経済指標を読み解く 米CPI前年比は4~6月には鈍化か
米国CPI前年比は39年半ぶり高水準
2021年12月の米国・消費者物価指数(CPI)は前年同月比プラス7.0%となった。9月プラス5.4%、10月プラス6.2%、11月プラス6.8%と月を追うごとに伸び率が高まり、1982年6月以来39年半ぶりの高水準となった。
2021年の食品とエネルギーを除く・消費者物価指数の前年同月比もプラス5.5%と、9月プラス4.0%、10月プラス4.6%、11月プラス4.9%の4%台から5%台に高まった。
また、FRBが重視している2021年のPCEデフレーターは、まだ11月までしか出ていないが前年同月比プラス5.7%、食料・エネルギーを除くベースで同プラス4.7%と、各々10月のプラス5.1%、プラス4.2%から伸び率を高めている。2022年1月28日発表予定の12月でも前年同月比は消費者物価指数同様、一段と伸び率を高めそうだ。
2022年はFRBが政策金利の引き上げなど金融引き締め政策を採ると予想され、物価動向がその背景としてマーケットで考えられている。FRBはテーパリングを2022年3月に終了し、3月に最初の利上げを実施するだろうというのが最近のコンセンサスになっている。
【図表】2021年の米消費者物価指数
エネルギーなど様々な要因での物価上昇
以下のような様々な要因が重なって、足元の物価上昇を招いている。
まず、エネルギー価格の上昇が挙げられる。世界的な経済再開を受けてエネルギー需要が急回復する一方、原油などの供給の回復が緩やかなものにとどまっていることで、需給バランスがタイトになった。
また、世界的に脱炭素化の動きが強まる中、2021年は自然のいたずらで欧州では風力発電が思うようにならず、結果として天然ガスへの需要が増えたことも影響している。
2021年1月19日にはWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の終値が86.96ドル/バレルと、2014年10月8日の87.31ドル/バレル以来7年3カ月ぶりの高値を記録した。直近では地政学リスクの高まりが注目されている。アラブ首長国連邦での親イラン武装組織フーシ派による石油施設への攻撃、トルコでの爆発による石油パイプライン停止、ウクライナ情勢の緊迫化などが材料視された。
次に、新型コロナウイルス感染で停滞した経済再開に伴う需要回復でのサービスを中心とした価格持ち直しが見られる一方、半導体などの供給制約の影響があり、需給面から価格が上昇している。
消費者物価は住宅価格の変動を直接算入せず、帰属家賃を反映する。住宅価格の上昇に伴い、帰属家賃の上昇がみられている。人手不足が深刻化している業種では労働コスト面からのインフレ圧力も高まっている。最近は企業がコスト増を価格転嫁しやすい状況になっている。
比較対象時の水準に影響される前年比
しばらく、消費者物価指数の前年同月比は高水準が続きそうだ。
エネルギー価格の前年比は春ごろまで鈍化しつつも高めに推移しよう。現在の原油価格WTIは70~80ドル/バレル台であるが、2021年で70ドル/バレル台に上昇したのは6月8日が最初で、5月までは原油価格WTIは60ドル/バレル台以下であった。エネルギーの前年比は比較対象とする時期の水準に影響される。
消費者物価指数の前月比は2021年1月プラス0.3%、2月プラス0.4%と落ち着いていた。このことからみて、目先の消費者物価指数の前年同月比は上昇しやすいだろう。
前年比鈍化前の3月に初回の利上げか
PCEデフレーターより発表時期がやや早いことから、消費者物価指数の動向はマーケットに影響を及ぼしやすい。
2021年6月の消費者物価指数は前月比プラス0.9%(前月比年率プラス11.3%)と、2008年6月以来13年ぶりの高い前月比であった。経済活動や観光が一斉に再開したことに伴う値上がりがみられた。半導体不足の影響が深刻で、新車の在庫不足などで自動車関連を中心に価格の上昇圧力が強かった。
経済再開と夏の行楽シーズンが重なったことで航空料金が大幅に上昇するなど、サービス価格が値上がりした。当時の雇用統計から賃金の上昇が始まっていたことも確認でき、労働コスト面からの物価上昇圧力も影響したとみられる。
2021年4~6月の米国の消費者物価の前月比は、4月プラス0.8%、5月プラス0.6%、6月プラス0.9%と、かなり高い伸び率であった。一方、直近12月の前月比はプラス0.5%(プラス0.47%)である。前月比年率はプラス5.7%と結構高い伸び率である。
2022年の4月~6月の前月比が、仮に2021年12月と同じ伸び率で推移するなら、3カ月で1%程度前年同月比が鈍化することになる。当初2022年6月に最初の利上げがあると言われていたが、最近では3月という見方が有力になっている。
総合的に見て利上げが必要な環境にあるとみられるが、6月だと消費者物価指数の前年同月比が鈍化してしまい、鈍化の程度によっては最初の利上げに水を差されることを回避する意味で、初回利上げは3月に実施するという面もありそうだ。