FTSE JPXネットゼロ・ジャパンインデックス・シリーズ 日本企業の2050年ネットゼロを後押しする気候変動インデックス
EUの厳しい気候ベンチマーク基準に準拠しながら、ネットゼロへ向けて実現可能性の高い日本企業に投資する、TOPIX500をベースとした気候変動インデックスが登場した。FTSE RussellとJPX総研に、開発の経緯やインデックスの独自性などについて話を聞いた。
EUが求める定量・定性的な基準をすべてクリア
なぜいま、「ネットゼロ」に着目した日本株インデックスなのか。
森 日本では2020年の10月に、当時の菅義偉首相が2030年までに温室効果ガスの排出量を46%削減し、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ、すなわちネットゼロの達成を目指すと宣言した。これを是が非でも実現させることは、日本の経済・社会のサステナビリティ(持続可能性)という観点はもちろん、国際協調の意味からもきわめて重要といえる。
ひと言で2050年のネットゼロといっても、容易ではないし、いきなり達成できるものでもない。企業には具体的にどのような施策やマネジメントを進めていくのか、適宜十分な開示が求められる。投資家にとっても、企業の情報開示や経営のコミットメントのレベルに加えて、脱炭素へ向かう経路を適正に評価し、より実現可能性の高い企業を選別して投資することが必要になってきている。
現実問題として、脱炭素への対応が進むEUに比べると、日本では大きな資金需要をともなうトランジション(移行)が必要な段階にある企業がまだ多い。単純に炭素排出量の多い企業をダイベストメント(排除)するのではなく、むしろインデックスに入るというインセンティブとエンゲージメントによって脱炭素への取り組みを促していく方が、日本企業には適しているのではないか。「日本企業のネットゼロを後押しするインデックスをつくりたい」という思いが、今回の新商品開発につながった。
EUのベンチマーク基準に準拠した、初のTOPIX500ベースの気候変動インデックスということだが。
森 EUでは現在、いわゆるグリーンウォッシュ防止の観点からもESGやグリーン、気候移行といった概念について、定量的な指標をともなう形できちんと定義しようという動きが強まっている。EUにはベンチマーク規則が定める気候移行ベンチマーク(EU CTB)があり、そのガイドラインに則ったものだけが「EUの気候移行ベンチマークに準拠したインデックス」と名乗ることができる。
「FTSE JPXネットゼロ・ジャパンインデックス・シリーズ」は、EU CTBが求める定量・定性的な基準をすべて満たしていることが大きな特徴だ。たとえば炭素排出量と化石燃料埋蔵量のそれぞれについて、インデックスの全構成銘柄から算出された合計値が、TOPIX500をベースとする親指数と比べて30%少なくなるように各銘柄の構成比率を調整する。全構成銘柄から算出される炭素排出量の合計値そのものについても、毎年平均7%ずつ削減することを目標としている。
低炭素経済への移行はきわめて大きな投資機会
5つの気候評価指標について、具体的な意味合いは。
森 現時点で化石燃料埋蔵量や炭素排出量が多い企業については、TPI*の経営品質スコアとカーボン・パフォーマンス・スコアを通じて、削減に向けて努力している企業と、そうでない企業とが選別されることになる。それらをオーバー/アンダー・ウェイトすることで、日本企業の脱炭素を促していく。
TPIスコアが優れているのは、気候変動への取り組みが企業の経営戦略に組み込まれているかといったところまで、多面的に評価する点にある。スコープ3を含む炭素排出量などの気候関連指標の開示や、削減量および目標のパリ協定との整合性などに加えて、気候変動が取締役会で戦略的に議論されていること、取締役が割り当てられ責任の所在や報酬にも反映されていることなど、企業の本気度を重視し、それに応じてトランジションを後押ししようというのが、TPIスコアの大きな目的のひとつになっている。
グリーン収益に関しては、EU分類(タクソノミー)に基づいて、独自に作成しているFTSE Russellの基準を用いてグリーン収益を分類・認定する。たとえば農業なら有機的か、また遺伝子組み換えをおこなっていないか、養殖業なら海洋汚染に配慮しているかなど、より細かい基準で分類してインデックスに適用することで、グリーンウォッシュの可能性を排除している。
■FTSE JPXネットゼロ・ジャパンインデックス・シリーズの5つの気候評価指標
1. 炭素排出量 | CO2換算の温室効果ガス排出量 |
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2. 化石燃料埋蔵量 | 石炭、石油及びガスの埋蔵量とその使用・燃焼による推定CO2換算温室効果ガス排出量 |
