DC運営 基礎の基礎 〜新米担当者が「ゼロ」から学ぶ 【第0回】さあ大変「DC担当を命ず」!
昨日まで総務や人事などの仕事をこなし、それなりに「一人前」。それが「DC運営担当」の辞令が出て、頭の中は真っ白。そんなあなたのための新連載「DC運営 基礎の基礎〜新米担当者が『ゼロ』から学ぶ」が4月、J-MONEY Onlineで始まります。
還暦過ぎが「30代の人事部員」になりきり質問
いきなり「DC(確定拠出型企業年金)運営」の担当者になって天を仰ぐあなたになり代わるのは、J-MONEYの論説委員で朝日新聞企業年金基金・前常務理事の私、阿部圭介です。とっくに還暦を過ぎていますが、30代半ばの人事部員(係長ぐらいですかね)という想定で「基礎の基礎」をDCに詳しいコンサルタントに質問する形式です。
回答者はDB、DC「二刀流」のコンサルタント
「人事の阿部くん」の質問や悩みに懇切丁寧に答えてくれるのは、野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング(以下、NFRC)の木須貴司(きす・たかし)さん。フィデューシャリー・マネジメント部シニアコンサルタントを務め、DB(確定給付型)、DC共に詳しい方です。今回の新連載【第0回】では、連載の狙いや、木須さんのご紹介を二人の掛け合いで進めていきたいと思います。

フィデューシャリー・マネジメント部 シニアコンサルタント
木須 貴司さん
「情報過疎」で「孤独」なDC担当者
今回は【第0回】なので、「人事の阿部くん」に扮する前の状態で伺っていきます。私自身は、DBの朝日新聞企業年金基金で常務理事を3年弱務めました。運用執行理事は母体財務の兼務でしたので、年金資産の運用を事実上1人で担当していました。しかし、総幹事の信託銀行やコンサルタント会社の勉強会、またファンド運用会社の四半期報告などがありました。それに加えて、企業年金同士の横のつながりが結構強かった。そのため、社内では孤独な存在ではあるものの、勉強の機会は意外と豊富。結果的に、マクロ経済や運用商品などに関する情報量は相当蓄積していたと思います。
木須 阿部さんの会社にもDCはあるのですよね。
人事部門が運営を担当しており、企業年金基金はノータッチでした。その時、脇から眺めていたのですが、資産運用に集中できる基金と異なって、接している情報も乏しく、相談できる相手も周りにいない。おまけにDCだけを担当しているわけでなく兼務なので、運用商品の選定や社員からの質問や応対はさぞかし大変なのだろうと思っていました。
木須 一部の例外を除いて、多くの企業がほぼ同様の状況ではないでしょうか。DC運営担当者の多くには、運営管理機関(「運管」と略称されます)からのほぼ一方通行の情報ぐらいしか入ってこない。孤独かつ情報過疎と言えると思います。
「何から手をつければよいのか」に答えたい
ということは、DC担当に就いた直後、多くの人は「何から手をつけたらよいのか」に悩む状況ですか。
木須 「どこから」「何から」に迷い、結果的に「何もできない」。そういう声をよく耳にします。この連載では、こういったレベルのお悩みに答えていきたいと思います。
以前のDCは加入者が「置き去り」
ところで、木須さんについては私が基金に在籍していたときから存じ上げており、てっきりDB専門のコンサルタントだと思っていました。
木須 もちろん現在でも全国各地のDBがお客様ですし、金融法人向けの講演も行なっています。自分自身ではDCとオルタナティブ投資、資産配分(アセット・アロケーション)に強みを持つコンサルタントだと思っています。
ただ、私自身がコンサルタント業務を始めた頃、2014年ぐらいですかね、国の社会保障審議会などがDC法改正に向けて動き出していました。その中で「米国の401K(確定給付型の個人年金)のように指定運用方法に適格基準を作るべきでないか」とか「事業主の受託者責任を明確化すべきだ」といった議論が出始めた。ところが当時の日本のDC業界は、運管と事業主の利益が最優先。肝心の加入者は置き去りにされたような構造になっていました。そうした認識に基づき、2016年頃から私は社内で「DC向けのコンサルタント業務も必要ではないか」と発言。以来、今日まで細々とではありますが、DCコンサルを続けています。
若い世代に好まれるDC
終身雇用ではなく転職が当たり前になっている若い世代にとっては、DBよりDCのほうが理解しやすいといった面もありそうです。
木須 私自身、転職を経験してからは、企業年金制度という意味ではDCにしか加入していません。また、ミレニアム世代やZ世代にとっては、賦課方式の公的年金や、会社が積み立てるDBよりも、DCあるいはiDeCoが好まれる印象があります。そういった意味でも、これからDC運営の担当になる方には、関連する知識をしっかり身につけていただきたいと思っています。
得意分野はオルタナティブ投資
資産運用のコンサルタントの人たちは、資産全般に関する知識を持っていると思います。木須さんは、その中でも特に詳しい分野はありますか。
木須 私はオルタナティブ投資が好きですね。好きが高じてCAIA(オルタナティブ投資アナリスト資格)という資格を2018年に取得し、今はCAIA日本支部のエグゼクティブコミッティーメンバーです。野村證券が提供する金融法人向けのオルタナティブ投資の講義も、10年以上担当しています。最近は金融教育にも関わり、大学などで、投資信託やファンド評価などについて講義しています。
連載は4月7日スタート。ニュース次第で「番外編」も
さて、連載は毎月1回、5日ごろにJ-MONEY Onlineで公開する予定です。第1回は、曜日の関係で4月7日(月)となります。DC関連で大事なニュースなどがあれば、随時「番外編」でもお伝えしたいですね。
木須 ええ。今年2025年はDCの掛け金上限の変更やiDeCoの拠出可能年齢の引き上げなどの変更が予想されています。そうしたトピックスがあれば、阿部さんの古巣でいうところの「号外」も発行しましょう。
小さい頃から読書が好き。最近は海外文学に傾斜しており、ラーソンから始まった「ミレニアムシリーズ」や劉慈欣の「三体シリーズ」にはまった。3歳児の子育てでインプットは減ったが、毎日3、4冊の絵本を読み聞かせるのでアウトプット(ナレーション)は上達した。妻、子供1人と猫1匹。基本的に猫を中心に回る木須家の今日この頃だ。
【構成・執筆】阿部圭介
J-MONEY論説委員
1980年、朝日新聞社に入社。整理部記者として紙面編集を担当、経済部記者として金融、証券、情報通信などを取材。経営企画室長、大阪本社編集局長、朝日ビルディング社長を経て2022年3月まで朝日新聞企業年金基金常務理事。2022年4月から現職