名ばかりのESG対応を行うなどを企業は意図的に行なう、悪い情報は公表しない、あるいは無意識に公表資料を誇張するなどの傾向があることも否定できない。このESG粉飾は、グリーンウォッシングなどと呼ばれ、少なくない。しかし、投資家がESG投資を行うにあたって、ESG情報が正しいことが必須であり、粉飾ESGを適切に捉える必要がある。最後にあたり、ESG投資を有効に行える適切・確実なESG粉飾対応策を2回に分けて考えてみよう。
古典的な粉飾である、残存価値と割引率に非現実な仮定をおいて利益をかさ上げする方法がESGでもなされる。
開示された財務諸表などのデータから粉飾ESGの兆候を見抜くには、伝統的な調査方法が有効なのか、内部で集計された数値はどう信用すれば良いのか、など課題が残されている。しかし、ここでは非伝統的調査方法を主に取り上げる。
対応策は、事前と事後、さらに個別と共通、に分けて分類
事前対策には、まず、事前調査という方法がある。それは企業と市場の調査に分けられる。調査に関しては、非伝統的と呼べる視点があるので図表1に例を示した。
これらの視点以外では、製造より検査部門の立場が弱くないか、検査部門をコストとみているか、生産優先で検査部門を軽視する風土があるかなども調査項目にするべきであろう。
企業と市場の調査 | |
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要点:
企業調査の非伝統的視点の例 概略:
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要点:
市場調査の非伝統的視点の例 概略:
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デジタル化と開示 | |
要点:
デジタル化 概略: |
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要点:
開示の非伝統的視点の例 概略:
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科学的技法の導入 | |
要点:
事前検知の技法 概略: |
市場調査の伝統的方法の1つは、粉飾のため株価操作されていないか、株価変動の異常度の調査である。また、生産方法や設備が異なれば、耐用年数を含めた償却方法が違い、減価償却費も異なるようになるが、正確な所は開示してもらうしかない。
事前対策の基本の1つはデジタル化と開示
組織をデジタル化すれば、エラーチェックが出来、人為的なミスを減らせるだけでなく、膨大なデータから不正の証拠を探し出すことも可能になる。
十分な開示があればデジタル化の一部は不要となるが、デジタル化すれば開示は不要というわけではない。
事前検知の技法は、個別の会計仕訳の異常度の分析にも応用できる。しかし、最も重要視すべき科学的な事前対策には、インセンティブのデザインがある。
例えばサプライチェーンでの炭素排出削減やトレーサビリティ実現に努力・貢献する協力会社に対して、価格改定時や原価低減要請時に負担を和らげてあげるなどのインセンティブを設計する方法が知られている。
粉飾ESG事後対策は3分類される
次に図表2の事後対策に移ろう。
例えば製品の内と外で素材が異なる点を発見する科学的な分解調査を行うことは通常困難で専門会社に依頼すべきである。そして事後対策の規制は適切でなければならない。欧州では2006年施行のRoHS規制(Restriction of Hazardous Substances Directive:特定有害物質に対する使用制限令)がある。
粉飾ESGの事後対策 | |
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(1)使用制限令等の規制 概略: 科学的な調査は専門会社に依頼する。強力な事後対策は規制に依るしかない |
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(2)監査の伝統的手法3原則を援用 概略: なされた不正には、①現物・現地を視察、②子会社、関連会社の往査、③確認(相手に紹介して文書等による回答を求める) |
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(3)法令への訴えや政策提言 概略: 集団訴訟、一部ではアドボカシ―(advocacy)と呼ばれる。政策提言まで含む。成果が出るまでに時間と費用がかかるのが欠点 |
監査の伝統的手法でもある、図表2中(2)の3原則に基づいて実際に調べれば、時間と費用がかかるが、誰でもほとんどの不正はほぼ分かるようになる。
法令への訴えや政策提言では、例えばイメージ工作に対抗するには、景品表示法違反(優良誤認あるいは有利誤認)を当局に告訴する、などが事例になる。
辰巳憲一
学習院大学名誉教授
大阪大学経済学部、米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数