日本でインフレが常態化していく中で、運用利回りの向上を意識する機関投資家の声が聞かれる。有利なインカムを獲得するため、伝統的な債券投資の代替としてプライベート・デットを検討する動きも活発だ。その代表格の一つとして、市場規模が拡大するダイレクト・レンディングが挙げられる。フランクリン・テンプルトンは、グループの資産運用会社を通じて、米国企業を対象としたユニークなダイレクト・レンディング戦略を提供している。市場の動向とともに、戦略の優位性を掘り下げる。

フランクリン・テンプルトン

米国では企業の資金調達手段としての重要性が増す

ダイレクト・レンディングは文字通り、企業向けの直接融資を意味する。従来は銀行による貸付がその機能を担ってきたが、2000年代以降の金融危機を踏まえ潮目が変わった。銀行は一定以上の自己資本比率を保つよう求められ、バランスシートの改善に向けて企業向けローンなどは縮小せざるを得ない状況が続く。そのため銀行融資に代わり近年、融資スキームとして存在感を高めている。

ダイレクト・レンディングは、銀行以外のレンダー(貸し手)が借り手である企業と直接交渉して融資を組成する。そのため借り手と貸し手で意思疎通の機会が生じる。これにより、借り手のニーズに合わせた柔軟な融資条件の設定や、迅速な意思決定が可能となる。しっかりとリスクを管理しながら、高いリターンを狙うことができる一方で、運用マネージャーの力量が問われる投資対象だ。

川村 学氏
営業本部長
機関投資家営業部長
川村 学

「S&Pやピッチブック社のデータによると、レバレッジド・バイアウト・ローン市場における案件数の過半はプライベート・デット・マネージャーによるものであり、これは銀行のシェアを上回っている。社債の発行に至らない米国の中堅企業にとってダイレクト・レンディングは事業を継続するために必要な資金調達手段として、重要性が増していると見られる」とフランクリン・テンプルトン・ジャパン機関投資家営業部長の川村学氏は言う。フランクリン・テンプルトンはグループの運用会社に、主に米国におけるクレジット投資に特化したオルタナティブ資産運用会社である、ベネフィット・ストリート・パートナーズ(以下、BSP)を持つ。

コア・ミドル市場は「スイートスポット」

日本の機関投資家にとって、米国のダイレクト・レンディングに投資する利点は何か。フランクリン・テンプルトン・ジャパン シニア・オルタナティブ・スペシャリストの金サラ氏は3つのポイントを挙げる。

1つ目は上乗せ分を含めた金利の高さ。ダイレクト・レンディングは変動利付ローンの一種であり、ベースとなる米国の短期金利が高い足元の環境下で、魅力的なインカムを提供している。「BSPが実際に投資を実施したダイレクト・レンディング案件の利回りの時価加重平均の推移を見てみると、スプレッドは500~600bpsと横ばいに推移した一方、ベース金利が大幅に上昇したことで、2021年9~12月期が7.3%だったのに比べ、2023年9~12月期は12.3%にまで引き上がっている」(金氏)【図表1】。

■図表1:ダイレクト・レンディング案件の利回りの時価加重平均の推移
図表1:ダイレクト・レンディング案件の利回りの時価加重平均の推移
出所:BSP。注:本データは、各四半期におけるすべてのプライベート・デット投資を対象としております。加重平均スプレッドには、PIK(Payment-in-Kind、現物支払)およびOID(OriginalIssueDiscount、当初発行割引)を含みます。OIDは平均保有期間である3年間にわたり償却しております。投資実行時における加重平均LIBORまたはSOFRフロアを反映しております。本図表は、あくまでも説明目的で作成されたものであり、将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。

米国の短期金利の市場の見立ては「Higher for Longer」(より高く、より長く)が根強く、米国経済のソフト・ランディングがメイン・シナリオになっている。「長期的には緩やかな利下げをイメージしているが、急激に以前のような低い水準に向かうことは考えにくい」(金氏)。金利低下の見通しが広がる中、市場のリスク選好姿勢の強まり、社債スプレッドの縮小が進んでいる。こうした環境下で、社債の相対的な魅力が低下し、安定的なインカム収益を求める投資家を中心に、ダイレクト・レンディングへの需要が高まっている。一方、プライベート・エクイティにおけるバイアウト活動の増加や企業のリファイナンス需要の拡大などを背景に、ダイレクト・レンディング市場における投資機会も投資待機資金(ドライパウダー)に比例する形で増えており、スプレッドへの縮小圧力は限定的となっている。アップ・フロントフィー(借り手が貸し手に払う手数料)やオリジナル・イシュー・ディスカウント(発行時割引)といった独自のプラスアルファ要素が加わるのも魅力の一つだ。これらの要因により、比較的に高い利回りを提供できる投資先として、現在の市場環境下では重要な選択肢の一つと考えられる」(金氏)。

