荒巻 佑介

荒巻 佑介
三菱UFJ信託銀行株式会社
運用商品開発部
株式運用課
シニアプロダクトスペシャリスト

2007年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。主にセルサイドアナリストとして活動。
2015年より大和ファンド・コンサルティングで外国株式を中心としたFOFsのポートフォリオマネージャーとして運用助言業務に従事。
2020年、三菱UFJ信託銀行でマルチアセット戦略のファンドマネージャーを経て、2022年より現職。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。

安藤 馨

安藤 馨
三菱UFJ信託銀行株式会社
運用商品開発部
プライベートアセット運用課
シニアプロダクトスペシャリスト

2009年に三菱UFJ信託銀行に入社。市場リサーチや新商品開発業務等に従事。
2011年より運用商品開発部にて、オルタナティブ投資を中心とする外部運用ファンドの評価・選定・モニタリング業務に従事。
東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了。CAIA協会認定オルタナティブ投資アナリスト。

Ⅰ.はじめに

近年の外国株式市場では、マグニフィセント7に代表される特定の大型銘柄が市場全体をけん引する場面がみられるほか、金利環境の変化により物色傾向も大きく変化している。これにより、国・地域、セクター、サイズ、スタイル(バリュー、グロース等)といった投資戦略の選好が局面によって目まぐるしく変化し、単一の外国株式アクティブファンドに持続的な超過収益獲得を期待することが難しい状況となっている。

本稿では、こうした環境下において、外国株式アクティブファンドをどのように保有するべきかについて、戦略別・地域別のパフォーマンス分析を踏まえたうえで、複数ファンドの組み合わせによる分散投資効果について検証する。また、株式投資の新たな機会を追求する観点から、プライベートエクイティファンドを通じた非上場企業への投資についてもその効果を検討する。

Ⅱ. 外国株式アクティブファンドのパフォーマンス動向

1. 戦略カテゴリー別のパフォーマンス振り返り

まず始めに、外国株式アクティブファンドのパフォーマンス動向を確認したい。なお、本稿では、ファンドのデータはeVestment社が提供するデータベースを使用する。このデータベースは、主に同社の提示するアンケート項目に対して運用会社が回答すると共に、対象ファンドの属性やパフォーマンスデータを提供して構築されるものである。また、ファンドの超過収益の水準を測るベンチマークとして、ドイツ取引所グループ傘下のSTOXX Ltd.が提供する指数データを使用する。

図表1はeVestment社のデータベースに登録されたグローバル株ファンド(ロングオンリーのアクティブファンド)から3つの戦略カテゴリー(コア、グロース、バリュー)に分類されるファンドを抽出。その中で、2005年4月から2025年3月まで20年間分の月次リターンデータが存在するファンドについて、比較的良好な結果であったファンドの傾向を分析するため20年間累積のパフォーマンスが各カテゴリー内で上位50%に属するファンドの平均リターンを計算(分析対象となったファンド本数はコア66本、グロース42本、バリュー48本)。それぞれについて、先進国+新興国株指数(STOXX World All Countries Index)に対する超過収益の推移を見たものである。

図表1:戦略カテゴリー別の超過収益の推移
図表1:戦略カテゴリー別の超過収益の推移
出所:eVestment社、STOXX社のデータより三菱UFJ信託銀行作成

リーマンショック以降の2010年代は低金利環境が続いていたことから、バリュエーションの観点から恩恵を受けやすいとされるグロース戦略が相対的に高い超過収益を獲得していた。しかし、2021年後半以降はパンデミックからの景気回復とサプライチェーンの混乱等によるインフレ対策として、FRB(米国連邦準備制度理事会)をはじめ各国中央銀行が金融引き締めを実施。世界的に長期金利が上昇する中、それまでの極端な二極化の反動もあってグロース戦略のパフォーマンスは相対的に劣後したことが見て取れる。一方、バリュー戦略は低金利環境下で超過収益の低迷が続いていたが、金利上昇の恩恵を受けやすい金融セクターなどへの配分が多い傾向にあるため、2021年後半以降の金利上昇局面で大きく回復。グロース戦略と対称的な動きとなっている。

