多くの機関投資家が、ポートフォリオの分散効果を高め、ボラティリティ低減に寄与しながら利回りも追求できる投資機会を求めています。昨今、投資家に開かれつつある「ファンド・ファイナンス投資」は、そのようなニーズに応える有望な選択肢の一つです。この新たな投資機会の魅力について説明します。

今後も拡大が見込まれるファンド・ファイナンス市場

シェリー・モリソン
アバディーン
ファンド・ファイナンス部門責任者
シェリー・モリソン

ファンド・ファイナンス(以降、FF)とは、プライベート・エクイティ、プライベート・クレジット、インフラ、不動産などのプライベート資産ファンドに対し、そのライフサイクルの様々な段階で提供されるローンです。主な市場は、投資家(LP)のコミットメントを裏付けとする「サブスクリプション・ライン・ファイナンス(以降、SLファイナンス)」と、ファンドの純資産価値(NAV)を担保とする「NAVファイナンス」の2つがあります。

投資資金の迅速な供給を実現するFFは、融資先となるファンドマネージャー(GP)の運用機会に対する即応性を高め、さらにキャッシュコールのタイミングの明確化を通じ、彼らのLPにもキャッシュフローの予見性向上をもたらすメリットを提供します。プライベート市場の拡大とともにFFのグローバルな市場規模は拡大を続けており、既に1兆米ドル規模(Preqin、2025年2月)を超えながら、今後数年でさらに大幅な成長が見込まれています。

FF市場は世界最大手の限られた銀行が支配する市場です。しかし資金需要が大型化し、かつ資本規制の厳格化が進む昨今、彼らはシンジケート化でリスク量のコントロールを図るようになったため、新たな銀行がシ団への参加を通じてFF市場へ参入し、その魅力的な利回りにアプローチできるようになってきました。ただ、そうした銀行は既存プレイヤーである主幹事銀行と直接的な競争相手となります。そこで主幹事銀行は、投資家のような非伝統的な貸し手のシ団参加を求めているのです。

構造に強力なプロテクション、パブリック市場との低相関も

投資家にとって、この状況は大きなチャンスと言えます。FFは投資対象として見れば、魅力的な信用力を背景に、利回り向上とボラティリティ抑制の両立を実現する手段だからです。

利回りについては、前述したSLファイナンス戦略は基準金利を165~300ベーシスポイント(bps)上回るリターン、NAVファイナンス戦略では基準金利を160 ~500bps上回るリターンが期待できると考えます。大部分が変動金利債務で構成されていることから、金利上昇環境から恩恵を得られる可能性があるいま、投資を検討する絶好のタイミングが到来していると言えるでしょう。そして、図表に示す通りFFに構造的に強力なプロテクションが備わっていること、パブリック・クレジット市場とリターンの相関が低いことが、ポートフォリオに安定感を提供します。

■LPのコミットメントを裏付けとするファンド・ファイナンス・ファシリティの支払い回収源
■LPのコミットメントを裏付けとするファンド・ファイナンス・ファシリティの支払い回収源
出所:アバディーン、2024年12月

日本におけるFFは、NAVファイナンスが広く認知されています。ただ、特に注目してほしいのはSLファイナンスです。より優れたリスク調整後リターンの実績があることはもちろん、NAVファイナンスの融資期間が通常5年程度であるのに対し、SLファイナンスは多くの場合2年未満とよりデュレーションが短く、投資家の流動性管理ニーズと合致すると考えられるからです。

なおFFは、前述したように強力なプロテクションが備わっている特徴から、同様の格付け・デュレーションを持つ社債よりも資本規制上の取り扱いが有利になると予想できます。実際、欧州ならびに英国では、ソルベンシーⅡの規制が追い風となり、資本効率が高く分散化された短期利回りを提供してくれるFFが保険会社にとって魅力的に映る状況が続いています。経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR)と日本版の保険資本基準(ICS)資本要件が導入される過程にある日本でも、FFの資本規制上の取り扱いやリスク管理に関して認識のズレが生じる可能性はあるものの、日本版ICSとソルベンシーⅡとの整合度を考えると、FFソリューションは日本の保険会社にも欧州・英国と同様のチャンスを提供できると考えています。

市場参入のハードルは運用マネージャーとともに越える

このようにFF市場の投資機会は魅力あるものですが、投資家がダイレクトにFF市場に参入するのが簡単でないことも事実です。

伝統的に銀行の独壇場だった融資市場では非伝統的な貸し手が案件を発掘するのが難しい上、融資先のファンドのデューデリジェンスや信用評価を実施する際には、ファンドの戦略内容や実績、投資家基盤を分析するために、高度な専門知識が必要となります。融資実施後も、各ローンの継続的な資金管理やモニタリングをしなければなりません。投資家にとって、それをクリアするハードルはかなり高いでしょう。さらに借り手となるプライベート資産ファンドのGP側でも、資金需要に迅速かつ柔軟に対応してもらうため、ファンドの法的文書や仕組みに精通した貸し手を求めている事情もあります。

こうした中、経験豊富なFF戦略の運用マネージャーが融資市場と保険会社の間に立つことで、投資家がFF市場に参加するための効率的な方法を提供できると考えています。

FF戦略の運用マネージャーには、信用や流動性の管理、為替ヘッジ、そして言うまでもなくオペレーション、法律、ストラクチャリングの専門知識など、幅広い能力が求められます。さらに緊密なデューデリジェンスを実施する体制や、FF市場で活動する幅広い銀行の融資プログラムへアクセスできるネットワーク力も重要になります。それらを兼ね備える運用マネージャーは、様々な通貨・融資期間・プライシングを持つFF案件へアプローチすることが可能です。そのため、投資家のニーズに合わせて、豊富な選択肢から最適な投資先へのアクセスを提供できるのです。

私たちは魅力的な投資機会がありながらアプローチが困難であったFF 市場へのガイド役となることで、投資機会の追求に貢献していきたいと考えています。

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アバディーン・ジャパン株式会社

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