ワールド ゴールド カウンシル(WGC)は2025年10月23日、シャングリ・ラ東京で「揺らぐ世界に、揺るがぬ価値 ―戦略的資産としての金―」と題したセミナーを開催した。本セミナーでは、金市場に影響する米国の政策トレンドの他、中国・インドの金需要や中央銀行の動向、内外機関投資家の金の活用事例など、幅広い観点から情報提供が行われた。

プログラム
<基調講演>
米国の政策と世界に与える影響―潮流とリスク―
今村 卓
丸紅株式会社 執行役員CSO補佐 株式会社 丸紅経済研究所社長
<講演>
金市場におけるワールド ゴールド カウンシル(WGC)の役割
ディビッド テイト
ワールド ゴールド カウンシル チーフ・エグゼクティブ・オフィサー
<講演>
金市場の概況およびポートフォリオにおける金の役割
森田 隆大
ワールド ゴールド カウンシル 顧問
<講演>
中国とインドの金需要
レイ ジア
ワールド ゴールド カウンシル 中国調査責任者
<講演>
中央銀行の準備金の動向
シャオカイ ファン
ワールド ゴールド カウンシル アジア太平洋地域(中国除く)責任者 および中央銀行担当グローバル責任者
<パネルディスカッション>
ポートフォリオにおける活用事例-戦略的資金としての金

(パネリスト)
新原 謙介ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント 取締役副社長CIO
喜多 幸之助元ラッセル・インベストメント シニアアドバイザー
クレア リンカーンワールド ゴールド カウンシル 機関投資家部門グローバル責任者
森田 隆大ワールド ゴールド カウンシル 顧問

(司会)
戸田 淳氏 ワールド ゴールド カウンシル 日本代表/機関投資家リレーション責任者
基調講演

米国の政策と世界に与える影響―潮流とリスク―

米国孤立も世界の貿易量は増加

【講師】
丸紅株式会社
CSO補佐 執行役員
株式会社 丸紅経済研究所社長
今村 卓

2025年現在、世界は地政学リスクの高まりを受けて不確実性が増している。戦後世界を安定させてきたルールに基づく国際秩序が侵食され、分断が進んでいる状況だ。地政学リスクを高めるロシアや米国トランプ政権による不満政治の体現などから、米国突出の一極から多極へ変わり、世界の重心の変化という大きな衝撃を伴う転換期となっていくだろう。

この流れは、米国が世界に提供してきた国際公共財としての自由貿易体制や市場経済、国際金融システムにも影響を与える。特に、基軸通貨の動揺は金の価値の変化にも直結することを強く意識する必要がある。

トランプ政権は2期目に入り、より自らの直感で動くようになっている。トランプ氏の周囲には、たとえ認識が異なっていてもそれを正すことができず、彼の示す方向に突き進む閣僚高官が揃っている。そのため、行動力がある政権ではあるものの間違った方向に進む恐れが十分にあると言える。

またトランプ氏は良い意味でも悪い意味でも伝統にとらわれないタイプであり、「米国はこうあるべき」「共和党はこうあるべき」という前提の見直しを迫ることがある。同盟国への思い入れも薄いことから、目の前にある取引のチャンスに飛びついてしまう。その結果、日本などの西側諸国よりも中国の方が有利になるケースすら生じており、関税問題やロシアへの態度もトランプ氏のさじ加減一つで変わる可能性がある。

加えて、トランプ氏の周辺では2028年の大統領選と2029年以降を見据えた野心を持つ高官が存在している。こうした次世代の独自の動きによって、今後トランプ氏の統制が効かなくなる局面も想定される。トランプ関税については交渉の末15%まで緩和されており、どうにか世界経済は崩れずに済みそうである。しかし、交渉材料となった対米投資についても細部は未定のままとなっており、暫定的な安定であることは理解しておく必要がある。

また、本来トランプ関税には貿易赤字の削減や製造業の復権など様々な目的があるが、1年経ってみても何も問題が解決されていない可能性がある。そうなったときに政権や関税で恩恵を受けるはずだった産業界から「もっと関税を引き上げてくれ」という声が出るかもしれない。

