米国債券購入時の米ドルヘッジコストが急上昇している中、リスク対比で割安でヘッジコストも低いユーロクレジットが注目されている。欧州クレジット市場の動向と今後の展望について、アクサ・インベストメント・マネージャーズ(以下、アクサIM)のエカテリーナ・ビゴス氏に聞いた。

欧州債務危機に迫るスプレッド水準

エカテリーナ・ビゴス氏
アクサ・インベストメント・マネージャーズ
CIO、コア・インベストメント、アジア(除く日本)
エカテリーナ・ビゴス

ドル円相場で急激に円安が進んでいる。米ドル建てクレジット資産へのエクスポージャー(投資残高)が大きい日本の機関投資家は、海外クレジット資産への投資妙味を感じづらくなっている現状がある。

日米の金利差が拡大してきた影響で、2022年8月現在、日本の機関投資家が米ドル建てクレジットで円ヘッジする場合、失う利回りは約3.3%ポイントにものぼる。ヘッジコストの上昇は米国の投資適格社債などのクレジット資産への投資魅力を減じさせ、大きな逆風だ。

利回りを求める日本の投資家の中には、より高いクレジットリスクを取って米投資適格社債の下限であるBBBマイナス格債などを追求する動きも見られるが、米国で景気後退や成長減速といったリスクがくすぶる中では相応にリスクがあると言える。

他方で「ユーロクレジット」、いわゆるユーロ建てクレジット資産に活路を見出す日本の投資家も増えていると聞く。その背景は。

ユーロクレジットには足元の運用環境下、大きく分けて2つのポイントに注目が集まっていると考えている。

1つ目が前述のように米ドル建てクレジット資産のヘッジコストが上昇する中、米ドル対比で見たヘッジコストが小さいことだ。例えば2022年8月現在、ユーロ建てクレジットを円ヘッジすると、失うリターンは0.9%ポイントにとどまる。米ドル建てクレジット資産のヘッジコストが約3.3%ポイントであったことを考えると、大きな違いだ。

2つ目のポイントは投資リターンの源泉になり得るスプレッドの拡大だ。2022年初来の世界的な物価上昇に対して各国中央銀行はインフレ抑制に努めているが、高止まり傾向が依然続いている。そんな中、強い金融引き締めと高い物価水準の間で個人消費やマクロ経済への悪影響が懸念されてきた。

こうしたリスクはユーロクレジットのクレジットスプレッドに如実に表れており、足元で投資適格社債などのスプレッド水準は2010年の「欧州債務危機」と同程度まで接近している。

■ 投資適格社債・ハイイールド債のクレジットスプレッドの推移
投資適格社債・ハイイールド債のクレジットスプレッドの推移
出所:Bloombergのデータ(2022年8月31日時点)を基にアクサIM作成

銀行と不動産セクターに熱視線

不確実性の拡大でリターンの源泉となるスプレッドが拡大していることは注目に値する。そうなるとファンダメンタルズが気になるが……。

ボラティリティの上昇にもかかわらず、2022年4~6月期には欧州全体で企業および銀行が力強い決算を発表したことで、投資適格企業などのファンダメンタルズには楽観的な見方が広がった。バランスシートの改善が目立ち、健全なキャッシュフロー創出力により良好な流動性を維持していることが確認された。

企業の安全性分析の指標となるインタレスト・カバレッジ・レシオも歴史的な高水準にあるなど、様々な信用指標がユーロクレジットのファンダメンタルズの堅調さを物語っている。2020年3月から始まった格下げサイクルはおそらく終了したものと考えられる。

バリュエーション、ファンダメンタルズの両面からの示唆を見れば、既に大きなリスク要因を織り込んでスプレッドを拡大させてきたユーロクレジットの現状のバリュエーションはリスク対比でかなり割安な水準にあると言え、投資家にとっては魅力的な投資機会になるだろう。

注目のセクターは?

まず当社が注目するのが銀行セクターだ。2022年前半の業績がコンセンサス予想を上回ったことに加え、中央銀行のタカ派的な動きを考慮すれば、利上げの恩恵を受けて収益増加が見込めるからだ。同様に不動産セクターも、同年はじめの価格調整がサプライチェーンの混乱やREIT(不動産投資信託)の高レバレッジ化を考慮しても大きすぎたと分析しており、魅力的な水準にあると考えている。

欧州クレジット市場の今後の焦点と注目の運用戦略は。

コロナ禍の景気対策で社債の最大の買い手となっていたECB(欧州中央銀行)は2022年7月に債券購入プログラムの純債券購入を終了した。これは金利上昇圧力を通じて一時的に市場へのマイナス圧力となる可能性がある。ただしユーロ圏の社債の総発行量は減少傾向にあり、足元では2009年以来の低水準にある。これはテクニカルな支援材料となるかもしれない。

他方、欧州では周辺国での政治的変動やロシア産天然ガスの供給停止の可能性などが懸念材料となり、市場にさらなるボラティリティがもたらされる可能性がある。

このように足元では様々なリスクとチャンスが混在し、かつ市場の動きは速い。こうした運用環境では、良質なクレジットを見極めての銘柄選定や、テールリスク管理を視野に入れた保守的なポートフォリオ構築で、適度なリスクを取りつつ、ベンチマークを上回る成果を目指す機動的なアクティブ運用の力が発揮されるだろう。

アクサIMの債券運用部門では約4888億ユーロ(2022年6月時点)の運用残高を擁し、約半分がクレジット資産だ。

当部門では約120名のプロフェッショナルが世界各国の国債、投資適格クレジット、ハイイールド社債、エマージング債券などをカバーしている。各市場を担当するチームやマクロ経済リサーチチームをまとめるフレームワークとして「MVST」を掲げており、 M(マクロ)、V(バリュエーション)、S(センチメント)、T(テクニカル、需給)それぞれのファクターについてスコアリングを行うことで、各市場を担当するチームの知見をグローバル債券運用チーム全体で共有することが可能だ。

当社では今後も引き続き、変動が大きい市場環境を想定しているが、これまでウクライナ危機や金融政策の不確実性など厳しい時期を経てきた債券市場は既に多くの悪材料を織り込んでおり、市場が予想以上に回復する可能性を過少評価すべきでないと考えている。

こうした点を念頭に置き、当社はアクティブ運用戦略を中心に、グローバル債券市場における多様な投資機会をとらえることに注力している。その中でも、足元の難局を乗り切る活路として魅力を増しているユーロクレジットは、日本の機関投資家の皆様の目標達成に資するはずだ。

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