このようにグロース戦略やバリュー戦略のような特定のスタイルに偏った戦略は局面によって超過収益の出方が大きく変化するが、コア戦略の超過収益は相対的に変動が小さく推移してきたことが観察できる。また、足もとの超過収益はどの戦略においてもベンチマーク並みかマイナス圏にあり、単一の外国株式アクティブファンドに持続的な超過収益獲得を期待することが難しい環境であったことが窺える。

2. グローバル株ファンドと地域特化型ファンドの超過収益の比較

次に地域特化型ファンド(米国株ファンド、欧州株ファンド、新興国株ファンド)のパフォーマンス動向を確認したい。図表2はeVestment社のデータベースに登録のあるグローバル株ファンド、米国株ファンド、欧州株ファンド、新興国株ファンド(全てロングオンリーのアクティブファンド)を抽出。2005年4月から2025年3月まで20年間分の月次リターンデータが存在するファンドについて、比較的良好な結果であったファンドの傾向を分析するため20年累積のパフォーマンスが上位50%に属するファンドの平均リターンを計算(分析対象となったファンド本数はグローバル173本、米国742本、欧州74本、新興国39本)。それぞれ下記※のベンチマークに対する超過収益の推移を見たものである。

※グローバル株ファンド:STOXX World All Countries Index
米国株ファンド:STOXX US Index
欧州株ファンド:STOXX Developed Europe Index
新興国株ファンド:STOXX Emerging Markets Index

図表2:超過収益(過去12ヵ月累積ローリング)の推移
図表2:超過収益(過去12ヵ月累積ローリング)の推移
出所:eVestment社、STOXX社のデータより三菱UFJ信託銀行作成

図表2には全期間の平均値(横線)を併せて掲載しているが、超過収益の水準はグローバル株ファンドが2.2%、米国株ファンドが1.3%、欧州株ファンドが2.5%、新興国株ファンドが2.3%と、米国株ファンドが相対的に低い水準にある。世界最大の時価総額を誇る米国は他の市場と比較して情報の非対称性が少なく効率的であり、超過収益の獲得が相対的に難しい市場となっている可能性が考えられる。

また、図表2から観察できることとして、過去と比較して近年の超過収益水準がやや切り下がってきている点が挙げられる。近年の株式市場はマグニフィセント7に代表されるような特定の大型銘柄が市場全体をけん引するなど、特に2024年は市場をアウトパフォームする銘柄群がグローバルで見て少なかったこともあり、アクティブファンドにとって超過収益を獲得するハードルが高かったものと推察される。

このようにスタイルや地域など、単一の外国株式アクティブファンドに持続的な超過収益獲得を期待することは難しい環境となっている現状に鑑み、次章では、どのように外国株式アクティブファンドを組み合わせて持つことが有効なのか考察したい。

Ⅲ.どのような持ち方がワークするのか(組み合わせ効果検証)

複数ファンドを組み合わせて保有する意義のひとつに分散投資効果が挙げられる。2ファンドを組み合わせたポートフォリオのリスク(標準偏差)は以下の式で求められる。

ポートフォリオのリスク =  (w₁²σ₁² + w₂²σ₂² + 2w₁w₂σ₁σ₂ρ)

※w₁、w₂:ファンド1と2のウェイト
σ₁、σ₂:ファンド1と2のリスク
ρ:ファンド1と2の相関係数

すなわち、相関関係が低い(または負の相関がある)ファンドを組み合わせると、ポートフォリオ全体のリスクを抑えることができる。外国株式アクティブファンドの組み合わせを検証するにあたっては、トラッキングエラー(TE、ベンチマークからの乖離度合いを示すリスク指標)対比の超過収益水準を表すIR(インフォメーション・レシオ)を中心に、局面に応じた超過収益の傾向を確認する。

