パーク・スクエア・キャピタル 真価が問われるダイレクト・レンディング市場の転換点
近年、順調に業界が拡大してきたダイレクト・レンディング(DL)市場が転換期を迎えている。競争の激化に加え、長引く高金利環境下で運用会社の優劣が顕著になってきているとも聞く。市場の現在地と道標について、プライベート・クレジット(PC)の老舗であるパーク・スクエア・キャピタルの創業者であるロビン・G・ドゥーマー氏と日本拠点代表の麻生博文氏に話を聞いた。
質の高い個別企業への投資が将来のリスク抑制につながる

創業者/マネージングパートナー
ロビン・G・ドゥーマー氏
2004年創業の貴社は、プライベート・クレジット投資のパイオニアです。これまでの歩みをどう振り返りますか。
ドゥーマー 運用業界で創業20年超というのは、それほど長いわけではないだろう。しかし、我々が活躍の場とするPC市場はこの20年間で、08年の金融危機含め複数の困難なイベントに直面した。当社はメザニン投資の会社として創業したが、金融危機を生き残った同業他社はそう多くない。こうした市場の酸いも甘いも経験し、損失を回避するという当社の運用スタイルを強固なものにしてきた。
近年の転換としては、マーケティング機能を内製化したことで、投資家とのコミュニケーションが質・量ともに大幅に充実し、顕著な成長要因になっている。
足元の投資環境をどう見ていますか。
ドゥーマー 政治・経済の先行きの不確実性は依然高いものの、株式市場は最高値圏に留まり、クレジット・スプレッドも低位な半面、財政不安から先進各国で長期金利の上昇懸念が高まっている。
こうした環境でクレジット投資を検討する際には、市場ベータ型の投資ではなく、質の高い企業に絞って投資することが将来的なリスクの抑制につながるだろう。また、PC市場への資金流入は近年、増加傾向にあり競争も激化している。この拡大したPC市場の投資資金が消化されるには、大型のレバレッジド・バイアウト(LBO)案件が必要になるのは確実だ。
こうした環境下で、まず欧州には構造的に投資機会があるといえる。参入障壁が高いため競争は米国より限定的で、ローン契約の質が良く、案件の精査も十分なクオリティを持っている企業に投資できる。
一方、米国は案件数が欧州よりも圧倒的に多く、精査できる案件が多いため良質な案件を選別することで一定数の投資機会が見込める。サービス業中心に欧州企業の米国事業拡大などのクロスボーダー案件もある。
投資先のリスクを徹底的に調べ、将来のリスクを低減する
クレジット市場は主にITやヘルスケア、ビジネスサービスといった業種を選好する傾向があるようですが、こうした業種に投資する場合、貴社が注目する点は何でしょうか。
ドゥーマー 業界的にこうした業種に投資資金が集まっていることは広く知られていると思うが、当社は実際の投資の経験からそのような判断をしている。ひと口にITやヘルスケアといってもその個別業態は様々だ。
重要なのは利益率の高さを維持できる構造の確保であり、例えば事業の重要性、価格決定力、長期の売上げ見通し、参入障壁の高さ、適切な規制環境などである。その観点から見れば、当社ではヘルスケアでは高齢者施設、ビジネスサービスではコールセンターなどは上記の点に合致しないため除外される。
メザニンやNAVファイナンスなど、出口戦略に苦しむプライベートエクイティ(PE)ファンドの資金調達手段が多様化しています。これにはPEファンドを助ける一方で、企業の新陳代謝を妨げる側面もあると思います。この状況をどう見ていますか。
ドゥーマー 立場によって見解は異なる。22年以降の世界的な金利上昇は金融システム発の問題ではないため、本来ならば無事に出口戦略を迎えられた投資先も多くあったかもしれない。そう考えると、一定度の企業の新陳代謝は必要であるが、ファイナンス手法の多様化は投資先企業を守りつつ、投資家へリターンをもたらすという目的においては一定の役割を担っている面もあろう。
足元では地政学リスクの高まりや米関税政策の行方などへの注目度が高まっています。この先に想定しているイベントや変化は何ですか。
ドゥーマー 気候変動や地政学も、リスクとしてクレジット投資の分野でも既に認識されているが、コロナのようなまだ認識されていないものこそがリスクだとすれば、その予測は難しい。予測が難しいからこそ上限リターンが限られているクレジット投資では、常にダウンサイドを想定した投資評価を行うことが必須である。結局はどんなリスク局面でも、生き残れるのは相対的に財務安定性や成長余力がある企業なのである。
また、リスクの視点とはやや異なるが、今後はクレジット投資におけるプライベートとパブリック債券の垣根が低くなっていく可能性があると考えており、この点に注目している。
日本の機関投資家のPCへの思慮深くかつ前向きな取り組みを好感

日本拠点代表/日本ビジネス責任者
麻生 博文氏
欧米の双方に投資している御社として、欧州と米国のPC市場でそれぞれ感じる特徴はありますか。
ドゥーマー PC発展の経緯が欧州と米国で異なることを理解する必要がある。欧州は銀行の代替としての存在であり、米国は資本市場における債券投資の一形態として発展してきた。そう考えると、欧州はローン契約書が厳格であり、デューデリジェンス情報へのアクセスや適切な精査時間、月次財務情報が入手可能。一方、米国はクレジット投資家の種類も多く、競争も激しいため、発行体中心の考え方が可能となり、契約内容も市場環境や需給によって柔軟に変化しうる。
当社として、投資先の分析が市場環境によって甘くなることは決してありえないが、足元の市場トレンドも把握しつつ、適切な投資機会にジョインすることが大事である。
DLは、新たなアセットクラスとして受け入れられつつある一方で、他のプライベート・デット(PD)運用も存在感を高めています。その現状をどう受け止めていますか。
ドゥーマー 投資家のポートフォリオの選択肢の一つとして確立するには、時間を要することは勿論、分散効果やリスク・リターンの妙味など、複数のメリットが期待できることが必要となろう。その意味で昨今のPCの地位向上と、PDの中での選択肢拡大は当事者として好感している。
さらに広い視点に立てば、PCの確立によって直接金融の選択肢が増え、それが間接金融の銀行システムの安定性にも寄与しているとも見ることができる。ただ、こうした比較的新しいPDについてはいくつかの視点も持っておきたい。
(1)過去のリスク局面が少ないことが将来的にも言えるのかどうか、(2)信用創造としてのファイナンスとして世の中に役立つものかどうか、(3)誰にとってメリットが大きいファイナンスであり、そのリスク・リターンは適切なのかどうか、など幅広く見ていく必要がありそうだ。
日本拠点は、設立から3年目に入りました。日本の投資家にメッセージをお願いします。
麻生 DL市場のデフォルト率は比較的低位を維持しながらも金利高が続いている。投資先の状況の違いによって運用会社ごとに差が出てくると見ているが、こうした状況は当社の投資アプローチにとって優位性を発揮できる局面と考える。
また、投資家様からの問い合わせは更に具体的になってきており、情報の開示は大切な要素。当社では今秋から日本での体制を強化し、お客様の更なるご満足のための日本拠点でありたいと考える。
当記事は、パーク・スクエア・キャピタルLLPならびにパーク・スクエア・キャピタル・ジャパン株式会社(当社)の紹介ならびに現在の市場環境における当社の見解を述べたものであり、情報提供を目的として作成されたものです。当記事は特定の金融商品の勧誘を行うものではなく、また当社承諾なしに複製・転用することはできません。内容については信頼できると思われる情報に基づき作成されていると考えておりますが、その正確性及び完全性を保証するものではありません。
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