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J-MONEY2019年2月号 注目記事

特別誌上座談会

J-REITに求められる新たな視点

低金利下において分配金利回り4%超えと魅力的な水準を保つJ-REIT(不動産投資信託)。機関投資家のパッシブ運用が加速するなか、国内のREIT市場拡大への課題などについて運用会社のトップが語り合った。(記事後援・不動産証券化協会。取材日:2018年12月3日)


■出席者(写真左から)
ケネディクス不動産投資顧問 代表取締役社長 田島 正彦
ジャパンエクセレント アセットマネジメント 代表取締役社長 小川 秀彦
三井物産ロジスティクスパートナーズ 代表取締役社長 棚橋 慶太
■コーディネーター
不動産証券化協会(ARES) 事務局次長 渡辺 晶

自己投資口の取得と
保有不動産の売却

渡辺 機関投資家を取り巻くいまの運用環境をどう見ているか。

田島 国内の機関投資家にとって低金利の厳しい運用環境のもと、J-REITの平均予想分配金利回りは2018年10月時点で4.21%と高水準だ。実物資産に基づく高利回り商品に対する強いニーズが感じられる。海外の運用機関にとってもJ-REITの高いイールド・スプレッドは魅力だ。世界的にグローバルな資金アロケーションがされるなか、ここ1年はJ-REITへの資金流入が継続し、世界のREIT市場のなかでJ-REITがアウトパフォームした。

小川 日本の場合、日本銀行の緩和的な金融政策により急激な金利上昇や円高に転じるリスクは比較的低い。一般的に、J-REITはミドルリスク・ミドルリターンの金融商品の一つと捉えられるケースが多いが、分配金利回り4%は投資家にとって割安感があるといえる。分配金は歴史的に見ても安定的で、日本国債とのイールド・スプレッドから見ても分配金利回りは高い。オフィスの場合、保有物件の稼働率は高く、賃料増額や負債コストの削減などが分配金の成長に貢献している。J-REITの収益率の引き上げには、外部成長と内部成長がある。オフィス全般にいえることは、内部成長は好調だが、外部成長は常に課題だ。

 外部成長のドライバーが創出されないとPO(公募)が行えないため、投資家にとっては買いたくても買いにくい状況が続いている。J-REITが魅力的な分配金利回りでありながら、なかなか株価が上昇しないのは、これらが要因ではないだろうか。


棚橋 物流施設の場合は内部成長も容易ではなく、分配金を増やすには外部成長にドライバーを置かざるを得ないため、さまざまな施策を打っていく必要がある。最近は、2017年4月から続いていた国内の投資信託からの資金流出が沈静化しつつある。2018年9月に投資信託が買い越し基調に転じたことにより、全体的に底上げしてきている。

 多くのJ-REITの資産運用会社が新規物件の取得に頭を悩ませているが、実は国内外の機関投資家を中心に、「REIT価格が割安であれば買い、割高な不動産を売却する」という真逆の議論も展開されている。つまり、自己投資口を購入し、保有物件を売却する方法だ。実際、当社が行った自己投資口の取得と、将来の取得を念頭に置いた物件の売却は投資家から好評だった。

小川 従来、運用の主流はアクティブ運用だったが、世界的にパッシブ運用へ移管する流れが加速している。海外の投資家からは、J-REITの現状61銘柄でも多すぎるという意見すら出ているくらいだ。以前はJ-REITへ多く投資していた地域金融機関は、監督官庁からリスク管理強化指導が入ったあとはETF(上場投資信託)を選ぶ傾向が強まった。当社のようにアクティブ運用の投資家が投資してくれるように力を入れている側からすると、差別化やパフォーマンス向上に切磋琢磨しているJ-REIT各社をワンセットに指数として売り買いされる現状には思うところがある。

田島 パッシブ運用への流れもあり、インデックス(指数)の重要性がより高まっている。例えば、オランダの大手年金投資家の場合、特定の指数に組み入れられない限り、そもそも投資対象にならないと聞いた。

棚橋 個別銘柄への投資から、パッシブ化、指数化という流れのなかでは、各ファンドが独自性を出すことが非常に難しくなってきている。米国はとくにパッシブ化が顕著で、AIによるビッグデータ分析の運用モデルが進化し、既存のファンドマネジャーのパフォーマンスを上回る事例も出てきている。例えば、株主構成比率で1%に満たない年金基金のように少人数体制で運用される機関では、多くの不動産を実査することは難しい。効率性を考えて専門家に任せる、あるいはETFを選ぶといった方向に進んでいるのかもしれない。

渡辺 機関投資家のポートフォリオ戦略で、J-REITが果たす役割とは。

田島 ケネディクスグループでは、J-REITの特徴として「専門性」「透明性」「流動性」の3つを挙げる。不動産の専門家が投資運用するJ-REITの透明性は非常に高く、東京証券取引所での流動性もある。実物資産を裏付けとしたイールド商品という意味でも、機関投資家にとって長期的に安定して投資いただける。J-REITは、日本銀行が投資している商品であり、世界中を探しても中央銀行が不動産エクイティに本格投資できるのは日本だけだ。J-REITにはダウンサイドに対するプロテクションがあると考えることができる。


