2024年10月、ジャナス・ヘンダーソンのプラットフォームに、担保として多様なアセットで裏付けられたローンに投資する「資産担保ローン(ABL)」戦略に長けたビクトリー・パーク・キャピタルが加わった。現在、機関投資家のポートフォリオ分散の新たな選択肢として熱視線を浴びるABL。その魅力や注目分野について、来日した同社のブレンダン・キャロル氏とトム・ウェルチ氏に話を伺った。

ビクトリー・パーク・キャピタル
共同創業者 シニア・パートナー ブレンダン・キャロル氏(左)/パートナー トム・ウェルチ氏(右)

強固な担保資産を有する企業への融資に注力

ビクトリー・パーク・キャピタル(以下、VPC)とはどのような運用会社か。

キャロル VPCは2007年に創業して以来、プライベートクレジット投資に特化した運用戦略に注力してきた運用会社だ。中でも、米国を中心に強固な担保資産を保有する企業を選別し、幅広い業種に融資を行うアセット・バック・ローン(資産担保ローン、以下ABL)は、VPCの主力分野だ。創業から取り組んでおり、既に20年近くこの分野で知見とブランドを積み上げてきた。

■ビクトリー・パーク・キャピタル(VPC)の概要

ビクトリー・パーク・キャピタル(VPC)の概要
出所:VPC
1. 2025年3月末時点 2. 2025年1月時点 3. 2025年2月時点のLTMのデータ、VPC ABOC戦略の全ての取引を集計

そのABLは、一般的なプライベートクレジット投資と比較してどのような特徴があるのか。

ウェルチ ダイレクトレンディングなどの融資では、ある企業に融資する際、その企業が将来生み出すキャッシュフローの見通しを担保と見なして貸出額を決定することが大半だ。一方でABLは、担保となる様々なタイプの資産を前提に、その価値と質を吟味して貸出額が決定される点が特徴的だ。消費者クレジット、機器、不動産、著作権、売掛金、在庫、自動車……といった多様な対象が、ABLにおける担保資産となり得る。

また、キャッシュフロー型の貸出が平均的に6~10年と中長期の融資期間(デュレーション)を有するのに対して、ABLは平均2~4年の短期の融資が中心となる点も特徴だ。

さらに、キャッシュフロー型貸出との比較で最も注目すべき点は、融資した資金の使途だろう。ABLはアーリーステージ(成長段階)にある比較的若い企業からの需要が多い。そして融資した資金は、それらの企業がビジネスを成長させるための本質的な投資に直接充てられることがほとんどだ。一方で、例えば一般的なダイレクトレンディングでは、近年プライベートエクイティ(PE)ファンドによるM&A(買収・合併)や、配当金への充当などに貸付金が使われるケースも増えている。

キャロル ビジネスサイクルの初期段階にある企業の成長をサポートすることは、ABL投資家であるVPCの重要な役割であり、投資の中心だ。その一方でVPCは、大きなクレジットライン(融資枠)も設定可能だ。したがって、VPCの融資先企業が最初の5000万~1億米ドル規模のABLを通じてどんどん成長し、次のステップへと進んだ後も、継続的にパートナーとして歩むことができる。企業の発展に長期的に寄り添うパートナシップを実現できる運用会社はそう多くないだろう。近年、ABL市場には競合他社の参入も増えているが、一朝一夕に築いたのではない多くの融資先との関係性こそ、VPCのABL投資におけるゆるぎない強みであると自負している。

プライベートクレジット運用の分散効果向上に期待感

いま機関投資家がABLに投資するメリットについて聞きたい。

ウェルチ 企業の資金繰りを巡る不透明感が続く中で、やはり多様なアセットを裏付けとすることで担保評価の安定性が期待できる点が、ABL投資の大きなメリットになっている。また融資先企業の事業の成長をよりダイレクトに刺激できる点も、特徴的だろう。足元の不確実性が上昇した運用環境で、ABLの投資妙味はますます高まっているように感じる。

それに加え、いま世界中の機関投資家がABLに注目するのは、ABLの投資を通じてプライベートクレジット運用のポートフォリオの分散効果を高められるからだ。この数年間、世界中の機関投資家はダイレクトレンディングを中心にプライベートクレジットへのエクスポージャーを拡大しており、この資産クラスに対する知見も深まってきた。その過程で、自分たちのポートフォリオがあまりにもミドルマーケットのダイレクトレンディングに偏っていることに気が付き始めている。

キャロル ウェルチが先述したように、近年ダイレクトレンディングはPEファンドがLBO(借入金を活用した買
収)のための資金を調達する目的で組成される傾向が強い。よってPE市場が活況の時はダイレクトレンディングも上向き、逆もまたしかりと、PEとダイレクトレンディング市場が“表裏一体”となっている可能性に警戒が必要になる。そこで、ダイレクトレンディング以外のプライベートクレジットに投資のすそ野を拡大しようと急ぐ機関投資家が増えている。その選択肢としてABLへの進出意欲が強いことは、足元でVPCに寄せられる問い合わせや新規投資の増加で実感するところだ。

■ABL戦略における主な投資対象セクター

■ABL戦略における主な投資対象セクター
出所:VPC
注記:上記は説明目的で記載するものでありVPCがこれらのセクターに投資するとは限りません。
* 短期の不動産ローン

リアルタイムな「データ」と深い分析力がリスク管理のカギ

ブレンダン・キャロル氏
ビクトリー・パーク・キャピタル
共同創業者 シニア・パートナー
ブレンダン・キャロル

ABLに投資する上で注意すべきポイントは。
キャロル VPCは投資哲学として、リスクマネジメントを重視することで投資家の皆様の期待に沿う運用を行うことを目指している。ダウンサイドを徹底的に抑制することを考えると、ABL投資で重要なのが、やはり裏付けとなる担保資産をいかに設定するかだ。
 
