スイスの金融グループを母体とするフォントベル・アセット・マネジメントは、1994年からESG(環境・社会・企業統治)・サステナブル投資に注力しており、2009年以降はカーボンニュートラルを達成している。フォントベル・アセット・マネジメント・プライベート・リミテッドの日本における代表者の吉野剛司氏に、運用戦略や市場動向を伺った。

※記事内容は特に断りがない限り2021年8月末時点

フォントベル・アセット・マネジメントは、傘下に特定のアセットクラスや運用戦略に特化するなど専門性に長けたブティックを複数抱えるマルチブティック・モデルで運用能力を高めてきた。1994年から、ESG・サステナブル分野でブティックごとに異なる資産やアプローチにまたがったSI(持続可能性投資)/ ESG戦略を、クライアントのニーズにカスタマイズして提供している。

吉野剛司氏
フォントベル・アセット・マネジメント・
プライベート・リミテッド
日本における代表者
吉野 剛司

フォントベル・アセット・マネジメントはクオリティ・グロース、サステナブル株式、債券、TwentyFour(債券)、マルチアセットの5つのブティックを展開しています。2021年6月末現在で、31のSI/ESG戦略を取り扱っており、その運用資産残高は355億スイス・フラン(約4兆2100億円)です。

2013年以降のSI/ESG特化戦略の運用資産残高の増加率は38%(年率、2021年6月末現在)と高く、特にEU(欧州連合)が先行するESG情報開示規制に連動するプロダクトへ資金が多く流入する傾向があります。直近では、2021年3月にEUで施行されたSFDR(サステナブルファイナンス開示規則)における金融商品分類のうち、第8条(環境や社会の特性を促進する商品)や第9条(サステナブルな投資目的を持つ商品)に適合したプロダクトの投資ニーズが増えています。

運用資産、戦略、地域ごとに適切なESGアプローチがあるとの考えから、ブティックごとに異なる投資アプローチをとっていますが、社内にESGセンターを設置してブティック間の連携を高め、相互支援を積極的に行っています。毎年のESG研修や社内外のセミナーへの参加など、従業員のカルチャーにESGが息づいています。

ESG投資では、①360度の視点②独自のオピニオン確立③アクティブオーナーシップ④継続的なオーバーサイト⑤透明性ある顧客開示――のすべてを重視します。ESG評価の発展性・多様性を踏まえ、全体像を多面的に見ていく必要があり、エンゲージメントや議決権行使など投資先企業への積極的な関与や銘柄選択という観点から、アクティブ運用が最適だと考えます。

同社が2009年にカーボンニュートラルを達成した背景には、2008年に運用をスタートした『クリーン・テクノロジー戦略』がある。課題解決型企業への投資を介して金融面でのリターンと社会へのインパクトの「二重の恩恵」を目標とする運用を行い、構成銘柄の約7%(2021年6月末)は日本企業が入っている。

EUのESG関連の規制強化の動きなどが追い風となり、2020年の『クリーン・テクノロジー戦略』の超過収益は23.3%*となりました。2009年1月の当戦略のコンポジット設定来のリターンは16.2%*(年率、2021年6月末現在)で、2021年もバイデン米大統領によるパリ協定への復帰もあり、資金流入が続いています。EUの機関投資家からは金融面のリターンだけでなく社会へのインパクト測定も求められるため、同戦略は詳細なインパクト投資レポートなどを発行しています。

*当戦略のコンポジットリターン(ユーロ建て、報酬費用控除前)

例えば、100万ユーロを投資した際の潜在的なインパクトを測定すると、再生エネルギー装置の場合は144kwの発電が可能で、これは年間石炭消費290トンと置き換えることができます。また、100万ユーロの投資で二酸化炭素の排出量4568トン削減に貢献することも可能で、これは自動車の路上外排出量で2744台相当に当たります。こうした測定結果も、今後投資判断の1つの指標になるといえるでしょう。

フォントベル・アセット・マネジメントの代表的なESG戦略※クリックまたはタップすると拡大表示されます

高金利のリターンで注目されるエマージング市場への投資でも、ESGは欠かせない要素となった。しかしESGの推進が難しいエリアでもある。同社の『mtxサステナブル・エマージング・リーダーズ株式戦略』は、ROIC(投下資本利益率)、業界ポジション、本源価値の上昇余地に加え、ESGを投資の柱とする4つのプロセスで分析していくという。

エマージング市場は、ESGの発展途上の面もあり、必ずしもスコアの最上位群銘柄が優良というわけではありません。スコアだけで評価せずに、対話を重ねて総合的な評価をすることが重要です。また、セクターごとにESG配分比率やスコアリング項目を変えるといったきめ細かい対応で、相対的価値が高い銘柄を発掘していきます。

ESG専任者(チーム)を個別に設置するのではなく、運用者全員がESGに精通し評価を実施するという指針の英国のブティックTwentyFour社提供の『サステナブル・ショート・ボンド戦略』。SFDR第8条対応型で、2021年はEU各国からすでに数百億ユーロの資金流入がある。

TwentyFour社ではESGの外部データ、論争点、モメンタムを社内レビューにて統合し、適切なピアグループごとに比較できる独自のデータシステムを構築しています。このシステムには発行体ごとの各SDGsへのコミットやCO2排出量なども記録されています。システムを通じ、ポジティブスクリーニングのスコア度合ごとにポートフォリオの各リスク・リターンが従来までのネガティブスクリーニングに比べどの程度勝るかを示す比較計測などユニークな分析を行っています。銘柄選定の段階で、懸念される企業へはIR(投資家情報)へ直接確認を取ります。また、ある企業の懸念点を記事にまとめて掲載したところ、それがメディアに取り上げられたことで企業との対話を実現させたこともあります。このように、債券では難しいとされるエンゲージメントにも注力しているのです。

スイスの債券ブティックの『グリーン・ボンド戦略』も運用規模が徐々に拡大しており、各銘柄の発行体の属性や地域の多様化が進んでいます。以前はEUの発行体がほとんどでしたが、今では中国などアジア地域も増えています。同戦略は、炭素排出量実質ゼロ達成を掲げる機関投資家から注目を集めており、日本からの問い合わせもいただいています。

EUでは、サステナビリティに関するルールであるEUタクソノミーやSFDRなどのガイドラインと一致しないプロダクトへの投資が年々難しくなっています。EUから各国へと導入が進んだ過去のソルベンシー規制などを鑑みると、こうした規制と同等のルールが今後日本でも導入される可能性は少なくありません。

ESG・サステナブル分野の中でも、社会を変革していくインパクト投資はますます拡大するでしょう。ESG・サステナブル分野において先行する我々の本国スイスでの運用手法などについて、日本の機関投資家の皆様にも広く知っていただき、運用の一助としていただければ幸いです。

フォントベルは、シンガポールに設立したフォントベル・アセット・マネジメント・プライベート・リミテッド(以下、「当社」)の東京支店を通じて日本国内で事業を展開しています。当社は金融商品取引業者として、金融商品取引法第28条3項に規定される投資助言・代理業を営んでおります。当社は、当社の関連会社である海外の投資運用会社のVontobel Asset Management、TwentyFour Asset Managementを含むフォントベルの運用会社(以下、「フォントベル運用会社」と総称します。)のために、投資一任契約や投資顧問契約の代理・媒介業務を行います。フォントベル運用会社は日本で金融商品取引業者として登録を受けていないため、当該契約を締結いただけますのは、日本で登録を受けた投資運用業者様に限られます。

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フォントベル・アセット・マネジメント・プライベート・リミテッド

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