• ベッセント発言の真意は日本の介入封じ
  • 為替レートは市場において決定されるべき
  • トランプ大統領もすでに方針転換
  • 日銀は日本国債の半分をファイナンス
  • ベッセント長官は日本の介入に不快感表明か

ベッセント発言の真意は日本の介入封じ

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

ベッセント米財務長官は、2025年10月27日に片山財務大臣との間で開催された日米財務大臣会談において、「インフレ期待を安定させ、為替レートの過度な変動を防ぐ上で、健全な金融政策の策定とコミュニケーションが重要な役割を担い、アベノミクスの導入から12年が経過し、状況は大きく変化している」と強調したと米財務省が公表した。

為替市場は、これを同長官が発したドル円相場の上限(ライン・イン・ザ・サンド)を153~155円とするメッセージと受け取ったが、全くのミスリードである。したがって、その後、ドル円相場は151円まで下押ししたこともミスリアクションといえる。同発言の真意は日本の為替介入を封じことである。

為替レートは市場において決定されるべき

これを遡る同年9月11日、加藤財務大臣と同財務長官は、日米財務大臣共同声明において、「両者は、為替レートは市場において決定されるべきこと、及び為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再確認した」と発表している。

すでに為替介入は石破政権時代から禁じ手となっていた。さらに、2025年6月に米財務省が公表した半期為替レポートでは、ドルに対する円安の正常化として、日銀の金融引き締めの継続と公的年金基金による対外証券投資を通じた競争的円切り下げの是正が強調されていた。

トランプ大統領もすでに方針転換

ベッセント財務長官は、就任当初から一貫して為替レートは市場が決めるとのスタンスを堅持してきた。2016年の選挙キャンペーン中から政権2期目の就任当初まで円安と人民元安への批判を繰り返してきたトランプ大統領も、最近になって、ようやく米国政府が1995年から継続しているドル高・市場不介入政策の重要性を理解したようである。

2025年7月25日、トランプ大統領は記者団からドルについて質問を受けた際、「自分はドル安を好むとは絶対に言わない」と回答、「個人的には強いドルを好むが、弱いドルは稼ぎをとてつもなく大きくする」と発言し、ようやく方針転換した。ちなみに、2002年にはドル高政策の禁を破ったオニール財務長官(当時)が更迭の憂き目に逢っている。

日銀は日本国債の半分をファイナンス

日銀は、政府とアコードを結んで、インフレと賃金上昇が併存する好循環経済の実現に注力中であり、いまだ緩和的な金融政策を解除する状況にはない。財政支出を今後増やしたい高市政権には、国債(JGB)のほぼ半分をファイナンスしている量的緩和を日銀に今やめてもらうわけにいかないという裏事情もある。

物価高対策は、政府に委ねられており、政府は、ガソリン暫定税率廃止等の財政措置を検討中である。一方、米国と異なり日本においては、為替相場は財務大臣の専管事項であり、為替介入の単なるエージェントである日銀は、為替相場に何ら政策的な責任を負っていない。金融緩和の継続が必要な中、円安が物価高の要因であれば、財務省が為替介入で何とかすべきということになる。

しかし、上述のように、米国政府は財務省による為替介入を封じたため、円安に対して八方ふさがりとなっているわけである。

ベッセント長官は日本介入に不快感表明か

そもそも、もはや為替介入は時代遅れな過去の産物との感が否めない。日本を除くG7(主要7か国)各国は、2000年以降、同年のユーロ救済や2011年の東日本大地震時の協調行動を除き、為替介入を実施していない。日本の介入金額は天文学的で、古今東西例をみない規模である。この観点からみれば、日本はG7先進国というより新興経済国に近いといえる(図表)。

■日米欧の為替介入額(兆円換算)
日米欧の為替介入額
出所:MOF、Fed、ECB

現在、財務省の選択肢は非常に限られる。日本の財務相が正攻法でベッセント長官を説得して、米財務省から為替介入実施の承諾を得る可能性は極めて低い。したがって、口先介入が関の山である。

無論、日本は独立国家であるから、米国の承諾なしに勝手に実弾介入を行って、米国の黙認を祈ることはできる。しかし、ベッセント長官が、前任のイエレン氏のように、為替市場に対して不快感を表明したら、市場参加者は介入の継続性に疑問を持ち、そもそも懐疑視されている効果がさらに大きく低下することは避けられない。

円安が政策的に阻止されるリスクはとても低い。現状、円ショート・トレーダーにとって、恐れるものはないのである。