好材料が重なり最高値更新

井出 真吾
ニッセイ基礎研究所
主席研究員 チーフ株式ストラテジスト
井出 真吾

2025年10月31日、日経平均株価が未踏の5万2000円を突破し、TOPIX(東証株価指数)も3331ポイントと史上最高値を更新した。急ピッチな株価上昇の背景には、高市政権への期待の高まり、レアアース禁輸措置の延期など米中対立の緩和、好調なAI(人工知能)関連銘柄、FRB(米連邦準備理事会)の利下げが確実視されたことなど、好材料がいくつか重なったことが挙げられる。

中でも稀に見る高さの高市早苗政権支持率、来日した米トランプ大統領への対応など、高市政権の極めて順調な滑り出しが投資家の期待感を高めた、いわゆる「高市トレード」が株高を演出した点は見逃せない。

米トランプ関税の影響などにより2025年度の日本企業は減益が見込まれている中での株価急上昇に、一部ではバブルとの指摘もある。ところが現在の株価水準は説明不能とも言い切れない。2025年度の減益は避けられなくても、2026年度の15%~20%増益(業績V字回復)を前提とすれば、ファンダメンタルズから現在の株価を正当化できなくもないからだ。実際、図のとおり2026年度予想EPS(1株当たり純利益)に基づくTOPIXの予想PER(株価収益率)は15.3倍で(2025年11月4日時点)、標準レンジの範囲内に収まっている。むしろPER上限を16倍とすると、まだ5%ほど上昇余地すらある。

■2026年度の業績V字回復が前提の株価水準
2026年度の業績V字回復が前提の株価水準
※2026年度予想利益ベース(2025年11月4日時点)。出所:ニッセイ基礎研究所

例年なら来期業績を株価に反映するのは年末から年明け頃(少なくとも中間決算以降)だ。2025年は8月頃から来期業績のV字回復を織り込み始めるという珍しい事象が起きているのは確かだ。だが、前例はある。新型コロナウイルス禍で世界経済が機能不全に陥ったときだ。2020年度は多くの企業で大幅減益が確実視されたが、株価は2021年度の業績回復を先取りする形で上昇した。

当時の株価はコロナ禍初期の2020年3月に大底をつけた後、主要国政府・中央銀行が大規模な財政出動・金融緩和をスピーディーに実施したことも金融市場の支えとなり、急速に回復した。

2020年7月時点で2020年度利益ベースの予想PERは20倍程度まで上昇しており、明らかに割高だった。しかし、2021年度利益ベースの予想PERは14倍程度で割高ではなかった。問題は来期業績のV字回復を信じてよいかだが、結果的には2021年中に株価が大きく崩れることはなかった。つまり、2021年度のV字回復を見込んだ買いは「正解」だったといえる。

AI・新政権への期待剥落リスクも

今後2026年度の業績予想が改善すれば、それに見合う株価上昇は期待できよう。例えば、これまで企業がマージン圧縮で対応してきたトランプ関税によるコスト増加分を、徐々に価格転嫁していくことが想定される。その結果、期を追うごとに関税のマイナス影響が緩和し、業績が改善する可能性がある。

リスクは2026年度業績の上振れが限定的となった場合だ。2026年度ベースの予想PERは15.3倍で十分に割安とはいえない。今後2026年度の業績予想が改善しなければ、株価の上昇余地も限られる。その場合「来期を見れば買える」状況は既に終わったことになる。

より確度の高いリスクとしてAIに対する過度な期待の剥落(はくらく)が挙げられる。AI向け巨額投資は続いているが、AIバブルとの指摘も散見されるように、AI関連銘柄の中にはPERが200倍を超えるなど異常なほど高いバリュエーションもあり、金利上昇や要人発言など、何かをきっかけにいつ急落してもおかしくない状況だ。

さらに高市トレードの巻き戻しリスクも考えられる。ガソリン・軽油の暫定税率廃止は事実上決定したが、今後は議員定数削減が難航する公算が大きい。自民党内の反対派を高市総裁が抑え込めるかがカギになりそうだ。他にも食品の消費税軽減など物価高対策は国民の関心が高いだけに、期待先行で急上昇した株価が高市政権への期待や支持率とともに下落するリスクを孕(はら)んでいることは意識しておきたい。