であり、従ってリスクテイクする意欲の総崩れや金融システムの不安定化といったシステミック・リスクの発生までは、距離があるとみている。