アムンディ・ジャパン アセット・ベース・レンディングの組み合わせとPE会社との連携が「好成績・高安定」を生むファースト・イーグル・ダイレクト・レンディング戦略
銀行を介さずファンドなどを通じて未上場企業に直接融資するダイレクト・レンディング市場が拡大する中、欧州を代表する資産運用会社のアムンディは、アセット・ベース・レンディングを組み合わせたユニークな戦略を2024年内に設定予定だ。戦略の特徴やリターンの源泉について担当者に聞いた。
投資対象は米国のスポンサー付シニア担保付第一抵当ローン
ファースト・イーグル・インベストメンツ(以下、ファースト・イーグル社)と提携し、新たに米国のダイレクト・レンディング(DL)戦略を提供されると聞きました。
前田 ファースト・イーグル社はニューヨークに本社を置く米国の独立系運用会社です。オルタナティブ・クレジット事業に従事するファースト・イーグル・オルタナティブ・クレジットの運用資産残高は211億米ドルで、そのうち63億米ドルがDLとなっています(図表1)。アムンディとファースト・イーグル社は24年にわたりパートナーシップを築いており、当社が米国以外の国・地域に本戦略を提供する際のディストリビューターを務めます。
『ファースト・イーグル・ダイレクト・レンディング戦略』はどのような戦略ですか。
前田 まず、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)が1000万~5000万ドルの中小・中堅企業からなるコア・ミドル・マーケットに着目している点が、当戦略の特徴です。アッパーマーケットに属する大企業はレンダーから見て信用力が高く、シンジケート市場やパブリック市場で低コストに資金調達できる可能性があるので、融資条件の交渉が難しくなりがちです。一方、コア・ミドル・マーケットの企業は融資契約の中身よりも確実に資金調達先を確保することを重視する傾向があり、レンダーから見れば、相対的に利回りが高く厳格なコベナンツ(財務制限条項)を設定できるといった強みがあります(図表2)。競争が激しいアッパーマーケットに比べ、コア・ミドル・マーケットは未だ非効率性=投資機会が残されていると言えるでしょう。
コア・ミドル・マーケットの企業(EBITDA1000万~5000万ドル)は、融資条件交渉を優位に進めることよりも確実に資金調達先を確保することを重視する傾向がある。そのため、競争の加速が進むアッパーマーケット以上の市場と比べて、コア・ミドル・マーケットは非効率性が保たれている。
さらに、必ずPE(プライベート・エクイティ)会社のスポンサーが付いた案件を対象とし、かつ、原則として弁済順位の高いシニア担保付第一抵当ローンに投資します。これにより、もしデフォルトに陥った場合でもエクイティ部分がクッションとなり、ダウンサイドリスクを軽減できる構造です。
売掛金や在庫などを担保にするABLを高比率で組み入れ
当戦略ならではのユニークなポイントは。
前田 DLは、借り手企業の営業利益を背景に貸し付けを行う「キャッシュフロー・ベース・レンディング」が一般的ですが、これに加えて「アセット・ベース・レンディング(ABL)」を取り入れているのが大きな特徴です。ABLでは企業が保有する売掛金や在庫、知的財産権・商標権、機械・設備、不動産といった多様な資産を担保に融資します。換金性を重視しながら、それらの資産を現金化した際の価値を基に貸し出しを実行することで、返済が滞った際の不履行リスクを抑制できるという大きなメリットがあります(図表3)。
例えば、一般的に景気が悪化すると企業利益は減少するので、景気後退期はEBITDAを基にローンを発行するのが難しいケースがあります。こうした通常のキャッシュフロー・ベースでは借入が困難な状況にある企業が、担保資産を基に高めの金利を支払うといったイメージで、「成長・拡大中」「経営破綻または資本構成の抜本的な見直し」「市場混乱期」「分配金目的または資本構成変更」──などの状況にある企業がABLを活用するケースが多く見られます。平均的なスプレッド水準は、リスク・フリー・レートに対して650~900bps(ベーシスポイント)と、キャッシュフロー・ベース・レンディングの550~650bpと比べ高く、より高い収益の獲得機会となり得ます。