ここでまず、Ⅱ章でパフォーマンス動向を確認したグローバル株投資における3戦略カテゴリーの組み合わせを検証したい。分析にはⅡ章と同様にコア、グロース、バリューの各カテゴリーにおける20年累積のパフォーマンスが上位50%に位置するファンドの平均リターンを使用する。

図表3は検証を行った組み合わせの2025年3月末時点から過去10年・5年・3年の結果をまとめたものである。超過収益を求めるにあたっては、先進国+新興国株指数(STOXX World All Countries Index)を使用し、3ヵ月ごとに組み入れウェイトをリバランスしてシミュレーションを行った。

本分析では、Ⅱ章で見た通り、超過収益の変動が相対的に小さいコア戦略をポートフォリオのコアとし、局面によって超過収益の出方が大きく変化するグロース戦略とバリュー戦略をサテライトとして考える。そこで、コア80%、対称的な動きとなりやすいグロース・バリューをそれぞれ10%のウェイトで組み合わせたものが図表3で示す「サテライト2割」である。コア戦略単体への投資と比較して、サテライトへの分散により過去10年のIR に多少の改善がみられたものの、過去5年・3年で明確な違いはみられなかった。

また、「サテライト4割」はコア60%、グロース・バリューそれぞれ20%のウェイトで組み合わせたもの・・・と続き、「サテライト10割」はグロース・バリューそれぞれ50%のウェイトで組み合わせたものである。過去10年では「サテライト10割」がIR最大となるものの、大きく物色傾向が変化した過去5年や過去3年の結果も勘案すると、サテライトを2割から4割程度のウェイトで組み合わせることが効果的と言えそうである。

なお、複数ファンドの組み合わせにおいては、組み合わせるファンドのポートフォリオ特性がそれぞれ異なるため、投資家が意図しないリスクをとってしまう可能性がある点が課題として挙げられる。国別配分は次に述べる地域特化型ファンドへの配分でコントロールする方法は考えられるものの、セクター配分やスタイルの偏りが出てしまう可能性に加えて、特定の個別銘柄にリスクが偏ってしまう可能性には留意が必要である。

図表3:組み合わせ検証①
図表3:組み合わせ検証①
出所:eVestment 社、STOXX 社のデータより三菱UFJ 信託銀行作成

次に、地域特化型ファンドについての組み合わせを検証したい。分析には、こちらもⅡ章と同様にグローバル株ファンド、米国株ファンド、欧州株ファンド、新興国株ファンドにおける20年累積のパフォーマンスが上位50%に位置するファンドの平均リターンを使用する。

図表3と同様に、超過収益を求めるにあたっては、先進国+新興国株指数(STOXX World All Countries Index)を使用し、3ヵ月ごとに組み入れウェイトをリバランスしてシミュレーションを行った。

図表4において、グローバル株ファンドのみへの投資結果である「グローバル株」に対して、ベンチマークにおける時価比率を念頭に置き米国65%、欧州25%、新興国10%のウェイトで地域特化型ファンドを組み合わせた投資結果が「地域特化」である。2025年3月末時点(左)、2020年3月末時点(中)、2015年3月末時点(右)と3つの時点からの結果を見ると、IR面で過去は「グローバル株」が優位であったが、直近5年間では「地域特化」とほぼ同水準となっている。また、超過収益という観点では特に2015年3月末時点からの5年間において「地域特化」がグローバル株を上回っている。この検証における「地域特化」には「グローバル株」には含まれるカナダやパシフィックの株式が含まれていない点や地域配分は過去も常に米国65%、欧州25%、新興国10%ではなかった点には留意が必要だが、地域特化型ファンドの組み合わせが超過収益の底上げに効果的となる局面もあると考えられる。Ⅱ章で見た通り、特に超過収益の水準が相対的に高い欧州株ファンドや新興国株ファンドを上手く活用することで、リスク・リターン改善の可能性があるのではないだろうか。