2つ目は通常の社債投資対比で高い回収率と低いデフォルト率(BSPのシニア・デット投資(除くエネルギー・セクター)における実績:年率0.33%)。企業のデフォルト・リスクが高まったときや実際の債務不履行が発生した際、市場で発行される債券は複数の債券保有者が存在するため、デフォルトした際の回収プロセスが長期化しやすく、回収率に影響が生じることがある。一方でダイレクト・レンディングは前述の通り、貸し手と借り手が直接に融資契約を取り交わす。「借り手との積極的なコミュニケーション並びに契約内容の交渉、継続的なモニタリングを通じて、リスクの低減を図っている。そのため市場発行の債券と比べて、相対的に実現損失を抑制しやすい傾向がある」(金氏)。さらに、金氏は企業規模とリスクの関係について興味深い見解を示す。「注目したいのは、ダイレクト・レンディング間での比較だ。一般に、企業規模が大きいほどリスクは低下すると認識している投資家は多い。確かに、創業間もない小さな企業はリスクが高いと考えられるが、コア・ミドル市場(EBITDA2500万ドル以上、1億米ドル未満の中堅企業)とアッパー・ミドル市場(EBITDA1億米ドル超)での損失率に違いはほとんどない。むしろ、銀行のシンジケートローンと競合しがちなアッパー・ミドル市場と比べ、コア・ミドル市場はスプレッドの縮小圧力がより低く、スイートスポットだと考えている」(金氏)【図表2】。

※BSPシニア・プライベート・デット戦略のデフォルト率およびエネルギーセクターを除いた場合のデフォルト率を表しており、実現投資と未実現投資における加重平均累積デフォルト率を年率換算しております。BSPは、予期せぬ支払不履行が発生した場合、その投資をデフォルトと見なします。本戦略が上記のポートフォリオ特性を達成することを表明するものではなく、ポートフォリオ特性が表示されたものと大きく異なる場合があります。

■図表2:デフォルト・ローンの平均最終回収率
図表2:デフォルト・ローンの平均最終回収率
出所:S&Pクレジットプロ。期間:1995年~2017年。注:最終回収率は、デフォルト後の再建までの間、債券を保有し続けることで得られる決済額の価値を指します。回収率は、元本に対して受け取った決済額に基づいて算出されております。利用可能な最新データに基づいています。全て米ドルベースです。本図表は、あくまでも説明目的で作成されたものであり、将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。

3つ目がポートフォリオの分散効果。ダイレクト・レンディングは他の債券種別と相関が高いのではないかと懸念する投資家がいるかもしれない。ただ、「国債や投資適格社債、ハイ・イールド債券と比べても値動きの相関性は低い」(金氏)【図表3】。無論、バリュエーションの頻度(流動性)がこれらの資産と比較して低いということが相関に影響している部分もあるが、先述したダイレクト・レンディングの変動利付ローンとしての性格の現れともいえる。「インカム系のデット資産として、合わせて投資することで分散効果が期待できる」(金氏)。

■図表3:米国投資適格社債との相関係数
図表3:米国投資適格社債との相関係数
出所:フランクリン・テンプルトン、クリフウォーター、モーニングスター。期間:2015年12月末~2023年12月末。米国投資適格社債(ブルームバーグ米国社債指数)、米国国債(米国ジェネリック国債10年指数)、米国ハイ・イールド債(ブルームバーグ米国ハイ・イールド指数)、レバレッジド・ローン(モーニングスターLSTA米国レバレッジド・ローン・トータル・リターン(米ドル建て)指数)、プライベート・クレジット(クリフウォーター・ダイレクト・レンディング指数)。すべて米ドル・ベース。四半期毎のリバランス、通常のインカム収益と分配金の再投資を想定しています。算出結果には手数料、税金およびその他の費用は反映されておらず、これらを控除するとパフォーマンスは低下する可能性があります。本図表は、あくまでも説明目的で作成されたものであり、将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。