このような魅力を持つABLですが、売掛金や在庫など幅広い担保資産を評価しモニタリングする必要があることから、キャッシュフロー・ベース・レンディングとは異なる専門性が求められます。また短期間で評価額を見直す必要がある場合もあるなど、投資機会の獲得は簡単ではありません。『ファースト・イーグル・ダイレクト・レンディング戦略』では15%程度がABLですが、ABLにここまで高い配分を投資できる戦略は貴重です。ファースト・イーグル社は同分野で確固たる実績を持つABLのプロフェッショナルをチームに擁しているため、高い比率でのABLの組み入れが可能になっているのです。
具体的な投資事例は。
前田 2021年に実施した「WithYouLLC.」を紹介したいと思います。米国のシンガーソングライタージェシカ・シンプソンは、一度売却した自身の小売ブランドのライセンス事業を2021年に買い戻す際にローンを発行しました。その際、ファースト・イーグル社はeコマース売上高やロイヤリティ収入などをコベナンツに含め、ブランドの知的財産権を担保資産としています。融資後、同ブランドはソーシャルメディアなどのマーケティングが奏功し、事業は回復。売上・収入はコベナンツ条件を上回る水準で推移し、ABLタームローンは全額期限前に返済されました。
キャッシュフロー・ベース・レンディングの場合でも期限前弁済の際は手数料が発生しますが、ABLは相対的に金利が高いので、借り手はより短期間で返済する傾向にあります。実際、当戦略のABL貸出期間は平均4年にもかかわらず、おおよそ1年半~2年後に期限前弁済となるケースが多いです。ただし、当戦略では期限前償還手数料等の「コール・プロテクション」を設けているため、期限前弁済も手数料獲得の大きな収益源となっています。
専任担当が業種別に特化したオリジネーション
DL戦略では優良案件へのアクセスもカギになります。オリジネーション(案件の発掘)の過程は。
前田 当戦略では、テクノロジーやヘルスケアなどのノンシクリカル(景気循環性が低い)な業種を選好しており、それぞれの業種ごとに専任の担当をつけ、各業種に注力する中堅規模のPE会社と組んでオリジネーションを行っています(図表4)。ファースト・イーグル社のオリジネーション担当者は担当業種に精通しているため、独自のDD(デューデリジェンス)を通じてローンの実行可否を確度高く、かつ早い段階で意思表示できます。これが、PE会社が協業するレンダーを探す際にファースト・イーグル社を選ぶ理由の1つと考えられます。
PE会社は最終的に投資先企業をエグジットさせキャピタルゲインを得ること、レンダーはインカムゲインを得ながら元本を弁済してもらうこと──と両社の目的はやや異なりますが、投融資先企業の成功を目指す意味で利害は一致しています。中堅規模のPE会社は特定の業種に特化しているケースが多く、一度取引すると次の借り手を紹介してもらえたり、同じ借り手で第2、第3のローンを実行したりするケースも出てきます。ファースト・イーグル社はPE会社との長年の協業実績から強いリレーションシップを築き上げており、その強固な案件パイプラインがさらなる投資機会を呼び込むと言えます。
図表5のように、タームシートを発行し投資意思を示した案件数のうち、他のレンダーとの競合を経て獲得できた案件数の比率(成約件数/タームシート発行数)は年々上昇しており、2023年は84%と好成績を残しています。
シニア担保付第一抵当ローンを主体とした戦略に移行した2015年以降に組成された案件では、デフォルトが3件のみ(年平均デフォルト率0.39%)と低く抑えられています。
前田 前述の通り、PE会社によるスポンサー付きで、かつABLを含むシニア担保付第一抵当ローンが投資対象であることが、比較的高いリターンで安定感のある運用を実現する当戦略の特徴です。加えて、投資案件を随時モニタリングしながらデフォルトに陥らないようにPE会社と協働している点も強調したいところです。