図表4:組み合わせ検証②
図表4:組み合わせ検証②
出所:eVestment 社、STOXX 社のデータより三菱UFJ 信託銀行作成

以上の分析結果から、過去からの傾向と比較しても、物色傾向が目まぐるしく変化する現状においては従来にも増して戦略分散の重要性が増していると考えられる。そのため、①スタイルの異なるファンドを組み合わせて分散投資効果を享受すること、②地域特化型ファンドの組み合わせなども活用して超過収益の底上げを図ることの必要性が高まっているとも考えられるだろう。

次章では、株式投資における更なる超過収益の底上げ、ないしはより分散を効かせたポートフォリオ構築を通じたリスク・リターン水準の改善追及等の観点から、新たに追加する収益源の候補として、プライベートエクイティ(以下、PE)の組み入れ可能性についても検討したい。

近年、世界的に見ても上場企業に対するコーポレート・ガバナンスや情報開示等の規制強化に伴う負担の増加、上場維持や新規上場に係るコストの増加、PEファンドなどの上場代替資金調達手段の多様化等を背景に、上場企業数が減少ないしは伸び悩む動きがある。その一方で、PEファンドを通じて資本調達を行う非上場企業の数は増加している。PEファンドからの資金調達を通じ、非上場のまま高成長を実現するユニコーン企業も多く現れており、PE投資は投資家にとっても無視できない領域になってきていると考えられる。

Ⅳ.上場株式とプライベートエクイティの併用について

本章では、上場株式ファンドを中心とするポートフォリオにおいて、一部PE投資商品を組み入れることの可能性・効果について考察する。

1. 近年のプライベートエクイティ市場の動向

詳しくは本誌2022年11月号「プライベートアセットにおける投資手法の発展」に記載しているが、近年、個人投資家に対する投資機会の開放の動きに伴い、オープンエンド型のプライベートアセット商品が増加している。

その傾向は、従来は不動産やインフラ領域での商品が多かったが、近年ではPE投資においてもオープンエンド型商品の提供が増加しており、個人投資家のみならず機関投資家からの投資も拡大している。

オープンエンド型PE商品の登場は、従前、上場株式ポートフォリオの中にPE商品を組み入れようとする際に課題となっていた下記の点を一定程度解消しうる可能性を有している。それゆえ、株式ポートフォリオへの有力な組み入れ候補になり得るものと考えられる。以下に課題及びそれらの解消策となる具体的な理由を3つ挙げる。

① アロケーション調整/リバランスが一定程度可能

従来型のクローズドエンド型商品を介したPE投資の場合、キャピタルコールや分配金発生に伴うキャッシュフローを投資家側でコントロールすることは難しく、PEに対するエクスポージャーを投資家側で管理・調整することは容易ではない。また、PEに対する投資の意思決定を行ってから、実際にエクスポージャーを積み上げていくまでには、キャピタルコールがかかるのを辛抱強く待つ必要がある。そのため、投資家の意図する水準にまでエクスポージャーが積み上がるまでには年単位の時間を要することも珍しくない。

一方、オープンエンド型商品を介したPE投資においては、個別ファンド毎に制約条件に差はあるものの、投資家側が希望するタイミングで追加投資や一部解約申込を行うことができる。また、投資開始直後からキャッシュを滞留させること無く即座にPE資産に対するエクスポージャーを取得できる。これらにより、資産配分比率を目標レンジに維持しやすい。また、投資回収の際に発生する分配金についても、オープンエンド型商品ではファンド内で自動的に再投資に充てられるものが多い、投資家側のオペレーション管理の負担が軽いほか、再投資に伴う複利効果を享受しやすいこともメリットである。

② 上場株式投資と同じパフォーマンス尺度での評価が可能

クローズドエンド型商品を通じたPE投資では、パフォーマンス計測基準として、投資開始来の内部収益率(IRR)が用いられることが一般的だが、オープンエンド型商品を介したPE投資では、他の上場株式投資と同様、時間加重収益率を用いてのパフォーマンス計測が可能である。上場株式ベンチマーク対比でのパフォーマンス評価も行いやすく、それゆえ、伝統的資産から構成されるポートフォリオの中にも組み入れ易い利点を有していると言えるだろう。