さらに、現在すでに莫大な関税収入が出てきているが、だんだん「これは誰が負担しているのか」「ただの増税ではないのか」という意見も出てくる可能性があり、トランプ関税がもたらすものには注視し続ける必要があるだろう。 

ただし、WTO(世界貿易機関)の見通しでは世界全体の商品貿易量は2025年0.9%増、2026年1.8%増と貿易量が増える見通しとなっている。これは、ヨーロッパやアジアなどの国々が新たな貿易相手先を懸命に探そうとしている結果である。各国間で新しいFTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)が次々と生まれているのもこのためで、米国がグローバリゼーションから距離を置くのとは逆方向の動きが世界では起きていると言える。

ドル信認低下が金保有増加の要因に

世界各国の米ドル不信についても考えておきたい。米ドル/円レートでは分かりにくいが、米ドル/ユーロやドルの実効レートで見ると、米ドルの信認は着実に低下していることが分かる。その元凶は、アメリカの財政運営にある。共和党が財政規律を重視する建前にもかかわらず、実際には減税を強行して増税はせず、むしろ「共和党」でありながら産業政策に多額の資金を使うようになっている。その結果、公的債務は膨らみ続けている。公的債務がここまで膨らんでくると、各国の中央銀行は「米ドルを外貨準備として持っていて大丈夫なのか」と考えるようになり、当然ながらポートフォリオを見直す必要に迫られるだろう。

では、ドルの基軸通貨の地位に代わる通貨があるかというと、現状では見当たらない。ユーロは一定の受け皿になるが基軸通貨になり得ず、人民元も基軸通貨になるつもりがない。したがって、ドルの基軸通貨の地位自体は変わらないが、基軸通貨の質が著しく低下しているのである。

これが「究極の投資家」である中央銀行からすると、ポートフォリオを変えなければならないという判断に繋がり、結果として金の保有を増やす要因となっている。このドルの信認が回復するようなことが起こりうるかというと、現在のトランプ政権ではなかなかその芽が見えてこないだろう。

講演

金市場におけるワールド ゴールド カウンシル(WGC)の役割

小規模金採掘業者(ASGM)の課題

【講師】
ワールド ゴールド カウンシル
チーフ・エグゼクティブ・オフィサー
ディビッド テイト

金市場を取り巻く環境が大きく変化する中、我々ワールド ゴールド カウンシル(WGC)に求められる役割は最高水準の信頼性と透明性を備えた金市場を構築することである。2025年現在、金市場は金鉱山における持続可能な事業への取り組みや、デジタルゴールド技術による金の信頼性・透明性・流動性の向上に向けた取り組みなどポジティブな変化が見られる。

一方で、昨今は小規模金採掘業者(ASGM)による金産出が増えており、危険な化学物質の使用や労働搾取、さらに違法な金取引で得た資金が犯罪組織に渡るような事態も生じている。25年前、ASGMによる金産出は全体の約4%だったが、現在は20~25%、これに従事する人は2000万人とも3000万人とも言われ、こうした状況は決して看過すべきではない。

WGCとしては各国政府や国際機関にも働きかけ、ASGMで生計を立てる人々が不当な搾取などの被害に晒されず、安全に配慮した環境下で働けるようにしたい。また違法な金取引による資金が犯罪組織やテロ組織の手に渡らないようにするための取組を主導している。

課題解決に必要な3つの要素

我々は、ASGMの課題を解決するために重要な要素が3つあると考えている。まず1つめは、金鉱石の採掘現場から精錬所、さらにその先までの過程を追跡できる「トレーサビリティ技術」の導入だ。これによって、買い手が安心して金を購入できる透明性が確保できるようになる。現在、我々はスイス企業と協力してこの技術の開発に取り組んでいるところだ。