融資先企業のクレジット分析はオーソドックスな手法ではありますが、図表6のように5段階にスコアリングします。融資先がコベナンツに抵触したり元本・利息の支払いが停滞したりする恐れがある際は、モニタリングの水準や頻度を高めていく仕組みです。もしクレジットスコアが悪化した場合には、PE会社に連携して、エンゲージメントを促すほか、追加のエクイティを投入するなど事業の立て直しを図れるよう働きかけています。このようなPE会社との緊密な連携が結果としてデフォルト率の低さに寄与していると考えます。
オープンエンド型とクローズドエンド型を提供予定
今後の見通しは。
前田 2023年秋ごろまでの金利上昇局面で、変動金利のDLは低流動性アセットの中でもとりわけ人気が高まった資産クラスだったのではないでしょうか。他方、足元では米国の利下げがいつ断行されるかが注目されています。金利が下がればベース金利が下がるため、スプレッドが同じならばDLのインカムも減少することになるでしょう。そんな中で当戦略は、運用を開始した2010年代のゼロ金利の時代から6%程度のスプレッドを継続的に獲得してきた実績がありますので、金利の上乗せ分がなくとも今後も安定したインカムを提供していけると自信を持っています。
国内の機関投資家に向けて、今後同戦略をどのように提供しますか。
登川 プライベートデットはクローズドエンド型が主流ですが、リバランスができないことや管理の手間などからオープンエンド型へのニーズが高まっていると感じます。お客様の要望にお応えできるよう、当戦略は2024年内にオープンエンド型/クローズドエンド型の両ファンドを設定予定です。
2010年代前半から築き上げてきたトラックレコードや、過去の様々なクレジットサイクルを経験してきたシニアメンバーの実績などから、お客様には、当戦略はDL戦略として十分な条件を満たしているとご認識いただけていると思います(図表7)。さらに、ファースト・イーグル社との20年以上続くパートナーシップは当社の強みであり、情報の透明性や提供速度には自信があります。既にDLのファンドをお持ちの方も、米国ミドル・マーケットやABLに注目する当戦略は、オルタナティブ投資のさらなる分散先としてお持ちいただけると考えます。ぜひご検討ください。
【ファースト・イーグル ダイレクト・レンディング戦略のリスクおよび手数料】
リスク:投資一任契約に基づく有価証券の投資には、株式投資のリスク(価格変動リスク·信用リスク·流動性リスク)、債券投資のリスク(価格変動リスク·信用リスク·流動性リスク)、為替リスク、カントリー·リスク、デリバティブ取引のリスク、インフラストラクチャー/プライベート·エクイティ投資、不動産関連投資に関わるリスク等があります。したがって、投資元本が保証されているものではなく、当該有価証券等の値動きにより損失が生じ、投資元本を割り込むことがあります。手数料:当社が投資一任契約に係る業務を行う際には、お客様にはご契約の資産額に対し、投資顧問料をご負担頂きますが、現時点においては未定であるため、記載できません。その他、組入資産の売買手数料、保管費用等(以下「手数料等」といいます。)、運用財産を通じて間接的にご負担頂きます。また、投資一任契約に基づき投資信託または外国籍リミテッド·パートナーシップ等(以下、これらを総称して「投資信託等」といいます。)に投資する場合は、投資信託等に係る運用報酬·管理報酬等(監査費用を含みます。以下「諸費用等」といいます。)を間接的にご負担頂きます。これらの手数料等および諸費用等は、契約内容、契約資産の額、運用状況により異なるため、具体的な金額を表示することができません。また、お客様に直接および間接的にご負担頂く投資顧問料、手数料等および諸費用等の合計額についても、契約内容、契約資産の額、運用状況により異なるため、具体的な金額を表示することができません。
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