③ Jカーブ効果の影響を受けにくい

クローズドエンド型のPE投資では、投資開始後間もないポートフォリオ構築初期段階においては、投資活動を通じて得る価値向上よりも費用計上が先行することから、当初数年程度の期間はリターンがマイナスになりやすい傾向がある(いわゆるJカーブ効果)。

一方、オープンエンド型商品を介したPE投資においては、十分に分散が効いた成熟したPEポートフォリオに即座にアクセスすることも可能であるため、Jカーブ効果の影響を受けにくく、投資開始直後からプラスリターンを得ることも期待できる。

例えばではあるが、ベンチマークに対して継続的にアウトパフォームすることが期待されるような立場にある投資家(アクティブファンドのマネージャーなど)にとっても、投資開始直後のJカーブ期を避けながらPE資産にアクセスできる可能性を有するオープンエンド型商品は魅力的に映るものと考えられる。

以上の点を踏まえると、オープンエンド型PE商品は、従来型のクローズドエンド型商品との比較で、上場株式ポートフォリオに比較的容易に組み入れやすい特性を有していると捉えることができるだろう。

2. 上場株式とプライベートエクイティを併せて持つ意義と有効性検証

次に、本項では、上場株式ポートフォリオ内にPE資産を一部併せ持つことの意義・効用について考察する。

上場株式中心のポートフォリオの中に一部PE資産も併せ持つことについては、以下の点から、ポートフォリオ全体に対してメリットをもたらす可能性があると考えられる。

① リターン向上の可能性

上場株式投資は、上場企業の株式を投資対象とする一方、PE投資は、非上場企業の株式を投資対象としており、両者が投資対象とする企業群は基本的に異なる。一般に、PE市場は、中長期的には上場株式市場をアウトパフォームしやすい傾向があるといわれており、従来の株式ポートフォリオの一部にPE商品を組み入れた場合には、ポートフォリオ全体のリターン底上げ効果が期待できる可能性もある。

PE市場では、上場企業に比べ、情報開示や内部統制等の制約に過度に縛られることなく、比較的柔軟な会社運営を行いやすい。また、投資家側も流動性が乏しいことを承知のうえ長期目線で投資を行っていることから、企業としても、四半期毎の短期的な業績動向に過度に一喜一憂することなく、長期的視野に立って企業価値向上施策を行っていくことができる。

また、PE投資においては、運営に非効率性が残る中小企業や創業後間もないベンチャー企業なども含め、様々な成長ステージにある企業群に投資を行っていくことから、成長ポテンシャルや価値向上余地を依然多く残っている企業も少なくない。

PE投資(特にバイアウト投資)においては、こうした企業に対して、ジェネラル・パートナーと呼ばれるPEマネージャーが経営権の過半を実際に取得したうえで当該企業の経営に参画していくことから、上場株式投資と比較して、より直接的かつ積極的に投資先企業に対して影響力を行使することが可能である。

こうした点が複合的に組み合わさることが、PEの投資先企業が比較的高い成長性を実現しやすい傾向、上場株式市場をアウトパフォームしやすい傾向の素地になっているとも考えられる。

② 分散効果

上場株式を中心とするポートフォリオにPEファンドを一部組み入れる場合、投資先企業の数や値動きの観点からの分散も期待でき、結果、ポートフォリオ全体のリスク・リターンを改善させる効果も期待できる。

先にも触れたが、近年の上場株式市場では、マグニフィセント7に代表される特定の大型銘柄が市場全体をけん引する場面も増えているが、背景には、株式市場におけるこれら銘柄の占有率が近年大きく高まってきていたことも影響していると考えられる。上場株式市場として、一部銘柄への集中度の高まりがみられる状況下においては、上場株式とは異なる企業ユニバースを有するPE投資を追加することで、投資先企業数の観点からより幅広く分散が効いたポートフォリオの構築が可能となる(※1)。また、前述の通り、近年、上場企業数が伸び悩む一方で、PEファンドを通じた資本調達を行う非上場企業の数は年々増加しており、非上場のまま高成長を実現するユニコーン企業も多く現れている。PE商品を組み入れることで、株式投資のより幅広い収益機会にもアクセスできるようになるとも言える。

