個人の実感なき株価上昇=株高不況

2025年10月31日、日経平均株価が史上最高値となる5万2000円台に突入した。もはや日本が好況に沸いた1989年末の3万8915円をはるか眼下に臨む水準だ。

しかし、個人の生活レベルまで景気の良さが浸透していた“平成バブル”当時と異なり、街角では「景気が回復している実感がない」「給料があまり増えていないのに物価だけ上がっている」といった声が多い。

こうした株価と個人の景況感にズレが生じている状況を、株高なのに不況の構図「株高不況」と概念化し、その背景にあるメカニズムの分析を通じて株高不況の行く末を論じた書籍が、2025年7月に書店に並んだ。その名もずばり『株高不況 株価は高いのに生活が厳しい本当の理由』(青春出版社)。著者は、弊誌の人気連載「日銀ウオッチャー」でもお馴染みの第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミストの藤代宏一氏だ。

株高不況
藤代宏一氏著『株高不況 株価は高いのに生活が厳しい本当の理由』

個人と企業で全く異なる顔を見せる景気・為替

藤代氏は同書の中で、「実感なき株高」の背景を紐解く視点の一つとして、個人と企業の景況感が正反対に向く原因となる、様々なズレを紹介している。中でも重要なズレの一つとして紹介されているのが、景気の良し悪しを図るモノサシである「経済成長」、つまりGDP(国内総生産)の捉え方の違いだ。

個人は、より生活実感に近い、物価変動分を差し引いた実質GDP(国内総生産)に注目して「低成長が続いている」と捉えている一方で、株価はインフレ分も含めた名目GDPと連動している。そのため、2022年ごろから始まった急速なインフレ進行の過程で、個人と企業の双方の景況感に大きな差が生じているというのだ。

過去数年で半ば固定化されてきた円安も、「ズレ」の一つとして紹介される。輸入物価の押し上げを通じて消費者の購買力を低下させる一方で、製造業を中心とした企業には業績拡大の契機になっているためだ。

同書の魅力は、個人の生活レベルから見た足元の株高への違和感の正体を、先述のような様々な経済指標の動きから、豊富なデータとともに明解に説明していく点だ。基本的な金融知識の解説も欠かしていないため、一般の読者でも株高不況の背景やその持続性、さらには個人として取れる対策まで、本書の議論をすんなり理解できるようになっている。

日経平均株価が5万円を超えた今、株高不況の感はいっそう強くなった。そのメカニズムや今後を探るヒントを同書の中に探してみてはいかがだろうか。

▶青春出版社 書籍情報ページ(外部リンク)
https://www.seishun.co.jp/book/24645/