2つめに、集中型精錬施設の設置が挙げられる。小規模採掘では水銀を用いて鉱石から金を抽出する方法がとられるが、この手法は健康および環境に深刻な被害をもたらすうえに金の回収率も30%程度と低い。しかし、集中型精錬施設によってシアン化法を導入すれば、健康・環境被害を抑えられることに加えて金の回収率を95%まで引き上げることができる。さらに政府などの公的機関が運営する精錬所を通じて金を取引できる仕組みが整えば、犯罪組織の介在を排除する効果も期待できる。

最後に、適切な小規模採掘者から金を購入する公的な仕組みを整えることが挙げられる。例えば、中央銀行を通じて自国で産出した金を購入する制度を設けた。具体的には、WGCはフィリピン、モンゴル、エクアドル、コロンビアなど7つの中央銀行と連携し、適切な方法で採掘された金を購入して金準備として保有するか、国際市場で売却して外貨準備を補強するプログラムを進めている。この取り組みは他国の中央銀行からも関心が寄せられており、参加行による金の購入量は急速に増加している。

これら3つの取り組みを成功させるためにWGCは、各国のリーダーが小規模金採掘の重要性を認識し、対策を制度化する動きを主導していく。

講演

金市場の概況およびポートフォリオにおける金の役割

投資分野が金価格上昇を牽引

【講師】
ワールド ゴールド カウンシル
顧問
森田 隆大

金はよく希少価値が高いと言われるように、数量にすると地上在庫は約21万6000トンほどしかない。そのほか確認埋蔵量が約5万5000トンとなっており、これを2024年における年間の鉱山産出量から考えると約15年間の埋蔵にあたる計算となる。

では、そのストックに対するここ10年の平均需要はどのようになっているか。分野別に見ると宝飾品32%、テクノロジー7%、投資需要39%、中央銀行21%となっており、様々な分野での需要があることが分かる。加えて、地域別の需要についても欧州12%、米国とカナダ10%、中東7%、中華圏28%、インド亜大陸22%、東南アジア10%、その他12%なっており、多くの地域に分散している。つまり、金の需要は分野的にも地域的にも多様化している特徴がある。また供給についても同様で、2024年の主な産出国10カ国を見ても分かるように需要同様かなり多様化している状況である。

そういった需要・供給構造の中、金価格はここ5年で急上昇しており、パンデミック発生前からの上昇率が約150%、過去2年における上昇率が約115%となっている。この価格上昇を牽引したのは、中央銀行および地金・金貨といった投資分野の需要である。

この需要増加の背景にある最大の要因は、マクロ環境における不確実性の増幅である。中央銀行は過去3年で年間1000トンを超える金を購入しているが、その理由として非常時におけるパフォーマンスやポートフォリオの分散効果、そして価値の保全などが挙げられる。

地金・金貨についても、不確実性の増幅に加えて物価上昇および自国通貨の価値毀損が背景として挙げられるだろう。

分散効果・インフレヘッジに期待

では、金をポートフォリオに加えることでどのような効果が得られるのか。金のリターンは、長期スパンで見ても他の主要資産に決して遜色のないものがある。株価が大きく下落した時に日本株や米国株と逆相関関係にあることから、ポートフォリオの分散効果も高い。また、金はシステミックリスクが発生したときに高いパフォーマンスを発揮する特徴があることから、非常時における資産保全にも役立つ資産と言える。加えて、インフレヘッジとしての役割も大きく、日本では2%超のインフレ局面で顕著なパフォーマンスを発揮している。

WGCでは、日本の企業年金の平均的なポートフォリオに対して、金を2.5%から10%まで追加するシミュレーションを実施し、金の保有比率が高いほどリスク調整後リターンが上昇することを確認している。

講演

中国とインドの金需要

宝飾品需要が減少、投資需要が拡大

【講師】
ワールド ゴールド カウンシル
中国調査責任者
レイ ジア

世界の金需要において、中国とインドは非常に重要な存在である。例えば過去10年における世界の金需要のうち、宝飾品需要については、中国とインドを合計した需要が世界全体の50%を超えており、地金・コイン需要については、同じく世界全体の50%近くに達している。