加えて、値動きの観点から見ても、上場株式投資とPE投資とでは投資対象とする企業群が異なり、それぞれの企業群の成長ステージの違いなども背景に、両者の値動きは少なからず異なる傾向となることが期待される。結果、ポートフォリオ全体のリスク・リターン改善にも寄与し得ると考えられる(※2)。

※1 PE投資全体としては、地域別では米国、セクター別ではテクノロジーセクターへの配分比率が高くなる傾向があることなどから、ポートフォリオ全体としての地域別・セクター別配分比率等への影響は気にしておく必要はある。

※2 もともとPE投資は、流動性が乏しい非上場株式が投資対象としていることから、時価評価される頻度が少なく、その開示にもタイムラグがあることも相まって、長期的な目線からのバリュエーション評価額が付されることとなる。こうして算定された評価額によるリターンは、価格変動が均され、変動幅が緩やかになる傾向がある。これはいわゆる「パフォーマンスの平滑化」と呼ばれる事象であり、ボラティリティが過小評価されてしまう可能性があることからもリスク管理の観点から留意が必要であるが、こうした点も、PE投資の値動きが上場株式動きとは異なる動きをする要因の1つにもなっている。

尚、上記では、オープンエンド型PE商品の組み入れに係る意義・効果について述べたが、その留意点も簡単に触れておくこととする。

まず、商品毎の個別性の高さが挙げられる。一口にオープンエンド型PE商品と言っても、投資戦略の構成や投資・解約時の制約条件、NAV評価実施の頻度、情報開示の水準等は様々であり、その個別性は高い。また、特にPE領域のオープンエンド型商品は、比較的最近になってから設定が増えた経緯もあり、トラックレコードが短い商品が多く、保有PEポートフォリオの残高規模や成熟度、分散状況等についても商品毎に差がある状況にある。主とする投資対象や投資戦略の構成比率次第で、商品としてのリターン特性も変わってくるが、ポートフォリオの構築状況などによってもこれは異なってくることから、注意が必要である。特にPE投資の場合、上場企業への投資と比べても、個社毎のレベルでは投資先企業について相対的に高い倒産リスクを伴っている事が多い。想定以上の規模の予期せぬ損失を被るリスクを避けるためにも、十分に分散が為されたポートフォリオを擁するPE商品を選択することがより重要になるであろう。

投資・解約に際しての制限条項についても正しく認識しておく必要がある。オープンエンド型PE商品においては、通常、投資家からの解約申込受付に際して、一定程度の事前通知期間、ファンドないし投資家レベルでのゲート条項、並びにロックアップ条項等が定められていることが一般的である。市場のストレス局面やファンドのパフォーマンス不振局面などに、投資家からの解約申込が増加・集中する可能性も見込まれる。結果、希望するタイミングでの解約が行えず、場合によってはキャッシュ化までに年単位での時間を要するようなケースも起こり得る。他の投資家からの資金流出入の影響を受けることから、投資先ファンドの投資家構成がどのようになっているかについても、あらかじめ把握しておくことが好ましい。大口の投資申込や解約申込が生じた際には、ファンド内で一定程度のキャッシュ滞留も生じやすくなり、PE投資由来のリターンが一部希薄化されてしまう可能性がある。

オープンエンド型PE商品をポートフォリオに組み入れることについては、意義・効用が見込まれる一方で、こうしたリスク・留意点も存在する。PE商品の組み入れを検討するに際しては、その商品性を十分に理解したうえで投資を行う必要があるだろう。

3. 組み入れ効果の検証

最後に、上述のような定性的な観点からの意義・留意点等も踏まえたうえで、上場株式ポートフォリオの一部にオープンエンド型PEファンドを追加する場合のポートフォリオへの影響について、定量的な観点から検証したい。

