マクロ経済 供給制約に続いて海外経済の減速が日本経済のリスク要因に
供給制約に伴う自動車生産の落ち込みが輸出を下押し
新型コロナウイルス禍からの景気回復をけん引してきた輸出が2021年の夏場をピークに減速している。日銀が公表している実質輸出は2021年7月まで順調に拡大してきたものの、8月には前月比3.7%減とマイナスに転じ、9月は同6.5%減とマイナス幅が拡大した。四半期ベースでみると、2021年7~9月期は前期比2.8%減と5四半期ぶりに減少した。
輸出が下振れした最大の要因は自動車輸出の減少である。2021年9月の自動車関連の実質輸出は、直近のピークである7月に比べて36%減少している。全体の輸出減少のうち自動車関連による影響が8割を占める。夏場にかけて東南アジアで新型コロナの感染が広がり、部品供給の遅れから減産を余儀なくされたためだ。足元では部品の供給制約は解消されつつあるが、半導体不足の影響が長引いており、自動車業界全体の生産体制が整うのは年明け以降にずれ込む可能性が高い。
中国経済の減速が輸出の回復を阻む可能性も
自動車関連の挽回生産の遅れに加えて、新たな懸念材料として浮上してきたのが世界経済の回復ペースの鈍化である。特に、最大の輸出先である中国の景気減速が懸念される。
2021年7~9月期の中国の実質GDP(国内総生産)は、前年比4.9%増と4~6月期(7.9%増)から減速した。新型コロナの感染再拡大を受けて個人消費が低調だったほか、不動産向け融資が抑制された影響も大きかった。電力の供給制限を受けて生産活動も大きく減速しており、10~12月期も景気減速が続くと予測している(図表)。日本の対中輸出の構成比は21.8%(2021年度上期)と国別では最も高く、中国経済の減速が日本の輸出回復を阻む要因になる可能性がある。
【図表】中国の工業生産と社会消費品小売総額の前年同月比
欧州経済の先行き不透明感も高まる
コロナ禍から順調に回復してきた欧州経済の先行きにも注意が必要である。2021年7~9月期のユーロ圏の実質成長率は前期比年率9.1%と堅調な伸びを示したが、PMI(購買担当者景気指数)は今年7月をピークに10月まで3カ月連続で低下している。半導体や自動車部品の供給制約が欧州の生産活動にも波及していることが背景にある。
また、欧州主要国で新型コロナの感染が再拡大していることも不安材料である。ドイツでは1日当たりの新規感染者数(7日間平均)が11月上旬に2万人超と1カ月前の3倍に急増、部分的ロックダウンが実施された昨年末の水準付近まで感染が広がっている。フランスやイタリアも水準こそ抑制されているが、新規感染者数は10月半ば頃から増加傾向にある。ワクチン接種が進展したことで昨年のような医療体制のひっ迫は回避できるとみられるが、クリスマス商戦を前にした感染拡大は個人消費の回復に水を差す恐れがある。
一方、日本国内では感染が一服し、経済活動は正常化に向かい始めている。新型コロナの感染が拡大した2021年7~9月期はマイナス成長に落ち込んだとみられるが、10~12月期には個人消費をけん引役に高めの伸びが見込まれる。ただ、供給制約と海外経済の減速で輸出の増勢にはブレーキがかかっている。原油高による電力料金の引き上げやガソリン価格の高騰も個人消費の回復に向けた逆風となる。ワクチン接種の進展を受けて日本経済は来年にかけて回復の勢いを取り戻すとの見方を維持しているが、足元では景気下振れのリスクが高まっている。