オープンエンド型の形式で一定の流動性を担保

金 サラ氏
営業本部
シニア・オルタナティブ・スペシャリスト
金 サラ

債券枠の投資対象としてダイレクト・レンディングを捉えた際、主要なリスク要因は、信用リスクと流動性リスクにあると考えられる。一般的に、信用力の低い企業に融資を行った際に、景気後退などで企業の業績や資金繰りが悪化する場合、損失を被る可能性がある。また流通市場が限定されており、資金が必要な時に、現金化できなくなるリスクがある。しかし、これらのリスクを負うこと等が投資家にリターンをもたらす源泉にもなっている。「ダイレクト・レンディング投資の特徴的な要素の一つである非流動性プレミアムは、投資家に対してより高いリターンのポテンシャルを提供する。例えば、第一抵当権付ミドル・マーケット・ローンに関連し、ダイレクト・レンディングとシンジケートローン、それに大企業向けシンジケートローン、ハイ・イールド債券の利回りについて、過去10年以上の推移を見ると、ダイレクト・レンディングは高い水準で堅調に推移している」(金氏)【図表4】。

■図表4: 第一抵当権付ミドル・マーケット・ローンの利回り推移
図表4: 第一抵当権付ミドル・マーケット・ローンの利回り推移
出所:リフィニティブ。期間:2013年~2024年(2024年は5月末時点のデータを含む)。注:分析にはユニトランシェ(シニアローンとメザニンローンを1つのトランシェ(融資枠)にまとめた融資形態)が含まれています。2022年第1四半期以降、データにはLIBORおよびSOFRベースの取引が含まれています。ハイ・イールド債券はBoA米国ハイ・イールド債券指数の3年先のイールドを反映しています。本図表は、あくまでも説明目的で作成されたものであり、将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。

機関投資家に提供されるダイレクト・レンディングは一般的に、10年固定で運用されるファンド形態が多い。個別の投資先も3~7年程度のデュレーションで、それが非流動性プレミアムを生む一方で、投資家にとっては流動性リスクともなり得る。BSPが日本の機関投資家向けに提供しているダイレクト・レンディング戦略「BSP・シニア・デット・エバーグリーン戦略(円建て、レバレッジなし)」は、オープンエンド型の形式を採る。1年間のハードロックアップ期間後は半年に一度、解約請求ができる。1年超3年未満の運用期間には解約手数料を伴うが、3年を超えれば不要という形態をとることで、非流動性プレミアムを得ながらも、一定の流動性に配慮している。設計の細部に言及すると、流動性が低い資産については、満期返済や適切な価格に基づく売却による資金の返却(スローペイ方式)に努め、新規資金の拠出を行う別の投資家がいれば、マッチングによる解約資金の支払いも行うなど、可能な限り流動性の確保を目指す。

「BSP・シニア・デット・エバーグリーン戦略は、数多くのプライベート・デット戦略のラインアップがある中で、日本の機関投資家のニーズに応える保守的な要素を組み込んだ戦略だと自負している。例えば、シニアに限定した第一抵当権付きのローンのみに投資できること。コベナンツライト案件には投資しないこと。石油/ガス/石炭/アルコール/タバコ/武器関連の投資はしないこと。そして為替ヘッジの管理を行っていること。解約ニーズがない限り、継続して定期的なインカム源としてご利用いただける仕組みを提供している」(川村氏)。この保守的なアプローチを採りながらも、米ドル・ベースで10%+のネットIRR(内部収益率)、円ベースで年間約4~5%のキャッシュイールドの分配を目標としている。

日本の地域金融機関で採用が進む

この戦略のポイントは大きく2つ。1つはコア・ミドル市場を対象としている点。「リターンを追求するために各セクターに精通したスペシャリストによるリサーチ・チームだけで20名以上が在籍し、企業のリスクをしっかり把握しスポンサー(投資先企業の買収したプライベート・エクイティ・マネージャー)や企業経営陣とのリレーションを図っている。まさにBSPの強みが活かされる投資領域だ」(金氏)。もう1つはノン・スポンサー案件(プライベート・エクイティ・マネージャーによる投資を裏付けとしていない企業への投資)をポートフォリオの2~3割程度、組み込んでいる点。スポンサーがついていない分、案件の精査に長い時間と労力を要するが、「綿密なデューデリジェンスで過度なリスクを取ることなく、約100bps程度の追加スプレッドを享受できる可能性がある」(金氏)。スポンサー案件の方が安全と認識する投資家もいるかもしれないが、統計を見れば、回収率やデフォルト率に目立った差は生じていない。日本では、地方銀行や信用組合などの地域金融機関で「BSP・シニア・デット・エバーグリーン戦略」の採用が進んでいる。「地域金融機関の資産運用の対象として、この戦略は内容やコンセプトを含め親和性が高いと考えている」(川村氏)。「オープンエンド型の特性により、プライベート・デットの入り口としても有望」(金氏)。