前述の通り、PE領域のオープンエンド型商品は、最近になってから設定が増えた経緯もあり、長いトラックレコードを有するファンド数が多くない。また、現状では「オープンエンド型PEファンド」として業界内で標準化された類型がある訳ではない。加えて、商品毎に個別性が高いことからも、該当するファンド群を網羅的に抽出することも容易ではない。

そこで、本稿では、弊社が独自に調査したプライベートアセットに係るオープンエンド型商品群ユニバースのうち、①PEを主な投資対象とし、②一定期間(3年)以上の月次トラックレコード、及び③一定規模(10億ドル)以上の残高を有することを確認できた5本のファンドについて、これをオープンエンド型PE商品の標本集団と見なし、この平均値を用いて分析を行うこととした。また、分析対象期間は、標本集団のトラックレコードの制約もあり、2022年4月~2025年3月の3年間に限って実施した(※3)。以下、これをPEファンドと表記する。

※3 尚、標本集団である5本のファンド間における、対象期間3年における相互間パフォーマンス相関係数は▲0.1~0.5程度であった。値としては大きくなく、当該領域における商品毎の個別性の高さが伺える。また、互いに相関が高くないファンドの平均値(≒均等保有)を分析の前提に用いていることから、「PE ファンド」カテゴリ内でも分散効果が働き、PEファンド1本を単独保有する場合に比べてリスク水準がより低く表れうる点には留意が必要である。逆の見方をすると、仮に優良なPE ファンド商品を複数選定し投資することができれば、投資に際して一層高い分散効果を享受できることが示唆される。

まず、過去3年間のパフォーマンス動向、及び上場株式ファンド(Ⅲ章と同じデータを使用)との相関係数は下記の通りである。

図表5:PEファンドのパフォーマンス、相関係数
図表5:PEファンドのパフォーマンス、相関係数
出所:eVestment 社、STOXX 社のデータ、PE ファンド各社FACTSHEET より三菱UFJ 信託銀行作成

分析期間は短いものの、PEファンドが過去3年間は安定的に推移し、上場株式ファンドをアウトパフォームしていたこと(≒リターンの底上げ効果)が確認できる。また、上場株式ファンドとの相関係数も0.7程度であり、上場株式市場と若干異なる値動きをしていたこと(≒分散効果)も確認できる。

特に値動きに関しては、株式市場が下落する局面においてPEファンドの下落幅は相対的に小幅に留まる傾向が見て取れる。より強い市場ストレス局面が生じた際にも同様の動きをするとは限らない点には注意が必要だが、上場株式対比でのダウンサイド耐性に期待することができそうである。

図表6:組み合わせ検証③
図表6:組み合わせ検証③
出所:eVestment 社、STOXX 社のデータ、PE ファンド各社FACTSHEET より三菱UFJ 信託銀行作成

図表6はⅢ章と同様にPEファンドをグローバル上場株式のコア戦略と組み合わせた場合の分析結果(※4)である(PE1割はコア戦略・PEファンドを9割・1割で組み合わせたもの)。
図表6上段ではPEファンドの組み入れ比率を高めるほど、リターン水準は上昇し、かつリスク水準は低下していることが分かる。PEファンド組み入れ比率が高いほど投資効率(リターン/リスク)も改善する結果となっており、分散投資効果が働いているものと考えられる。但し、同時にポートフォリオの流動性リスクも高まっていることについては注意が必要である。

図表6下段でも、PEファンドの組み入れ比率を高めるほど、超過収益水準が上昇しているが、一方でここではTEも上昇している。PEファンドは上場株式市場とは異なる値動きをすることから、上場株式市場のベンチマーク対比では高いTEを示すことが避けられないことが理由として挙げられる。IRの観点からは、当該期間においてはPEファンドを2割程度組み入れることが有効であったことが示唆される結果となった。

