4~6月期は高成長となったが内需は力強さを欠く

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

2023年4~6月期の実質GDP(国内総生産)は前期比1.5%増、年率に換算して6.0%増と高成長を記録したが、個人消費を中心とした内需の寄与度は年率でマイナス1.2ポイントと低調だった。

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同等の「5類」に移行されたことで、レジャーや外食、旅行などのサービス関連消費は堅調に推移したものの、物価高の影響で食料品や日用消耗品などの消費が落ち込んだためだ。

輸出から輸入を差し引いた純輸出(外需)の寄与度は年率でプラス7.2ポイントと成長率を大きく押し上げる要因になったとはいえ、ポジティブな内容とは言い切れない。供給制約の緩和に伴って自動車輸出が持ち直してきたことは好材料だが、電子部品や機械類の生産調整を受けて部品などの輸入が減少したことが外需拡大の主因である。控除項目である輸入の減少によって年率換算の成長率は4.4ポイント押し上げられている。

世界的な生産活動の減速で当面の輸出は弱含み

4~6月期の実質GDPベースの輸出は前期比3.2%増と持ち直したが、主因は供給制約の緩和に伴う自動車輸出の回復で、資本財や電子部品などの情報関連製品の輸出は世界経済の減速の影響で弱い動きが続いている(図表)。

【図表】財別の実質輸出指数の推移
財別の実質輸出指数の推移
※情報関連は、電算機類、通信機、半導体等電子部品、音響・映像機器、科学光学機器など
※資本財は、金属加工機械、建設用・鉱山用機械、重電機器、半導体等製造装置、船舶など
出所:日本銀行「実質輸出入の動向」

自動車に関しても部品不足で生産が遅れていた反動といった側面がある。この先の自動車輸出は巡航速度の回復ペースに落ち着いてくるとみられる。中国や欧州を中心に生産活動の停滞が続いていることから、自動車を除けば当面も日本の輸出は力強さを欠いた動きが続く可能性が高く、外需の押上げ効果は一時的にとどまると予想される。

インフレが個人消費の回復を抑制する要因に

新型コロナウイルスの分類が「5類」に移行されたことで、外出行動も正常化しつつある。内閣府「V-RESAS」の人流データによると、移動人口は、「5類」に移行された直後こそ目立った回復はみられなかったが、6月第3週にはコロナ禍前の19年同週比でプラスに転じた。夏休み期間の旅客・旅行予約もコロナ禍前の水準まで回復している。サービス消費は7~9月期以降も底堅い動きを維持すると思われる。

一方、個人消費の足を引っ張っているのが物価高である。飲食料品の断続的な値上げに加え、衣料品や日用消耗品などへ値上げの動きが広がっており、消費者は節約志向を強めている。インフレが非耐久財の消費を下押しする要因となるため、個人消費全体でみると緩やかな回復にとどまる見通しである。

今回のGDP統計の結果を受けて、当研究所では2023年度の実質成長率を1.8%と予測した。今年5月の経済見通しで想定した1.1%から上方修正したが、輸入の下振れによって純輸出が大幅な押し上げ要因になると見込んだためだ。輸入の減少は内需の弱さに起因しており、景気の回復テンポが高まってきたとみているわけではない。新型コロナウイルスの感染収束で日本経済は正常化に向かい始めているものの、世界経済の停滞が続くことやインフレ圧力の高まりなどが景気回復を抑える要因になるだろう。