物価高騰を表す「もやしの購入金額」

宅森 昭吉
2025年3月の新型コロナウイルスによる大幅な景気後退局面を含む2019年7月~2021年12月の30カ月間で、家計調査の「もやし」購入金額(2人以上世帯の1カ月間の購入額)と景気指標の代表である景気動向指数・一致CIの相関係数は▲0.738と逆相関であった。
一方、コメや生鮮食品など必需品の物価が高騰し生活を圧迫している最近の2023年8月~2025年3月の20カ月間で、「もやし」購入金額と全国消費者物価指数の相関係数は0.681と正の相関がある。
景気が悪くなり消費者の節約意識が高まる局面や、野菜などの高騰局面だと、価格が安価で安定していて、ビタミンやミネラル、たんぱく質、食物繊維などの栄養が豊富で、下準備がほとんどいらず調理が簡単な、もやしの購入金額が高まる。最近の「もやし」購入金額は、物価高騰下の動きを反映したものと言えよう。
家計調査の月次データでみると、2020年のもやし購入金額は、コロナ禍の影響が小さかった1月と2月は76円だったが、3月99円、4月はさらに106円まで増え、景気の谷の5月は102円になった。2020年4月の水準は、前年の長雨と台風の影響で野菜が高騰した2018年2月の106円以来だった。コロナ禍で景気が悪化する中、食費を少しでも節約しようと工夫する消費者の行動が窺えた。
2024年12月の2人以上世帯の1カ月のもやし購入金額が、94円で景気の谷である2020年5月の102円以来の高水準になった。また、2025年に入っても、消費者の節約意欲は大きく1月99円、2月98円と推移し、直近のデータである3月のもやし購入金額は104円と、コロナにより景気が大きく落ち込んだ2020年4月106円以来の水準まで上昇してきた。消費者がコメや野菜などの高騰で増える食費を少しでも節約しようとしていることがわかる数字だ。
なお、3月分が公表されたことで2024年度の家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」が判明した。28.3%で1981年度以来43年ぶりの高水準だ。所得の伸びが食品価格の高騰に追い付かず、家計を圧迫する構図となっている。

・もやし購入金額(円)と一致CI (2020=100) ▲0.738(2019.7~2021.12 30カ月)
・もやし購入金額(円)と全国CPI 0.681(2023.8~2025.3 20カ月)
出所:総務省、内閣府
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■3月実質賃金は3ヵ月連続でマイナスを記録
3月実質賃金は前年同月比▲2.1%と3カ月連続のマイナスで、減少率は2月の▲1.5%から拡大した。名目賃金である3月の現金給与総額は30万8572円だった。3月の前年同月比は+2.1%で増加は39カ月連続だ。
なお、所定内給与の前年同月比は2月、3月とも+1.3%で、2024年5月から2025年1月まで9カ月続いた+2%台から鈍化したが、2024年がうるう年だった反動の影響もありそうだ。春闘賃上げ率が高かったこともあり4月以降の前年同月比が持ち直すことを期待したいところだ。
コメを含めた食料品などの高騰で、3月のデフレーターの持家の帰属家賃除く消費者物価指数総合の上昇率は前年同月比+4.2%と2024年12月以来4%台で高止まりしており、実質賃金の足を引っ張る状況となった。
また、2025年3月分から、国際比較しやすいということで、消費者物価指数・総合をデフレーターにした実質賃金の前年同月比が追加発表されるようになった。3月消費者物価指数・総合の前年同月比は+3.6%で、同指数を反映した実質賃金・前年同月比▲1.5%と、こちらの指数でもマイナスだった。

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