中国とインドには共通して「金は繁栄や富、幸運、権威を象徴するもの」だと考える文化があり、結婚式の際に宝飾品セットやインゴット(金地金)などを購入する風習がある。中国では国慶節や春節など重要な祝日、結婚シーズンピーク前の9月頃に金需要が増える傾向にあり、インドでは「ディワリ祭」(通常は10月下旬)と「アクシャヤ・トリティヤ」(通常は4月下旬)の2つの祭りに合わせて購入されることが多いようだ。

こうした文化的な需要に加えて、近年では投資目的の需要も増加している。例えば金ETF(上場投資信託)の残高は中国が194トン、インドが77トンとなっており急速に拡大している。

一方、2025年上半期における宝飾品需要は金価格高騰の影響で数量ベースでは中国・インドを含めて世界各地域で前年比で減少傾向にある。一方で、金額べースでは中国は横ばいだが、インドを始めとして他の世界各地域では増加している状況だ。また、2025年上半期における地金・コイン需要は2013年以来の最高水準に達しており、中国は前年同月比26%増の239トン、インドは前年同月比7%増の93トンとなっている。

インドでは規制当局が金投資を後押し

ここで、中国・インド市場の現状においてそれぞれ押さえておこう。まず中国は、家庭の貯蓄額を見ると約160兆人民元に達しており、パンデミック前の約110兆人民元と比べて大幅に増加していることが分かる。

我々は、この貯蓄が金に流れ込むと見ている。金は価値の保存手段としての役割があり、米中関係が緊張している現在は特に貯蓄の移動先として適した選択肢となるためだ。また、在庫サイクル理論によると先行指標である通貨供給量(M1)の2024年比伸び率が底打ちの兆候を見せている。このサイクルは金宝飾品や地金・金貨の需要を約6カ月先行するため、中国の需要が近いうちに底を打ち、反発に転じると予想している。

続いて、インドはこれから2025年末にかけて金需要のピーク期に入ることに加え、消費税減税による可処分所得の増加も金需要を後押ししそうだ。さらに、インドの規制当局が年金基金や保険会社に対してAUM(運用資産残高)の最大5%を金に投資することを許可する可能性があり、新たな投資家の参入もポジティブ要因になりそうだ。

金価格には短期的な変動が常にあるものの、中国とインドの需要にはこうした多くのポジティブ要因が存在する。我々はこれらの要因が金の長期トレンドを牽引するだろうと考えている。

講演

中央銀行の準備金の動向

実際の購入量は中銀の報告より多い

【講師】
ワールド ゴールド カウンシル
アジア太平洋地域(中国除く)責任者
および中央銀行担当グローバル責任者
シャオカイ ファン

各国の中央銀行による金の購入量は2022年以降で年間1000トンを超えており、2010~2021年の水準の2倍以上に達している。

金の年間購入量を見てみると、ポーランドをはじめとするチェコ、セルビア、スロベニア、ハンガリーなど中欧・東欧諸国が活発に金を購入していることが分かる。その理由として、これらの国々はロシア・ウクライナに物理的に近いことが挙げられる。また、これらの国の多くはユーロ圏に属しておらず欧州中央銀行の管轄下にもないことから自国通貨を守る必要がある。

ただし、我々は中央銀行が報告している以上に公的部門による金購入が実際にはもっと多いと考えている。毎月IMF(国際通貨基金)に報告する公式統計と我々による推計データに大きな乖離があるためだ。

この乖離が生じる理由として、ソブリン・ウェルス・ファンドによる金購入が多いことが挙げられる。彼らは購入量を公表していないため、正確な数字を把握することができない。

また、金を購入しているにもかかわらず正確に報告していない中央銀行も多いと考えている。

「政治的リスクへの備え」が最多

ここで、私たちが毎年中央銀行に行っているアンケート調査の結果を紹介しよう。「5年後に総準備金のうちどのくらいの割合が金・ドルになると思うか?」という質問に対し、金の割合が「やや増加」「かなり増加」と答えた中央銀行が76%となっている。一方、米ドルについては「大きく減少」「少し減少」と答えた中央銀行が73%だ。つまり、多くの中央銀行が5年後における金の役割が高まる一方で、米ドルの位置が現在よりも低くなると考えている。

