米国消費者物価・前年同月比は11月分までには鈍化の可能性も

宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉

2022年8月分の米国CPI(消費者物価指数)の前年同月比はプラス8.3%で7月分のプラス8.5%に続く8%台の高い伸び率だった。8月分・米国CPI(除く、食料・エネルギー)の前年同月比はプラス6.3%で7月分のプラス5.9%から伸び率が高まった。

これを受けて9月のFOMC(連邦公開市場委員会)では3回連続で通常の3倍の幅に当たる0.75%の利上げを実施した。

さらにインフレ鎮静化へ向けた並々ならぬ覚悟で、FRB(米連邦準備理事会)が今後も利上げを進める姿勢を示したことで、マーケットは景気後退への警戒を強めている。当面は物価動向を眺めながら、不安定な相場展開が続きそうだ。

原油価格は2022年9月まで、先行きの景気後退への警戒から低下した。WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)月中平均でみると、2022年6月に114.34ドル/バレルとピークをつけたが、7月に99.38ドル/バレル、8月に91.48ドル/バレル、9月に83.80ドル/バレルと低下し、エネルギー価格の物価押し上げ寄与度は弱まってきていた。

しかし、OPEC(石油輸出国機構)プラスは2022年10月5日の閣僚級会合で、11月から世界需要の2%に相当する減産幅の、日量200万バレルの大幅減産を実施することで合意、WTIは買い進まれ、10月10日の終値で91.13ドル/バレルになった。足元の原油価格の動向は要注視だろう。

米国CPIの昨年の前月比は、9月分はプラス0.4%にとどまっていたが、10月分プラス0.9%、11月分プラス0.7%と高い伸び率だった。12月13日発表の11月分では、米国のCPI前年同月比は、かなり鈍化する可能性がありそうだ。

米国のCPIで明らかな上昇鈍化が確認できれば、過度な利上げや景気後退への懸念は和らぎ、株は買い戻しやすくなる。

9月分全国消費者物価・前年同月比は31年1カ月ぶりのプラス3%台か

2022年9月分の全国CPI・総合の前年同月比はプラス3.0%程度と8月分のプラス3.0%と同程度の上昇率で、13カ月連続の上昇になろう。9月分の全国CPI・生鮮食品を除く総合の前年同月比はプラス3.1%程度と8月分のプラス2.8%から0.3ポイント程度上昇率が高まると予測する。13カ月連続の上昇になろう。

【図表】主な物価指数:前年同月比(%)推移
主な物価指数:前年同月比(%)推移
出所:日本経済新聞社、日本銀行、総務省

予測通り、全国CPI・生鮮食品を除く総合の前年同月比がプラス3%台に上昇すれば、2014年の消費税率引き上げ時期を除き、1991年8月分のプラス3.0%(1991年7月分はプラス3.1%)以来31年1カ月ぶりのプラス3%台になる。多くのエコノミストが今年前半に予測していた伸び率より実際は上振れそうだ。

CPINow・T指数9月分の前年同月比はプラス2.77%で8月分からは0.64ポイント上昇になった。9月分の東京都区部と大阪市のCPI(中旬速報値)に、このデータを加えて総合的に判断した。

関連データである9月分東京都区部CPI(中旬速報値)では、総合の前年同月比はプラス2.8%と8月分のプラス2.9%から0.1ポイント上昇率が鈍化した。生鮮食品の前年同月比はプラス2.6%で8月分から7.5ポイント上昇率が鈍化し、総合・前年同月比寄与度差でマイナス0.28ポイント分の大幅な下落要因になった。

一方、生鮮食品を除く食料の前年同月比はプラス4.5%で、8月分から0.7ポイント上昇率が高まり、総合・前年同月比寄与度差でプラス0.14ポイントの上昇要因になった。

9月分の生鮮食品を除く総合の前年同月比は、東京都区部(速報)はプラス2.8で8月分から0.2ポイント上昇率が高まった。一方、大阪市の9月分は前年同月比プラス2.9%で8月分から0.4ポイント伸び率が高まった。

10月分で通信料(携帯電話)の前年同月比が遂にプラスに転じそう

9月分の東京都区部のCPIで、通信料(携帯電話)の前年同月比はマイナス14.4%で8月分と同じ低下率だった。10月分では、これまで前年同月比マイナスで物価低下要因だった、通信料(携帯電話)の前年同月比がプラス1.9%程度のプラスに転じる(指数水準9月47.9、2021年10月47.0)可能性が大きい。

ついに、物価上昇の波が通信料(携帯電話)まできたと受け止められると、物価の安定要因がなくなったと感じ、一般消費者のインフレに対するイメージが変わる可能性もあろう。

先行性がある日経商品指数、国内企業物価指数にかすかに変化の兆し?

エネルギー価格の高騰、食料品の値上げラッシュが続き、家計への負担は一段と増している。

帝国データバンクの9月の「食品主要105社」価格改定動向調査によると、2022年9月30日現在、10月は年内最多の6699品目で値上げが行われる予定だ。

一方でそれ以降は、11月765品目、12月は135品目にとどまる。値上げの波は10月をピークに一旦は収まりそうだ。

物価指数の前年同月比は、通常は、商品指数、国内企業物価指数、CPIの順番にピークをつける傾向がある。日経商品指数17種の前年同月比は3月分のプラス33.1%がピークだった。

2022年8月分の前年同月比はプラス16.3%だったが、9月分ではプラス10.5%まで鈍化している。仮に10月7日の指数水準が10月分だと仮定すると、10月分の前年同月比はプラス7.2%になる。

国内企業物価指数の前年同月比は1980年12月分プラス10.4%以来の高水準だった4月分プラス9.8%で直近のピークをつけたが、8月分のプラス9.0%まで9%台が続いているが、エコノミストの予測平均では2022年10月13日発表の9月分で8%台まで鈍化する見込みである。

CPIに先行する物価指数に変化の兆しが出てきたと言えなくもない。予断を持つことなく、今後の動向を注視したい。