BSPをグループ運用会社に持つフランクリン・テンプルトンの戦略的方向性について、川村氏は次のように語る。「当社の社長兼CEOであるジェニー・ジョンソンは、2020年の就任以来、オルタナティブとデジタルを重点分野と位置付け、包括的な金融サービスを提供することを強く意識している。BSPを含め、グループ資産運用会社を拡大しているのもその一環だ」。最後に川村氏は、日本市場への展望を示す。「日本の機関投資家に対しても、ソリューションプロバイダーとして資産と負債両面での分析を含めた、提案を加速させていきたい」。

ベネフィット・ストリート・パートナーズ(BSP)

ベネフィット・ストリート・パートナーズ(BSP)について

420億ドル超1の運用資産残高を有するクレジットに特化したオルタナティブ資産運用会社。2008年に設立されたBSPの運用プラットフォームは、プライベート/オポチュニスティック型デット、リキッド・ローン、ハイ・イールド、スペシャル・シチュエーション、商業用不動産デットなどで幅広い領域を網羅する。複数のビジネスサイクルを経た経験豊富なメンバーが運用を担い、個別の戦略は、独自のソーシングや分析、オペレーション、コンプライアンスなどの機能を活用。「節度のあるファンドサイズ」で、リスクに対して投資効率の高い運用を続けている。

1: 2023年12月末時点

●当資料は、フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社(以下「当社」)が当社および当社のグループ会社(フランクリン・リソーシズ・インクとその傘下の関連会社を含みます。)の説明資料として作成したものであり、特定の金融商品等の推奨や勧誘を目的とするものではありません。●当資料は、当社が信頼性が高いと判断した各種データ等に基づいて作成したものですが、その完全性、正確性を保証するものではありません。●当資料のデータ、運用実績等は過去のものであり、将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。また、当資料に記載される内容・見解は作成時点のものであり、予告なく変更されることがあります。●当資料に指数・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権、その他一切の権利は、その発行者に帰属します。【手数料等】●投資一任契約に係る投資顧問料は、対象となる期間の運用資産の平均時価残高に、上限年率2.2%(税抜2.0%)の料率を乗じて算出した金額とします(一般的な場合)。契約によっては別途、成功報酬をいただく場合があります。成功報酬は運用状況等によって変動するものであり、あらかじめこれを見積もることが困難であるため、その上限額または計算方法を表示することはできません。また、投資信託等を組入れる場合、別途、当該投資信託に係る運用報酬等・その他諸費用がかかる場合があります。その他の費用として有価証券等の売買委託手数料等がかかります。売買手数料がない取引であっても取引価格に実質的に売買手数料相当額が加算されている場合があります。各種報酬・費用等は契約内容ごとに異なりますので、事前に詳細を示すことができません。【投資リスク】●投資リスクには、金融商品・デリバティブ取引等の価格変動、金利変動、為替変動、発行体の信用リスク、運用に関する取引相手方の決済不履行等、流動性リスク、経済・政治情勢等の影響等があり、また、デリバティブ取引に関する損失が委託証拠金等を上回る可能性があります。投資リスクはこれらに限定されるものではありません。したがって、投資元本は保証されているものではなく、投資元本を割り込み、損失を被る場合があります。●プライベート・デットやローンなど非公開市場で取引されるクレジット投資を主な投資対象とします。これらの投資には、高い流動性リスクや情報の非対称性など、プライベート市場特有のリスクが伴います。●非公開市場の投資対象は、公開情報が限られているため、その価値評価が困難です。多くの場合、借り手の開示情報に依存せざるを得ず、その情報の正確性や完全性は保証されません。情報の不実や欠落は投資価値に重大な影響を及ぼす可能性があります。●非公開企業への投資は、公開企業への投資と比較して、利用可能な情報の不足や流動性の欠如など、追加的なリスクを伴います。●ダイレクト・レンディングは公開市場に上場されず、換金性が著しく制限されます。流通市場の発展も見込まれないため、投資家の皆様は長期的な投資をご検討ください。●非流動的で取引の少ない非公開証券に投資する場合があります。そのため、運用者が適正な価格で証券を売却することや、流動性ニーズに応じて迅速に売却することが困難になる可能性があります。●ダイレクト・レンディングは、一般的に価格変動が大きく、流動性が低く、デフォルト・リスクが高くなります。多くの場合、投資非適格または無格付けの企業への貸付がリターンの源泉となるため、景気後退時など企業の業績や資金繰りが悪化する局面では、投資元本が大きく毀損し、著しいマイナスリターンとなる可能性があります。●換金に関する重要な注意:本戦略は、定期的に換金の機会を設けますが、投資家の皆様が換金を希望する際に、その全額または一部を換金できない可能性があります。本戦略のパフォーマンスにかかわらず、いつでも換金できるとは限りません。●ご投資にあたっては契約締結前交付書面等の内容を十分にご確認ください。●当資料は当社の許可なく複製・転用することはできません。

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