また、「金を保有する決定には次の要因がどの程度関連していますか?」という質問については、「危機時の金のパフォーマンス」との回答が最も多くなった。近年の新型コロナウイルスパンデミックや地政学リスク、米国のトランプ関税などの局面において金がパフォーマンスを発揮している点を踏まえると、中央銀行が
金を準備資産として保有することの重要性が分かるだろう。

続いて、「自国の中央銀行の金準備は今後12カ月間でどのように変化すると予想していますか?」という質問に対し、「増える」と答えた中央銀行が43%で過去最高水準に達している。その理由として「準備金分散政策の一環」や「先進国における政治的リスクの高まり」が多く挙げられており、世界全体の政治的リスクが以前よりも高まったという中央銀行の認識が示されている。つまり、中央銀行は金の保有により増大する政治的リスクに備えようとしているのだ。

パネルディスカッション

ポートフォリオにおける活用事例 -戦略的資産としての金

攻めと守りの両面で注目を集める金

戸田 日本の投資家はどのように金市場に関わってきたか。

【パネリスト】
森田 隆大氏(ワールド ゴールド カウンシル 顧問)

森田 日本の金市場はこの15年で劇的に変わった。2010年頃は大型詐欺事件の影響から「怪しい資産」という見方が強く、純金積立の残高は激減し、金地金の売却が購入を上回っていた。金ETF(上場投資信託)の残高もほぼゼロで、機関投資家による金投資も皆無だった。

しかし2025 年現在、国内ETFは5本超、投資信託も20本超で、いずれも残高が兆単位となっている。企業型確定拠出年金(DC)でも金が選択肢に入り、残高は数千億円を超す。これはマクロ環境の変化に加え、世代交代により金に先入観を持たない客観的な投資家層が増えたためだ。今後も金への関心はますます高まるだろう。

戸田 ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントのマルチアセット戦略では金をどのように活用しているか。

【パネリスト】
新原 謙介氏(ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント 取締役副社長CIO)

新原 我々は、現在の投資環境でリターン追求とディフェンシブの2つの役割を持つ資産は金だけだと考えている。中長期的な戦略的資産配分(ストラテジック)の比率を検討する際は、金が危機時に助けとなるディフェンシブな役割を果たしつつ、インフレ期に高いパフォーマンスを発揮する点を評価、また中央銀行などの構造的な買い手が存在することから、期待リターンを想定する際には、物価上昇にプレミアムを上乗せることが妥当ではないか。

当社のマルチアセット運用では、ベンチマークに対してオーバーウェイト/アンダーウェイトを行う戦術的な配分(タクティカル)と、トータルリターンを追求する動的な運用(ダイナミック)の2つの戦略で金を用いている。年金や機関投資家が高い比率で金を持つのは難しいかもしれないが、こうした手法を用いながら組み入れるのも有効な方法であると考える。

戸田 世界の機関投資家ではどのようなことが起きているか。

【パネリスト】
クレア リンカーン氏(ワールド ゴールド カウンシル 機関投資家部門グローバル責任者)

クレア 現在、シュローダーやモルガン・スタンレー、JPモルガン・プライベートバンクなどの機関投資家では「金が効果的な分散投資の役割を果たせる」という共通認識を持っている。多くの国で高インフレが続き株式と債券の相関が高まっている中で、過去のポートフォリオ構築の方法とは異なるアプローチが求められて
いる。

そこで多くの投資家は、金価格が危機時にも株式市場が好調なときにもいずれの曲面でも上昇していることから、金を分散投資先の一つとして非常に重視するようになった。多様なリスクが存在する新たな局面において金の存在は無視することができず、ポートフォリオ構築の再考を促す大きな要素となっている。