投資先によって担保資産は様々であるため、画一的な対応は難しいが、共通して意識しているのは「万が一の際、迅速に現金化できる担保資産を設定する」ことだ。例えば、超長期の住宅ローンではなく、短期間で返済される元利均等返済ローンといった資産に担保されていることを重視している。
 
加えて「ストレス耐性」も大事な視点だ。投資先のデフォルトというストレスシナリオ下でも元本棄損しないように、元本を相当程度上回る価値の担保を設定し、金融危機といったショック局面も念頭に入れて、担保資産の清算価値や現金化の可能性を分析する。この時忘れてはいけないのが、「担保資産の収益性」だ。融資期間中、担保資産が高い超過収益を生むほど、損失に対する“クッション”が厚くなるからだ。

ウェルチ こうした分析を行うにあたり、不可欠なのがデータの活用だ。通常、貸し手(VPC)と借り手の間にはリスク要素について情報ギャップが生じることが多いため、VPCでは契約上、ポートフォリオに含まれる企業に対して、財務状況や担保資産について広範な情報の提供を要求している。そして、API(ソフトウェア連携技術)を通じて借り手の経営システムとVPCのデータ分析プラットフォーム「DARTS」を直結することで、リアルタイムかつ高精度なリスクマネジメントを実施している。

「DARTS」の存在は、リスク管理だけでなく今後の投資に資する洞察を得ることにも貢献しそうだ。

キャロル その通りだ。いまM&A市場でIPO(新規株式公開)が難しくなってきた兆しもあって、成長期の企業が株式市場や伝統的な金融機関による融資市場での資金調達をしにくくなっている。そのため、今後ABL市場にはより多くの、そしてより巨額の資金需要があると見込まれる。そうした中で、グローバルで一番妙味のある投資機会に迅速にアクセスしていくためには、こうしたシステムをフル活用した効率的なリサーチが欠かせないだろう。

高い参入障壁があり多くの非効率性が残る「リーガルファイナンス」市場

トム・ウェルチ氏
ビクトリー・パーク・キャピタル
パートナー
トム・ウェルチ

ABLの一種で、御社では「リーガルファイナンス」も手掛けていると聞いた。

ウェルチ リーガルファイナンス(LF)は弁護士事務所や、集団訴訟などの法的紛争に関わる当事者に対して提供される短期のファイナンスだ。様々な形態があり、弁護士事務所へのリコースローンから法的請求権の直接購入などが含まれる。
 
新しくニッチなアセットクラスなので、これまで世界でも一部の機関投資家のみが投資していた。しかし、ABLと同様にプライベートクレジットの分散を追求したい幅広い層の機関投資家がここにきてLFの妙味に気が付き、熱心に研究している。時間の経過とともにLFへの投資は拡大していくと見ている。

キャロル LFの場合、担保資産となるのは法定紛争解決の際の弁護士事務所の成功報酬であったり、和解金の受け取り権利であったりする。イメージが難しい分野だが、その取引規模は既に1兆米ドルを超えている。半面、LF市場は伝統的金融機関からの融資が難しい点や、弁護士事務所との情報共有が限定的であることが多いなど、まだ非効率性が多く残されている。

加えて、LFの収益源泉は法的紛争による収益だが、訴訟や裁判が発生する要因は金融市場やマクロ経済の動向に影響されにくい。したがって、投資することでポートフォリオのリスク分散に寄与するメリットがある。特に株式のボラティリティへのヘッジ手段として有効に機能する傾向が見られる。

多くの魅力がある一方で、投資する難易度が高そうだ。

ウェルチ 高度な専門性が必要になることから、投資家の参入障壁は非常に高い。LFでも担保の評価・分析が重要になるが、融資先の法律事務所が抱える係争案件のポートフォリオを見た時、それらがどれだけの価値があるのか判断するには深い法律知識に加え、業界経験などに基づく質的な分析力が要る。特に、担保の対象がまだ判決が下されていない裁判に紐づくファイナンスの場合は、係争の行方を読み解き勝率を見定める必要があるため、難易度が跳ね上がる。
 
ただ、だからこそVPCのようにLFに専門性を持つ投資家は、低い競争率の下で投資機会を追求できる。VPCでは2018年からLFを手掛けており、現在までに100件以上、総額10億米ドル以上のLFに投資してきた。ここまでアクティブにLFに取り組んできた運用会社は非常に少ないだろう。これまでの実績や知見がそのままVPCの優位性になっている。

JHのプラットフォームを通じ日本にもソリューション提供

貴社は2024年にジャナス・ヘンダーソン(JH)との合併を発表した。

キャロル ABLひいてはリーガルファイナンスは、経験豊富な機関投資家にとっても馴染みの薄い資産クラスだと思う。事実、VPCもその魅力を幅広い投資家に伝えきれずにいた。そうした中で、この度、世界の機関投資家に運用戦略を提供しているJHと合併したことは、大きな転換点だ。JHのプラットフォームを経由して、これまでアクセスが難しかった地域の皆様と関係を深め、VPCの注目する投資機会や、どうやってVPCがそれらの機会にアプローチしているかについて、紹介できる機会が拡大したからだ。これを機に、日本でもJHとタッグを組んで、機関投資家の皆様にプライベートクレジット運用の可能性を広げるVPCの運用ソリューションを広くご紹介していきたいと考えている。

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ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズ・ジャパン株式会社
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