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第3回統合報告セミナー

ステークホルダーから評価される統合報告とは

2018年11月30日

統合報告書において、ESG情報の開示にページを割く企業が増加している。投資家ならびにESG評価機関は、企業のESG情報をどのような視点で評価しているのだろうか。『J-MONEY』を発行するエディトと、企業IR(投資家向け広報)などを支援するエフビーアイ・コミュニケーションズを中心に組織されたIntegration Summitは2018年10月24日、東京で「第3回統合報告セミナー~ステークホルダーから評価される統合報告とは~」を開催した。当日の模様を紹介する。

講演① 統合報告におけるSDGsと自社のESGの関係性

経営陣のコミットを通し企業価値への寄与を見える化

非財務情報と財務情報を結びつけ、統合的思考により価値創出の源泉の見極めを
野間 幹晴氏
一橋大学大学院 経営管理研究科
金融戦略・経営財務プログラム
准教授
野間 幹晴氏

 2006年に国連が提唱した「責任投資原則」により、世界中の機関投資家の間でESG投資に対する意識が高まっている。日本でもGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を含む62の機関が署名しており、投資対象の企業に対しESGについての情報開示を求めるなどの動きが広まっている。

 企業もSDGsやESGへの取り組みを強化しているなかで、投資家から課題として指摘されるのが、統合報告においてESG活動が財務的な成果と結びついていない点だ。投資対象としての企業にESGが求められているのは確かだが、ESGに注力していない企業やインデックスよりも価値をうまなければ、投資価値はないと判断されてしまう。このため統合報告書では、ESGなどの非財務情報を開示するだけでなく、それがどのように本業に影響を与え、企業価値に寄与しているかの見える化、すなわち非財務情報の財務化が重要だ。

 非財務情報と企業価値との関連が不明確であれば、統合報告の有用性が低下する。つまり、見えにくい「稼ぐ力」の「見える化」が重要だ。価値を創出しているにもかかわらず、統合的思考が欠けているために、暗黙知に留まっているケースが多い。陰徳を積むだけでは不十分で、開示しなければ評価されない。

 経営陣も積極的に統合報告書の作成にコミットし、価値創出や競争優位の源泉について統合的思考によって再考する必要があるだろう。

講演② MSCIの評価ポイント~ESGと企業パフォーマンス~

ESG格付けレポートを企業に送付し
フィードバックをリサーチに反映

高リスク・エクスポージャーには相応のリスク管理が求められる
柴野 幸恵氏
MSCI
ESGリサーチ
シニア・アソシエイト
柴野 幸恵氏

 当社はグローバル全体で185名以上アナリストが在籍し、セールスやコミュニケーション部門のスタッフを含め300名超体制でESGビジネスに携わる。MSCIのESG格付けは、投資家がESGリスクと投資機会の双方を理解し、ESG要素をポートフォリオ構築や管理プロセスに統合するサポートをする。ESG格付けモデルは、環境・評価・ガバナンスの3要素を統合し、AAA~CCCまでの7段階で評価する。年に1度、開示情報に基づいて産業内の競合他社と比較しスコアを算出。格付け対象は約6000銘柄で、うち700銘柄強が日本企業だ。

 各産業において重要とされるESG課題は、該当する産業や企業にとって重要な「キーイシュー」と特定され評価対象となる。キーイシューは業種ごとに選定され、リスク・エクスポージャーとリスク管理能力の2軸で測定する。リスク・エクスポージャーは0~10のスケールで表示され、数字が高ければ高いほど高リスクとなる。

 ガバナンススコアは、取締役会の構成など96個の指標に基づき、グローバルの評価基準に達していない場合は10点満点から減点されていく。不祥事スコアも0~10のスケールで表示され、例えば、いち担当者が引き起こした不祥事よりも経営陣が関与するほうが構造的問題と見なされ、スコアが低くなる。当社は企業とのコミュニケーションプロセスとして、インダストリー格付け更新分析開始前にその時点で最新のESG格付けのレポートを企業に送付する。企業からのフィードバックを受ければ、内容によって適宜リサーチに追加情報を反映させていく方針だ。

ケーススタディ 統合報告書の制作事例紹介

ナブテスコ - アクティブ投資家向けのIRツール

取締役対談など経営陣の「生の言葉」を多数掲載
斉藤 伸太郎氏
ナブテスコ株式会社
コーポレート・コミュニケーション部
広報・CSR担当参事
斉藤 伸太郎氏

 「ナブテスコって、ナンデスコ?」のCMキャッチコピーの当社は、2003年にメーカー2社が統合して生まれた企業で、現在は、精密減速機や鉄道車両用機器などニッチ市場での高シェア事業群を展開している。統合報告書は2017年12月期版で5冊目だ。

 最新版では、価値創造ストーリーの説得力向上のため、当社の価値創造プロセスに関する全体像に加えてその解説を紹介。取締役対談など経営陣の「生の言葉」も多数掲載した。投資家の関心が高い各事業のビジネスモデルや、今後の見通しを解説するコンテンツにもページを割いている。

 当社では、統合報告書は非株主をはじめとしたアクティブ投資家向けのIRツールと位置付けている。短い時間での投資判断に役立つように、ESGの詳細情報などはウェブサイトに移行した。今後も、海外を含む幅広い投資家と長期的な信頼関係を築く内容を心がけたい。

大日本印刷 - 本業を通じて社会貢献する姿勢を明示

事業のリスク変動要因とプラスに向けるアプローチ
田村 高顕氏
大日本印刷株式会社
コーポレートコミュニケーション本部
本部長
田村 高顕氏

 当社は今年(2018年)初めて統合報告書を作成した。ポイントは、SDGsのウェディングケーキモデルを応用して、会社や事業を取り巻く経済・社会・環境のリスク変動要因を整理したことだ。リスクを単なる危機ではなく変動要因と捉え、プラスに向けるアプローチをまとめた。

 例えば当社の売上構成では、紙の印刷よりも、リチウムイオンのバッテリーパックやディスプレイ用の表面フィルムなどが伸びている。事業紹介ページでは、個々の製品紹介にとどまらず、社会課題の解決策として自社の技術が役立つというメッセージを前面に出した。

 ESGに関しては、すでに2004年のアニュアルレポートから専門パートを設けて取り組みを紹介してきた。今回の統合報告書では、各種の社会課題と連動させて表現。CSRマネジメントの重点テーマに則り、本業を通じて社会貢献を推進していく姿勢を明示した。