他のオルタナでは得難い分散効果

戸田 日本の年金運用としては金をどのように捉えたらよいか。

喜多 私は2019年頃から機関投資家向けに金投資を紹介するレポートを書いてきた。世界金融危機以降現在まで、大きな金融危機が回避されてきたが、代わりに政府債務が拡大し、その結果通貨の信用に疑念が抱かれ始めている。

【パネリスト】
喜多 幸之助氏(元ラッセル・インベストメント シニアアドバイザー)

最近では、オルタナティブ投資の中でプライベート資産が人気だが、経済成長に投資するという点では上場株式と変わりなく、リスクシナリオ下では分散効果は得にくい。債券やキャッシュは元本保全目的で投資されるが、通貨価値下落に伴うインフレが続くと実質価値は目減りする。

そこで、実質価値保全の役割を果たせるのが金だと位置づけられる。暗号資産も同様に価値保全の役割を期待されるが、金は2000年も昔からお金として流通してきた歴史を持つ。高々10年程度の暗号資産とは信用力が違う。

戸田 他のオルタナティブ資産と比べて金を組み入れる理由はどこにあるのか。

新原 主なオルタナティブ資産と「株式60%/債券40%のポートフォリオ」との相関を見ると、金が最も相関が低いことが分かる。コモディティやREIT(不動産投資信託)、ヘッジファンドなどは、実態は経済成長への投資であり、さらに時間とともに相関が高まっており、真の分散にはなっていない。

またクラスター分析においても、金は他の資産から最も離れた位置にあり、相関が低いことが証明された。これは統計的にも金がリスク性資産ではなく、「非リスク性資産」であり、その中でもかなり固有の動きをしていることを示している。

喜多 従来、機関投資家は金をコモディティの一種として捉えてきた。また、これまでは通貨価値の安全性について考える必要がなかったが、近年の投資環境により通貨分散について真剣に考えるべきとの見方も増えている。従来は分散先の候補となっていたドルに懸念が生じている中、金がその役割を担う投資先の一つとなっている。

海外年金基金の取り組み・為替管理は?

【司会】
戸田 淳氏(ワールド ゴールド カウンシル 日本代表/機関投資家リレーション責任者)

戸田 海外の機関投資家の取り組みについての具体例を教えてほしい。

クレア 金はインカムを生まないが、無国籍資産であり、信用リスク・デフォルトリスクがない。さまざまな目的で利用可能な資産であり、他のコモディティとは大きく異なる。例えば、安全資産としてダウンサイド・プロテクションとしての活用が可能であるだけでなく、成長投資/インフレヘッジの資産として活用する投資家も増えている。

さらには流動性手段と捉える投資家もいる。英国の大規模DCスキームでは、資産の約2%を金に配分している。彼らはインフレヘッジ目的の分散投資手段として金に投資している。オランダのあるDB(確定給付型)年金基金では、2021年から金を保有。国債利回り低下を受けて保有する国債の5%を売却して金に投資した。期待リターンを維持しつつ分散効果によるリスク低減を狙い、その通りの効果を享受している。

金投資にあたっては、先物、現物、ETFと様々な手段が可能である。

戸田 最後に、為替管理の考え方を知りたい。

新原 金と円はともに安全資産として「危機時に金高・円高」となって、金と為替の影響が相殺することが多く、これまで為替ヘッジが不要と考えられてきた。しかし、金価格の上昇と円安進行が起きている現在の環境下で、今後金安・円高のダブルパンチが起きる可能性も以前より高いと考えられる。そうなると円ベースで大きな下落を被るリスクもあることから、為替ヘッジも選択肢に入る。

喜多 金はドル円と逆相関することが多かったため、為替ヘッジ“なし”の方が為替ヘッジ“あり”よりリスクが低いという特殊な特性がある。今後も円安が続く前提ならノーヘッジでよいだろう。

またこれだけ金価格が上昇している中で「ここに今から飛び乗るか?」という問題があるが、ドルが趨勢(すうせい)として減価してきているとの見方もある。なるべく下げたところで入りたいだろうが、時間分散で取り組むのがよいのではないか。

パネルディスカッションの様子

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