3. グリーン・レベニュー | グリーン・レベニューは、持続可能な活動のためのEUの分類(タクソノミー)に沿ったFTSE Russellグリーン収益分類システム(GRCS)によって定義 |
4. TPI経営品質(MQ) | 温室効果ガス排出量(削減)及び低炭素移行に関連するリスクと機会に関する企業の管理状況 |
5. TPIカーボンパフォーマンス | 現在及び将来の企業のカーボンパフォーマンスと、パリ協定を踏まえた国際目標及び本邦宣言との比較 |
出所:FTSE Russell
*Transition Pathway Initiative(TPI)は、アセットオーナーが主導し、資産運用会社がサポートするグローバルなイニシアティブです。低炭素経済への企業の対応を評価し、その取り組みを支援します。
2本のインデックス・シリーズを、投資家はどのように利用すればいいか。
森 このインデックス・シリーズは、メソドロジー(インデックスの算出方法)や脱炭素関連の指標などがすべて「可視化」された、透明性の高さも特徴のひとつだ。そのため、気候変動インデックスにおける幅広い運用ニーズにお応えできる。
『FTSE JPXネットゼロ・ジャパン500インデックス』は、ベースとなるTOPIX500からパフォーマンスがそれほど大きく乖離はしないが、脱炭素や気候移行の要素を含んでいるという意味で、どちらかというと年金基金や機関投資家向けと考えられる。
『FTSE JPXネットゼロ・ジャパン200インデックス』は、ベースがTOPIX500構成銘柄から時価総額が上位の200銘柄に絞り込まれ、分かりやすいことから、個人投資家にも向くと考えられる。ベンチマークよりも積極的な運用のニーズも意識したインデックスといえる。
気候変動は必ずしもリスクだけではなく、化石燃料を使わない脱炭素経済やグリーン経済への移行は、新しい産業を生み、大きな雇用をもたらすという経済的プラスの側面もある。「FTSE JPXネットゼロ・ジャパンインデックス・シリーズ」は、低炭素経済への移行への取り組みによって事業・経営の構造転換を図り、そこに生じる機会をいち早くつかみ取る企業の投資ウェイトを高くして、エンゲージメントしていくためのものだ。投資家の皆様にも、低炭素経済への移行がきわめて大きな投資機会であるという認識をぜひ持っていただきたい。
ちなみに過去のデータを用いた運用シミュレーションによると、「FTSE JPXネットゼロ・ジャパンインデックス・シリーズ」のパフォーマンスは、TOPIX500をベースとするベンチマークを上回っている。スチュワードシップコードの遵守はもちろん、パッシブからアクティブまで幅広く運用ベンチマークとしての活用が期待される。
■FTSE JPXネットゼロ・ジャパンインデックス・シリーズのパフォーマンス
JPX総研のコメント
JPXとLSEG、両者の強みを活かしネットゼロへの貢献を目指したい
2018年7月に日本取引所グループ(JPX)はFTSE Russellの親会社であるロンドン証券取引所グループ(LSEG)とサステナビリティ関連分野及びESG関連の商品・サービスを中心としたマーケティング等において、相互に協力することを合意し、シナジーを活かした指数開発についてディスカッションを重ねてきました。
今回、ローンチした「FTSE JPXネットゼロ・ジャパンインデックス・シリーズ」は、FTSE Russell独自のメソドロジーとTOPIX500が融合した最先端の気候変動指数であり、官民共同で取り組むべき温室効果ガスの排出削減の一助となればと期待しています。
日本のアセットオーナーや機関投資家はネットゼロへのコミットを高めており、JPX自身も2024年にカーボンニュートラルの達成を目指しています。本指数が運用資産上のネットゼロに加え、上場企業とのエンゲージメントなどにも幅広く活用されるよう、普及を後押ししていきたいと思います。
FTSE Russell®はロンドン証券取引所グループ(LSEG)企業の商標です。FTSE Russellは投資会社ではなく、本資料はいなかる投資のための売買も推奨するものではありません。本資料に含まれる情報は証券の購入や売却、あるいは勧誘を意図するものでもありません。本資料は情報提供のみを目的としています。したがって本資料には、法務、税務、証券、投資に関する助言も、当社の指数に関連して行ういかなる投資の適切性についての見解も含まれません。
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TEL:03-6441-1430
FTSE JPXネットゼロ・ジャパンインデックス・シリーズの詳細につきまして、ウェブサイトをご覧ください。
https://www.ftserussell.com/ja/index/spotlight/jpx-netzero