米国ABSに比べて、円ヘッジコスト上の魅力もあり、2008年のサブプライム危機時を含めマーケットが底堅い欧州ABS市場。スイスに本拠地を構えるフォントベル・アセット・マネジメント(以下、フォントベル)では、傘下の債券運用ブティックTwentyFourが運用する、金利リスクの除去を図る質の高い「欧州ABS戦略」をグローバルで展開している。その特徴と魅力を聞いた。

※記事内容は特に断りがない限り2022年1月末時点

インフレ下で魅力ある欧州ABS。フローターで利上げにも対応

吉野 剛司氏
フォントベル・アセット・
マネジメント・プライベート・
リミテッド
日本における代表者
吉野 剛司

米国を中心に金利が上昇傾向にある。FRB(米連邦準備理事会)は、記録的なインフレを抑制するため、ゼロ金利政策を解除する方針を表明。ECB(欧州中央銀行)でも、これまでは金融緩和策を維持してきたが今後については政策転換の可能性も示唆している。こうした動きを受けて、2022年に入ってから、ほとんどの資産がマイナスになっているという債券市場で、今ニーズが高まっているのが、フローター(変動利付債)だ。

「このフローターをポートフォリオにどう組み入れるのかが投資家の喫緊の課題になっている」と、フォントベル・アセット・マネジメント・プライベート・リミテッド日本における代表者を務める吉野剛司氏は話す。

フォントベルの傘下でロンドンに本拠を構えるTwentyFourアセット・マネジメントでは、日本の機関投資家に対し、フローターを活用した「欧州ABS戦略」を提案している。

何故、米国ABSではなく「欧州」なのだろうか?「欧州のABSというと、日本ではあまり馴染みのないアセットクラスかも知れませんが、実は米国ABSと比較するとマーケットの安定性が際立っています。欧州では、ABSの大半は銀行が組成しているため、ガイドラインが厳しく管理されています。またローンは通常リコースローンとなっているため底堅いのも特徴的です。今後金利上昇によるヘッジコストの観点からも米国より欧州に魅力があります」(吉野氏)。

実際、サブプライム住宅ローン危機を含め、AAA格の資産担保証券の損失率予想が、米国では2.1%だったのに対して、欧州は0.1%だったというデータも出ている。*

ABSは比較的流動性が低く、ストラクチャーにも特徴があるため、その分スプレッドが乗っている。格付けと資産クラス別にABSと社債のスプレッドを比較すると、欧州のRMBS(住宅ローン担保証券)やCMBS(商業不動産担保証券)、CLO(ローン担保証券)は、欧州や米国の社債よりも高い(図1)。このABS戦略では、IG(投資適格債)に限定した投資や、キャッシュの割合を状況に応じ10%近くに調整することで流動性が低い点をカバーしている。

【図1】格付けおよび資産クラス別ABS/社債スプレッド

格付けおよび資産クラス別ABS/社債スプレッド
出所: TwentyFour, Barclays, Citi Velocity, Morgan Stanleyのデータを基にフォントベル・アセット・マネジメント・プライベート・リミテッド作成
2022年2月28日

インフレは債券運用にどう影響するのだろうか。「インフレでは住宅価格が上昇して、住宅価格に対する負債比率(LTV)も下がり、一般的には賃金も上がります。消費者の購買力も高まるため、自動車などのローンにも安定性が出てくるでしょう。利上げに対してもフローターの効果でインカムが利上げにアジャストされ、その分伸びます。ローン金利の上昇の影響で期限前返済が増えるといったリスクもありますが、そうしたシナリオに基づいた運用モデルも複数作成しています。インフレ下において、ABS資産は魅力的だといえるでしょう」(吉野氏)。

* Fitch Global Structured Finance Losses, 2000-2020

ベンチマークを置かずに常にベストレートを追求

(図2)のABS戦略のコンポジット・パフォーマンスを見てみると、ここ2~3年間ではコロナ禍で一時的に下がったものの回復し、金利の上昇に合わせるように伸びている。円Libor(3ヵ月)と比較してみると、その差は歴然だ。同戦略のポートフォリオを見ると、投資適格債に限定し、セクターは幅広く分散されている(図3)。

【図2】投資適格級欧州ABSコンポジット円ヘッジ・パフォーマンス(報酬・費用控除後)

投資適格級欧州ABSコンポジット円ヘッジ・パフォーマンス(報酬・費用控除後)
コンポジットの設定日:2009年8月10日
出所:TwentyFour

【図3】TwentyFour 欧州ABS戦略ポートフォリオ内容

TwentyFour 欧州ABS戦略ポートフォリオ内容
出所:TwentyFour

また、ABS戦略全体(TwentyFourInvestment Grade ABS)では、現在、約3200億円を運用している。当戦略の代表口座の金利デュレーションは0.13年と、リスク・エクスポージャーを低く抑えている。平均格付けはAAマイナスと高い。例えば、投資適格債と比較すると、ユーロのフィナンシャルを除いた社債インデックスの平均格付けはトリプルBプラスで、クレジット・スプレッドは0.57%。これに対してTwentyFourの欧州ABS戦略では、平均格付けはAAマイナスで4ノッチ高く、一方クレジット・スプレッドは1.71%と約3倍高くなっている。厚いスプレッドが金利上昇に対するダウンサイド・プロテクションとして効いている。

「当ABS戦略の運用では、欧州の多様なABS資産の分散投資をしており、基本的にはベンチマークを置いていません。金利リスクを除去して常に元本保全を重視し魅力的なインカムレート(Euriborに連動するところ)を効率的に追求することが、運用チームのミッションです」と吉野氏は説明する。

TwentyFourのABS戦略チームは、欧州ABSの運用経験30年超というベテラン勢から若手まで総勢11名で構成されている。それぞれがモデリングや分析、ABSのストラクチャー、ディールなど、多様な専門性を発揮しつつ、自由闊達に意見交換をしながら運用方針を導き出している。欧州のほとんどの発行体と付き合いがあり、長年、英国のモーゲージ協会の委員を務めるなど、ABS市場の重鎮として存在感を示している。

また、ESG(環境・社会・企業統治)評価はTwentyFourの中心になっているテーマだが、同社ではESGの専担を置いていない。チーム全員がESGに深くコミットして、専門知識を持って運用にあたっていることも大きな強みになっている。

「欧州ABS戦略は、米国よりも底固いマーケットでありながら、近年流動性も高まっており、足下の金利上昇下、ディストリビューターの方や金融法人様からの問い合わせも増えています」(吉野氏)。

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