上場REITやインフラなどの実物資産及びハイブリッド証券等のオルタナティブ・インカム戦略に特化した米国の運用会社コーヘン&スティアーズ。2019年12月から日本法人を株式会社に組織変更し、これまで以上に日本でのビジネスに注力していく考えだ。同社の経営陣に、運用会社としての強みや、運用資産の大半を占める上場REITの市況を聞いた。

卓越した専門性を市場も評価

ロバート H.スティアーズ氏
コーヘン&スティアーズ
最高経営責任者
ロバート H.スティアーズ

コーヘン&スティアーズの強みは。

スティアーズ 主に2つある。1つ目は、上場REIT(不動産投資信託)、インフラ株などの実物資産及びハイブリッド証券といったオルタナティブ・インカム戦略に特化した運用会社である点だ。当社は1986年に世界初の上場REIT専門運用会社として設立し、今では同分野で世界最大規模となっている。限られたアセットクラスにリソースを集中投下し、戦略を磨いてきた結果、2010年以降では、ほぼ全ての運用戦略が市場平均を上回った。運用業界において、さまざまなアセットクラスや戦略を取り扱う企業が多い中、当社では一貫して限られた資産クラスに特化したスペシャリストを育成し続けている。

2つ目の強みは、運用プラットフォームだ。当社は上場企業である一方、株式の過半数を社員や創業者が保有している。そのため、短期収益の見通しに左右されない、長期的な視点からの経営判断が可能だ。加えて、借り入れのないキャッシュリッチな経営も特徴といえる。リーマン・ショック時、多くの運用会社は人員整理や規模の縮小に追い込まれたが、当社にその必要はなく、危機後の回復局面を積極的に捉えることが可能だった。

こうした強みが投資家から評価され、当社の株価は2004年の上場以来、大きく成長している。2019年に至っては、年初来で100%近い株価上昇を達成した。

ジョセフ・ハービー氏
コーヘン&スティアーズ
社長
ジョセフ・ハービー

運用面での特徴を教えてほしい。

ハービー 実物資産に関しては、上場REITにおける賃料収入や、インフラ株における使用料などはある程度予測可能だ。その予測可能なキャッシュフローに対して現在の株価が適正かをリサーチし、精度の高い分析を行っている。

具体的には、経済動向や空室率、需給バランスなどのファンダメンタルズに加え、REITの契約年数や物件売買によるキャッシュフローへの影響などを総合的に判断する。グローバルの主要拠点に配置された総勢20名超の運用チームが、日々足で稼いで調査しているのもポイントだ。不動産は地域密着のビジネスのため、現地の生の情報は欠かせない。

パフォーマンスは私募REITを上回る

機関投資家にとって、上場REITに投資する意義は何か。

スティアーズ ①現在の低金利環境においても国債を上回る高水準のインカムが期待できる、②長期で見ると株式を上回るトータルリターン、③伝統的な資産との低相関性、④パフォーマンスが景気循環に影響されにくい――の4点が挙げられる。

私募REITの方が上場REITよりもパフォーマンスが良いと思われがちだが、これは誤解だ。過去のパフォーマンスを見ると、実際には上場REITが私募REITのトータルリターンを300~400ベーシスポイントほど上回っている。上場REITのマネジメント層は、市場においていかに付加価値を創出するかに精通している場合が多く、それが優れたパフォーマンスの源泉と見ている。

上場REITの活用例は。

ハービー Eコマースの発展は、私募REITの多くを占めるショッピングセンターなどの伝統的な物件のファンダメンタルズを悪化させた。一方で、データセンターや通信塔などの新たなREIT市場には大きな恩恵をもたらしている。これらの次世代セクターは、私募でのアクセスが難しい一方、上場REITを経由すれば比較的投資が容易だ。

上場不動産市場は長期的に実物不動産市場と高い相関性

こうした市場環境を背景に、近年の米国では、すでに私募で伝統的な不動産へのエクスポージャーを持つ機関投資家が、上場REITをポートフォリオに追加する例が増えている。上場REITを補完的な役割として活用することで、より機動的でバランスのとれた不動産ポートフォリオが実現する。

追い風となる「適温相場」。2020年も継続の見込み

2019年12月に、東京オフィスを投資一任業者として株式会社に組織変更した。その狙いは。

スティアーズ これまでは助言代理業者として活動してきた。今後は投資運用業者として、公的年金の運用などでも当社の戦略を役立ててほしいと考えている。これを機に、ますます日本の機関投資家との関係性強化に注力していく。

現在の金融市場は、低金利と緩やかな経済成長の続く「適温相場」であり、REIT投資にもっとも適した環境だ。当社にとっては追い風といえる。実際、運用資産残高は右肩上がりで成長しており、2019年9月末時点で708億米ドル(約7兆7千億円)に達した。国内公募投信における個人投資家の海外REITファンドへの資金回帰トレンドも観測されており、当社が運用するファンドへの資金流入も増加傾向だ。

適温相場は2020年も継続すると見ている。現在は、上場REITに投資する上で重要なタイミングといえるだろう。低金利環境下で債券を上回る高水準のインカムを安定的に享受したい日本の投資家は、ぜひ上場REITへの投資を検討してほしい。

コーヘン&スティアーズの運用資産残高は右肩上がりに増加

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