本分析については、データサンプルに係る制約から、少ない標本集団、短い分析対象期間に依拠した分析であるため、今回得られた結果が常に有効であると言い切ることは難しいが、少なくとも、上場株式ポートフォリオの中にPEファンドを一部組み入れることにより、リターンの底上げ効果、及びポートフォリオ全体のリスク・リターン改善効果を得られる可能性があることが示唆される内容であったと言えるではないだろうか。

※4 上場株式の場合と比べ、非上場株式の価格変動について正規分布を仮定することは一般的ではないものの、本稿においては、前提の簡素化のため、上場株式と同等に扱う事としている。前述の通り、上場株式とPEとでは値動きの特性が異なることから、標準偏差の単純比較のみを以てリスクの大小を判断すべきではないことには留意が必要である

Ⅴ.終わりに

本稿では、単一の外国株式アクティブファンドに持続的な超過収益獲得を期待することが難しい環境を踏まえ、どのようにファンドを組み合わせて持つことが有効なのかを考察した。

Ⅲ章では、スタイル別および地域別の観点から検証・考察を行い、スタイルの異なるファンドや地域特化型ファンドを組み合わせて持つことで、分散投資効果を享受することの重要性を再確認したほか、超過収益の底上げを図れる可能性を確認した。

またIV章では、株式投資における更なる超過収益機会の追求、ないしリスク・リターン水準の改善追求の観点から、新たな収益源の候補としてPEファンドの組み入れについても検討し、その効果・有効性が示唆される結果が得られた。上場企業においてマグニフィセント7に代表される超大型企業に時価総額が偏るなか、より分散した株式のポートフォリオを構築するにはPEファンドの併用に一考の余地があるだろう。

本稿が、投資家の皆さまにとって将来的な資産運用の一助となれば幸いである。
(2025年7月28日 記)

※本稿中で述べた意見、考察等は、筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する組織の公式見解ではない
【参考文献】
・三菱UFJ信託銀行 資産運用情報2022年11月号「プライベートアセットにおける投資手法の発展」
・Hamilton Lane Advisors「What Have You Done for Me Lately?」(2024)
・Morgan Stanley Investment Management「The Compelling Case for Semi-Liquid Evergreen Private Equity」(2025)
・Partners Group「Navigating the evergreen fund frenzy」(2024)
・Franklin Templeton「Private Markets Insights: Not a simple open and closed case」(2025)
・野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング「オルタナティブ投資に係る特性等の調査研究 報告書」(2024)

本記事は三菱UFJ信託銀行が公開する「資産運用情報」の転載記事です。

ご注意:
・本資料は、お客さまに対する情報提供のみを目的としたものであり、三菱UFJ信託銀行が特定の有価証券・取引や運用商品を推奨するものではありません。
・ここに記載されているデータ、意見等は三菱UFJ信託銀行が公に入手可能な情報に基づき作成したものですが、その正確性、完全性、情報や意見の妥当性を保証するものではなく、また、当該データ、意見等を使用した結果についてもなんら保証するものではありません。
・本資料に記載している見解等は本資料作成時における判断であり、経済環境の変化や相場変動、制度や税制等の変更によって予告なしに内容が変更されることがありますので、予めご了承ください。
・三菱UFJ信託銀行はいかなる場合においても、本資料を提供した投資家ならびに直接間接を問わず本資料を当該投資家から受け取った第三者に対し、あらゆる直接的、特別な、または間接的な損害等について、賠償責任を負うものではなく、投資家の三菱UFJ信託銀行に対する損害賠償請求権は明示的に放棄されていることを前提とします。
・本資料の著作権は三菱UFJ信託銀行に属し、その目的を問わず無断で引用または複製することを禁じます。但し、第三者に著作権が属し三菱UFJ信託銀行が使用許諾を得て掲載している内容が含まれる場合があり、その部分の著作権は当該所有者に属します。
・本資料で紹介・引用している金融商品等につき三菱UFJ信託銀行にてご投資いただく際には、各商品等に所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、各商品等には相場変動等による損失を生じる恐れや解約に制限がある場合があります。なお、商品毎に手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品の契約締結前交付書面や目論見書またはお客さま向け資料をよくお読み下さい。