リーマン・ショック発生以降、着実にその需要を伸ばしてきた金が2024年、過去最高値を更新した。そんな中、金の持続的な需要喚起をミッションとして掲げるワールド ゴールド カウンシルの森田隆大氏は2025年1月23日、東京都内で開催されたJ-MONEYカンファレンス(主催:J-MONEY)で、金の特徴や急速な金需要拡大の背景について語った。その講演の概要を紹介する。

2024年、金価格が過去最高レベルに

森田隆大氏
森田アソシエイツ 代表
ワールド ゴールド カウンシル 顧問
森田 隆大

ワールド ゴールド カウンシル(WGC)は英ロンドンに本部を置き、グローバルな視野から金に関する調査研究や持続的な需要を促進する様々な活動を行なっている。

我々の調査によると、2024年の金価格は前年比で26%上昇し、史上最高値を40回更新した。2025年1月23日現在の金価格は1トロイオンス当たり2750ドル程度で推移し、新型コロナウイルス禍前に比べると80%以上の上昇率だ。

過去20年間の金価格のチャートを見ると、大幅な上昇が2度見られる。1度目は2008年、リーマン・ショック後に安全な資産を求める多くの投資資金が金市場に流入した。

2度目は新型コロナウイルス感染症のパンデミック以後で、2000ドル近くまで上昇した。その後は上がったり下がったりを繰り返したものの、2024年以降さらに大幅に上昇している。

金ETF(上場投資信託)については、300トン近くの資金流入があった2022年の第1四半期を除けば、2020年の第4四半期から2024年の第2四半期まで流出傾向にあった。ただしその期間でも、金価格にとって逆風となる金利高・ドル高が進行していたにもかかわらず、金ETF市場からの資金流出は年間100~250トンと比較的少量で推移した。

つまりこれはFRB(米連邦準備理事会)の積極的な金利政策を受けて、多くの機関投資家は金の購入に対し消極的だったものの、売却せず保有し続けていたことを示している。

そして2024年の第3四半期に再びFRBの利下げサイクルが開始されると、金ETF市場は10四半期ぶりにプラスのインフローを記録し、2024年末の運用資産額は過去最高の2710億ドルに達した。

現在の金需要増大の背景には、「マクロ経済・環境の不確実性の上昇」がある。2020年以降は、新型コロナウイルス禍、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエル・ハマス紛争、台湾海峡の緊張、北朝鮮問題、ポピュリズム政治の勢力拡大、インフレの上昇・高止まり、世界経済の成長鈍化など、地政学リスクを含むマクロ環境の不確実性を増大させる要因が多かった。

そこで金の様々な「リスクヘッジ」の役割に期待した長期の投資家が金需要を高めたことが、金価格の上昇を支えている。

■金価格の推移(ドルベース)
金価格の推移
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金がもたらす安定性に高まる需要

なお、近年の金価格上昇を語る上で無視できないのが中央銀行の存在だ。

中央銀行セクターは2009年までの約20年間にわたり金を売却していたが、2010年より買いに転じた。2011年から2021年までは毎年平均で400トン前後を購入し、2022~2024年は1000トンを超えた。

中央銀行の金購入目的は外貨準備の安全性・安定性を維持・向上させるためであり、その中でも特に期待される役割が2つある。

1つ目は、「価値の保全/インフレヘッジ」の役割である。高インフレ期における金のパフォーマンスは名目ベースで20%をはるかに超え、長期スパン(1971~2023年)で見ても米国のCPI(消費者物価指数)を2倍以上も凌ぐ成長率で、世界経済とほぼ同等の長期リターンが期待できる。

2つ目は「テールリスクヘッジ」の役割である。近年の米国株と金の相関を調べると、株価が大きく上昇している時は金と株の相関は高まり、通常の範囲で動いている時には両者の間に相関性は見られないが、米国の株価が大きく下落した時には逆相関が広がることが分かる。

ロシアのウクライナ侵攻時も日経平均株価がマイナス値まで落ち込んだのに対し、円建て金価格は逆相関の動きを見せた。リーマン・ショックや新型コロナ発生時など、過去のテールリスクイベント時において、金価格は他資産に比べ優れたパフォーマンスを上げていることはデータによって検証されている。

加えて、この数年間はFRBの利上げ政策により、多くの国の通貨の価値棄損が進んだが、現地通貨ベースの金価格は逆に上昇することを実感した消費者も、過去最高金額の地金・コインを購入し、金の投資需要は大幅に増加した。

こうした不確実性が高まる市場環境において、安定感と高パフォーマンスを発揮する金は、中央銀行だけでなく個人投資家・機関投資家からも注目が高まっている。

なお、金は現物市場が非常に大きい。そのため、日々の流動性があるのはもちろんのこと、過去のショック局面でもほぼマーケットプライスで現金化することができる利点を持つ。

金価格の今後3つのシナリオ

ちなみに、金が平時・非常時ともに分散効果を発揮して、ポートフォリオの安定化に貢献できるのは、需要や保有目的が分散されているからだ。金の三大需要家の一つであるインドでは、金との親和性が高く、婚礼や宗教行事などで用いられることが多い。最大の需要国である中国においても、金は非常時の備えや贈り物として重宝される側面が強い。

さらに、中央銀行は外貨準備の安全性・安定性を高める狙いで金を購入しており、多くの需要家の購入理由は必ずしも収益目的とは限らない。このため、経済・金融指標に大きく影響される多くの主要資産とは異なる値動きを示しているのだ。

2025年以降の金価格の推移について、3パターンの予測が可能だ。1つ目は、政策金利の低下により経済が緩やかに成長し、地政学リスクに目立った増大がない場合である。このシナリオでは、金価格は横ばい(緩やかな上昇の可能性あり)と考える。

2つ目は金利が上昇し、経済成長率が低下するシナリオだ。この場合、金価格は下落すると思われる。

そして3つ目は、金利が低下し、不確実性が増加する流れだ。この場合、金価格は大幅に上昇する可能性がある。2025年現在最大のトピックスである米トランプ政権の登場においては、マクロ環境の不確実性が高まると考える投資家も少なくないだろう。不確実性が根本的に低下しない限り、金価格が上昇する余地はまだ残されているのではないだろうか。

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