年金運用お悩み相談室 第9回 Q.国内外の金利環境が変化している中で、債券投資のスタンスは?(ほか1質問)
読者アンケートに寄せられたり、編集部が取材する上で耳にしたりした年金運用のお悩みについて、年金運用コンサルタントとして活躍するニッセイ基礎研究所の徳島勝幸氏に尋ねます。
Q.国内外の金利環境が変化している中で、債券投資のスタンスは?
金利上昇を過度に恐れない
2025年1月に日本銀行が再び政策目標の金利を引き上げました。この背景にはいくつかの要因が浮かび上がります。一つは、物価の上昇です。この数年の様々なモノやサービス価格の上昇は、顕著です。ある程度上昇したら落ち着くと思われましたが、2024年夏の米不足懸念の後に価格が高止まりしているように、物価の上昇には一服感が見られません。
構造的には、少子高齢化と人口減少などから生じた人手不足、新興国の経済成長による資源の奪い合いなど様々な要因があるため、緩やかな物価上昇は止まらないでしょう。
フィッシャーの恒等式などと呼ばれる考え方に基づくと、中長期的に物価が上昇すると名目金利は上昇することになります。短期的には当てはまらないこともありますが、通貨に対する需要と供給の関係を考えると、物価が上昇する中では現金や預金では実質的な購買力を維持することができないため資金が投資へ誘導され、その結果、金利は上昇傾向と考えられます。物価上昇と金利上昇はセットとして考えて良いでしょう。
もう一つの要因としては、為替への対応です。為替の決定理論には様々なものがあり、貿易や資本移動が自由であるならば、長期的には購買力平価に近い水準になる一方、短期的には投機などの資金の動きや、政治情勢などにも左右されます。また、経済の安定した先進国の間では、金利の高い国に資金が向かうため、金利の高い国の通貨が強くなると考えられます。
最近の円ドルレートを見ると、140円台から160円台辺りで推移していますが、物価水準の比較などを見ると160円台などは円安であり、過度の円安を防ぐためには、金利を引き上げる対応が考えられます。
足元の金利上昇については、その他に様々な要因が考えられますが、長期にわたった低金利の反動といった要素も否定できません。以前の感覚でも、10年国債利回りが1%を割ると低利回りと認識していたものです。
ところが、10年国債のクーポンは2016年3月から2022年1月までずっと0.1%であり続けました。背景にあったのは、マイナス金利とイールドカーブコントロールという金融政策でした。中央銀行が巨額の債券を市場から購入することで、人為的に金利を低水準に抑え込んでいましたから、力ずくの買入れがなくなった途端、金利が反騰するのもやむを得ない動きと考えられます。
今後は、景気の後退や大きなショックがなく、金融政策の方向性が変わらないとすれば、もう少し金利が上がって落ち着くと考えられます。事前に予測することは難しいものの、市場の肌感覚や水準感から、短期金利の1%、10年国債利回りの1.5%超え、超長期金利の2%超えといった辺りが、居心地としては良さそうです。
債券運用では、金利上昇局面でキャピタルロスがインカムとローリング効果を上回ってしまうこともありますが、金利が十分に上がってしまえば、これまでより高い利回りを享受することができるようになります。金利上昇を過度に恐れず慎重に状況を見定めることが重要です。
金利上昇で債券運用はどうあるべきか
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