経済指標を読み解く 実質賃金1月分で前年同月比増加に転じるというポジティヴ・サプライズが生じる可能性~毎月勤労統計、消費者物価指数~
実質賃金が増加に転じることは難しいという常識が、2024年3月7日発表の1月のデータでひっくり返る可能性
名目賃金(現金給与総額)の前年同月比と全国消費者物価指数・持家の帰属家賃除く総合の前年同月比の差として求める実質賃金の前年同月比2022年4月から2023年11月まで20カ月連続でマイナスとなっている(図表1)。
物価上昇率が賃金の伸びを上回る状況が続いていて消費環境が厳しいことを示唆している。直近の2023年11月の前年同月比は、名目賃金プラス0.7%を消費者物価指数プラス3.3%が大きく上回り、実質賃金がマイナス2.5%となっている。
2023年の春季賃上げ率が93年以来30年ぶりの伸び率になった。2024年の春季賃上げ率が昨年を上回る伸び率になり、物価上昇率を上回り、実質賃金が増加に転じることで、所得から消費の好循環が生じるかどうかが、今、注目されている。
日本経済新聞社と日本経済研究センターが2024年1月29日、都内で開いた景気討論会で岩田一正・日本経済研究センター理事長は、「実質賃金がいつプラスになるかはエコノミストの間でも意見が大きく分かれている。
2%の物価目標を実現するには、名目賃金の3%上昇が必要とされる。1年の春季労使交渉の賃上げでそれほど上昇するのか。私は実質賃金がプラスになるかは極めて不透明で、難しいと考える。」と発言された。このように実質賃金が増加に転じることは難しいというのが、現状多くの人々の認識だろう。
しかし、こうした状況下、12月の実質賃金は21か月連続減少になろう。しかし、その次の3月7日に発表される1月の毎月勤労統計・速報で実質賃金が22カ月ぶりに増加に転じたら、ポジティヴ・サプライズと受け止められよう。
そうなる可能性はかなりあると筆者は考える。その根拠を以下述べていきたい。
1月東京都区部消費者物価指数・前年同月比は様々な段階で、12月から伸び率が鈍化
まず、最近の消費者物価指数の状況を細かくみる。2024年1月の東京都区部消費者物価指数(中旬速報値)は生鮮食品を除く総合指数が前年同月比プラス1.6%で、29カ月連続の上昇となったが、12月プラス2.1%からは伸び率が鈍化し3カ月連続で縮小した。
前年同月比は、2022年5月のプラス1.9%以来、20カ月ぶりに日銀の物価目標である2%を下回った。季節調整済み前月比はマイナス0.1%と、11カ月ぶりの低下になった。
総合指数は前年同月比プラス3.1%で、29カ月連続上昇だが、伸び率は5カ月連続で縮小した。
電気代、都市ガス代の下落幅が拡大し、エネルギーにより総合の前年同月比寄与度差がマイナス0.10ポイント縮小した。うち、都市ガス代は前年同月比マイナス24.7%のマイナスで、下落率は遡ることができる71年1月以降で最大だった。都市ガス代だけで総合の前年同月比寄与度差がマイナス0.08ポイントの縮小となった。
但し、2月以降は、2023年2月から反映されている電気・ガス価格激変緩和対策事業による下落の一巡する部分の影響が考えられ、下落率の縮小が予測される。
ちなみに、具体的には、2023年2月の前月比は、電気代がマイナス17.9%、都市ガス代がマイナス9.1%で、概ねこの影響の反動が出ると思われる。2024年2月の総合・前年同月比寄与度差が合計としてプラス0.6%程度の上昇要因になると思われる。
1月の東京都区部消費者物価指数では、生鮮食品を除く食料により総合の前年同月比寄与度差がマイナス0.07ポイント、通信料(固定電話)により総合の前年同月比寄与度差がマイナス0.05ポイントで、上昇率を下げる方向に働いた。
宿泊料は前年同月比プラス26.9%と2ケタの上昇率だったが、2023年12月のプラス59.0%から縮小したため、総合の前年同月比寄与度差がマイナス0.24ポイントの縮小となった。
2024年1月全国消費者物価指数の帰属家賃を除く総合の前年同月比は、19カ月ぶりに3.0%を大きく割り込む見込み
実質賃金を算出するのに使用するデフレーターは全国消費者物価指数・帰属家賃を除く総合だ。全国消費者物価指数・帰属家賃を除く総合の前年同月比は2022年7月~2023年12月まで18カ月連続でプラス3.0%以上になっている。
実質賃金が11月まで20カ月連続で減少している要因のひとつと言えるだろう。但し、最近の動きは2023年10月プラス3.9%、11月プラス3.3%、12月プラス3.0%と鈍化傾向にある。
2023年12月の東京都区部消費者物価指数の帰属家賃を除く総合の前年同月比はプラス2.9%と全国より0.1ポイント低い状況だった。これが2024年1月にはプラス1.9%と1.0ポイントも鈍化した(図表2)。
このことからみて、2024年1月の全国消費者物価指数の帰属家賃を除く総合の前年同月比は、19カ月ぶりにプラス3.0%をかなり大幅に割り込むことが予測される。
毎月勤労統計2024年1月速報値で、22カ月ぶりに、実質賃金・前年同月比が増加に転じる可能性
毎月勤労統計調査では、毎年1月分調査時に調査対象の 30 人以上規模の事業所の部分入替えを行っている。
これが5人以上規模の事業所を対象にした、2023年の毎月の公表データにも影響を及ぼしたようだ。現金給与総額(名目賃金)・前年同月比の2023年1~11月平均はプラス1.2%、共通事業所ベースのプラス2.1%と比較すると、0.9ポイント低めになっている。
2022年の現金給与総額・前年比はプラス2.0%だった。2023年の春季賃上げ率は93年以来30年ぶりの伸び率になったと言われているのに、2023年の現金給与総額・前年比が2022年よりも低いのは不思議だ。2024年1月以降、調査対象の部分入替えで、2023年の低めの伸び率の反動が出る可能性が大きいとみられる。
12月の毎月勤労統計では調査対象が変わらず、全国消費者物価指数・帰属家賃を除く総合の前年同月比がプラス3.0%である、2023年12月は、実質賃金は21カ月連続低下になる可能性が大きいと思われる。
しかし、3月7日発表の毎月勤労統計20 24年1月速報値で、調査対象が変わることで、名目賃金である現金給与総額がプラス2%台前半(22暦年は2.0%であった)、全国消費者物価指数・帰属家賃を除く総合の前年同月比が東京都区部と同じ1ポイント鈍化しプラス2.0%程度になる可能性は大いにあり得るだろう。
そうなれば、実質賃金・前年同月比が22カ月ぶりに増加に転じるポジティヴ・サプライズが生じることになる。