日米協調介入の可能性は完全に否定できない
- 米ソ冷戦終結により米国は親中反日に大きくシフト
- 1998年には米国は「中国救済協調介入」を実施
- 米中分断により日米関係は著しく良好化
- 財務省はいつ介入に動いてもおかしくない
為替相場は国際政治の縮図とも言われる。その観点からは、わが国財務省が米国政府に配慮してドル売り円買い介入に二の足を踏むという読みは的を射ていないであろう。筆者には、日米協調介入の可能性すら完全に否定し得ないと思われる。
米ソ冷戦終結により米国は親中反日に大きくシフト
日ソ冷戦終結を契機に、米国政府にとっての日本の安全保障上の重要性は大きく棄損した。同時に中国に対する経済的関心が加速度的に高まり、1993年には親中国のクリントン政権が誕生。
その後、ジャパン・バッシングと呼ばれる円高をはじめとする経済的圧力が急速に強まっていく。1994年2月には、細川・クリントン会談おいて交渉が決裂し、ドル円相場は1995年4月に80円割れまで売り込まれた。
1998年には米国は「中国救済協調介入」を実施
1998年4月には、オルブライト国務長官が北京を訪れ、同年6月終わりのクリントン大統領による訪中が決定した。その直前の6月17日、予想外に日米協調ドル売り円買い介入が実施されている。表向きは、同日実施された橋本・クリントン電話会談における日本の不良債権処理に関する合意を受けたものと発表されている。
しかし、内実は、当時の円安により為替市場で急速に高まっていた人民元切り下げ圧力に窮した中国政府が、クリントン訪中を前に米国務省に内々に円安阻止を懇願した結果と理解されている。協調介入は米国務省が押し切るかたちで実施され、米財務省のルービン長官とサマーズ副長官は直前まで反対したとみられている。筆者は、介入実施の記者会見におけるサマーズ氏の不貞腐れた表情を今でも覚えている。
米中分断により日米関係は著しく良好化
時は流れて、現在の分断の時代においては、米国にとってわが国の安全保障上の地位は飛躍的に高まった。同時に米国はやはり安全保障上の理由から、半導体をはじめとした対中貿易に制限を設けた。
わが国は防衛費の倍増を決め、広島サミットでは米国の意を汲みウクライナのゼレンスキー大統領に主役の座を譲った。この結果、極めて良好な日米関係が‘構築され、欧米の機関投資家は中国株から日本株に大きくアセットをシフトしている。
財務省はいつ介入に動いてもおかしくない
日米関係の蜜月は、為替政策にも反映されている。1970年代以降に猛威をふるった米国による円高通商圧力は完全に消滅した。2022年9月にわが国財務省が実施したドル売り円買い介入の際に、米財務省は「理解している」とのコメントを発表し、同年10月の介入の際には、イエレン米財務長官が「日本のいかなる介入も知らない」とビナイン・ネグレクト(通貨当局が為替相場の変動を静観)を行った。彼女の真意は不明であるが、筆者は1998年のサマーズ財務副長官(当時)の不機嫌な表情を思い出した。さらに、2023年6月16日に米財務省は半期為替政策報告書の監視リストから日本を除外した。
わが国政府は、単独介入に関して米国政府からフリーハンドを得ていると考えらえれる。また、日本が真に窮した場合、持ち出す政治カードによっては日米協調介入も完全に否定し得るものではないと筆者は考えている。ドル円相場は、今週(2023年6月最終週)2022年の介入開始ポイントである145円に達した。もはやいつわが国財務省が動いてもおかしくない状況にある。