第2次トランプ政権の関税政策に揺れるマクロ経済と金融政策。その2025年後半戦の見通しについて、著名エコノミスト達の着眼点や見方を探るアンケートを実施した。(アンケート回答時期:2025年5月7~16日)
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ご協力いただいたエコノミストの皆様(※五十音順)
足立 正道氏UBS証券
調査本部
チーフエコノミスト
上野 泰也氏みずほ証券
金融市場調査部 チーフ
マーケットエコノミスト
大槻 奈那氏ピクテ・ジャパン
シニア・フェロー
木内 登英氏野村総合研究所
エグゼクティブ・エコノミスト
浪岡 宏氏T&Dアセットマネジメント
チーフ・ストラテジスト
森田 京平氏野村證券
チーフエコノミスト
門間 一夫氏みずほリサーチ&テクノロジーズ
エグゼクティブエコノミスト
- 質問1 第2次トランプ政権の行動がこれからの日本の金融市場もたらすリスク要素/チャンス要素として、最も注目されているものを教えてください。
- 質問2 日本の機関投資家が2025年後半のマクロ経済を展望する際、「トランプ政権リスク」以外で見落とすべきでないリスク要素は何だとお考えでしょうか。
- 質問3 米国の長期金利(10年国債利回り)の見通しをお聞かせください(1~3カ月ほどの足元の見通し/2025年末の金利水準)
- 質問4 質問3の回答に関して、回答の根拠や、今後の米国金利動向を読み解く上で重視されているポイントがあれば教えてください。
- 質問5 日本の長期金利(10年国債利回り)の見通しをお聞かせください(1~3カ月ほどの足元の見通し/2025年末の金利水準)
- 質問6 日本銀行の次回の金融政策変更について、「変更に踏み切るタイミング」と「金融政策の方向性」をどのようにお考えでしょうか。
- 質問7 質問5~6について、回答の根拠や、今後の国内金利動向を読み解く上で重視されているポイントがあれば教えてください。
マクロ経済の動向について
質問1 第2次トランプ政権の行動がこれからの日本の金融市場もたらすリスク要素/チャンス要素として、最も注目されているものを教えてください。

UBS証券 足立氏
【リスク要素】<輸出減や海外事業からの収益減、ドル安円高、米国株価の下落、米長期金利の上昇>関税引き上げは単純に米国輸入に対する増税となるので、輸入数量が減り、米国内需要の減少で現地法人の収益も厳しくなる可能性が高い。米国がドル安政策を取ると円高となる。米国も財政懸念が進み高いインフレが長期化するとなると米国長期金利が上昇し、日本の金利もつられて上昇し易くなる。
【チャンス要素】<日本国内の構造改革推進、政治における世代交代(期待している点です!)>チャンスはこれを機会に米国に頼り切った日本経済や安全保障について仕切り直しが進むかもしれない点。特に政治面では戦後レジームに染まり切った世代を引退させる契機になるといいなと思っている。

みずほ証券 上野氏
【リスク要素】「トランプ関税」を武器とする世界貿易構造への強引な修正圧力、金融市場の慢性的不安定化
【チャンス要素】ドル高嫌いのトランプ大統領という存在が、ドル/円相場のドル高円安方向の動きを抑制

ピクテ・ジャパン 大槻氏
【リスク要素】<中小企業の業況>トランプ関税の影響で日本の大企業の現地生産シフトが進むとみられる一方、それに連なる中小企業の受注が大きく減少する可能性がある。米国への輸出が難しくなる中国からの輸入品の増加も中小企業の経営を圧迫する。既に4月の企業倒産件数は中小企業を中心に前年比3割近い上昇となっているが一層の悪化が懸念される。今後の雇用や賃上げで鍵を握るのは中小企業であり、トランプ関税が中小企業にどの程度影響を与えるかは日本経済にとって極めて重要。
【チャンス要素】短期的には、アジア諸国からの輸入品の価格低下の可能性から、小売業等の業績にはポジティブ。大学や研究所の人材が米国で補助金をカットされるなどで海外流出しており、日本もその受け皿になれるなら高度人材受け入れの好機。また、前項に関連し、中長期的には、中小企業の構造改革が市場の競争力を高める可能性も。

野村総合研究所 木内氏
【リスク要素】トランプ関税が日本の輸出環境を大きく損ねるとともに、米国経済の減速を通じてドル安円高傾向を生じさせる。双方が重なることは、日本の株式市場の下方リスクを高める。米中が極めて高い関税率を引き下げたことで、世界経済のリスクはやや低下したが、日本に対しては自動車など分野別の25%の関税、10%の相互関税は残り、それは日本のGDPを0.5%程度押し下げる。
【チャンス要素】トランプ関税の影響で進むドル安円高が緩やかなものにとどまれば、それは国内物価上昇率の低下をもたらし、低迷する個人消費の回復を後押しする。トランプ関税による米国市場のリスクの高まりを受けて、日本企業がグローバルな生産拠点、輸出先、サプライチェーンの分散化、新規開拓を進めれば、それは企業の新しい成長機会となる。輸出環境の悪化を受けて、日本企業が内需の掘り起こしに注力するようになれば、日本経済にとっても追い風となる。

T&Dアセットマネジメント 浪岡氏
【リスク要素】<円高進行を促す可能性>先般、日米の関税交渉において円高を促す通貨目標が設定されるのでは、との思惑から円高が進行した。この先も、そうした思惑は生じやすいだろう。米国としては自国の輸出を促すにはドル安を志向するだろうし、日本円は購買力平価からみれば割安なので、米国が日本に円高進行を迫るのでは、との思惑は今後も生じやすいだろう。
【チャンス要素】<内需株>リスク要素の裏返しであるが、内需株については注目されるテーマとなろう。世界経済の動向が目まぐるしく変化するなかで、外需株は投資し難いという投資家も多いだろうから、そうした投資家の資金が内需株に流れる動きはまだ続くとみている。

野村證券 森田氏
【リスク要素】輸出減、収益減、不確実性の高まりをきっかけに、本邦企業が設備投資や賃上げに慎重になること。その結果、賃金と物価の好循環の形成が頓挫することは避けなくてはならない。
【チャンス要素】トランプ関税を背景に他国が日本を生産拠点として選好することがあれば「好機」と呼べなくもないが、原則、第2次トランプ政権の政策において、積極的に日本の「好機」となりうるものはないだろう。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 門間氏
【リスク要素】関税政策による製造業の米国シフト、減税、規制緩和等により、米国のインフレが再燃し、Fedが利上げに転じる可能性。円安、日銀の利上げの前倒し、長期金利の上昇などにつながる可能性。
【チャンス要素】ドル資産離れから日本株が買われる可能性。
質問2 日本の機関投資家が2025年後半のマクロ経済を展望する際、「トランプ政権リスク」以外で見落とすべきでないリスク要素は何だとお考えでしょうか。
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