小川 J-REITの特筆すべき特徴として、さらに安定的な分配金政策を加えたい。米国のUS-REITはキャッシュ(いわゆるFFO)ベースの約70%で分配金を調整している。一方J-REITは、利益のほぼ100%を確実に分配しており、透明性があって分かりやすく、投資家に安心感を与えている。

 また、ボラティリティの低さから、J-REITはリスク回避型商品といっても過言ではない。どのセクターも賃料がしばらく下がる懸念がないため、内部成長が下支えになり、分配金が崩れることはないだろう。

棚橋 インカム志向が強い機関投資家からは、J-REITは債券の代替に位置づけられている側面を持つ。香港で2018年11月にIR(投資家向け広報)を行った際、J-REITは中国の機関投資家から国債と同等レベルの安定性を持つ資産として扱われた。彼らは株式のリスクを取りつつ、ポートフォリオ全体のなかでJ-REITを緩衝材として捉え、安定的にリターンを取れる資産として評価した。こういった認識が広まれば、今後J-REITのあり方も変わってくるのではないか。

J-REITの環境不動産は
世界のESG 投資をリード

渡辺 昨今の不動産業界の運用ニーズの変化にJ-REITはどう応えているか。 


田島 2018年は、不動産市場でESGに配慮した投資が急速に広まった年となった。この背景には、不動産会社・運用機関のサステナビリティ配慮を測るベンチマークであるGRESB(Global Real Estate Sustainability Benchmark・2009年に創設)の普及や2017年7月のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によるESG指数投資の運用開始などが契機にあるだろう。

 数年前まで、環境不動産を整備するには不動産オーナーであるJ-REITやテナントがコストを負担しなければ実現しなかったが、世界最大規模の機関投資家であるGPIFが率先してESG投資を開始したことにより、資産運用会社は環境不動産への投資やESG投資に本格的に取り組むことができるようになった。

 事実、「GRESB 2018年評価結果」では、J-REITにおけるGRESBの参加者数は、2017年の34社から2018年の38社に増加した。GRESBでは、サステナビリティに関する取り組みを「実行と計測(IM)」「マネジメントと方針(MP)」の2軸をもとに、4段階で評価する。2018年のJ-REIT参加者38社は、すべて最高位の「グリーンスター」を獲得した。不動産に関するESG投資の分野で、J-REITは世界をリードしているといえる。

小川 ESG投資のなかでも、金融市場の関係者が投資機会を得ながらグリーンプロジェクトに向かう資金の流れを作り出すことのできる「グリーンボンド」が、国内外で注目されている。当社でも、ちょうど2018年8月にグリーンボンドを発行したばかりだ。投資家の旺盛な需要を確認でき、0.63%という発行体としては非常に有利な条件での起債が実現できるマーケット環境にある点にも注目していただきたい。今回の発行をきっかけに、これまで付き合いのあった投資家に加え、新たに中央の機関投資家が参入するなど、当社にとって投資家層の裾野が広がった事例だ。

棚橋 現時点では投資判断に直接影響を与えるケースは少ないが、機関投資家からESGの取り組みについて聞かれるようになった。当社では現在、経済性とのバランスを考慮し、効果的と判断できる取り組みを中心に実施している。例えば、テナントとの間で照明のLED化工事を実施した際に工事費用の一部を負担してもらうグリーンリース契約を締結。LED化を進めることで環境に優しいだけでなく、電気使用料を抑えられるためテナント満足度向上にもつながり、さらに当社の経済的負担も抑えられる。

 また、当社は「E」だけではなく、「S」も重視している。資産運用会社では専門的な知識・スキルが求められるため、優秀な社員が長く働き続けられる環境を整えることが、長期的な投資法人の投資主価値向上に資すると考えている。具体的には、例えば育児・休暇制度などのワーク・ライフ・バランスに配慮した制度および支援の拡充などだ。同時に、企業および役職員一人ひとりの成長には「制度ではなく風土」が重要と考えており、制度および支援の拡充のみならず、役職員一人ひとりがやりがいや充実感を感じられるような「働きたくなる」組織風土づくりを推進している。

一般への普及に向けて
コマーシャルや握手会も

渡辺 J-REITのさらなる普及には投資家層の裾野を広げていく必要があると思うが、どのような取り組みをしていくべきか。 

棚橋 個人を含めた投資家層の裾野拡大へ向けて、当社は個人投資家向けの合同説明会やIRセミナーなどを定期的に開催している。参加者アンケートを実施したところ、「初めて物流施設に投資するREITの話を聞いた」という意見が3割を占めるなど、まだまだ知名度の低さが伺えた。参加者は、現役世代の夫婦が一部いるものの、やはり60代以上の方が半数を占めている。

 J-REIT普及のためには、一般の方向けにテレビコマーシャルを打つことや、ターゲット層の年代に合わせた芸能人との握手会を開催するなど、地道な活動の継続が第一歩だと考える。

小川 当社の株主構成比率は機関投資家が高く、個人投資家は6%程度。やはりJ-REIT全体でも露出不足が否めないと考えている。例えば、ARESの会員が100万円ずつ出資して広告コストにあてるなど、業界全体で取り組んでいくことで、認知度向上へつながるのではないだろうか。
 
田島  私としては、新たな投資家層として、若年層を挙げたい。J-REITをコツコツ積み立てることは、将来の資産形成に必ず役立つはずだ。60を超える銘柄すべてを見ていくことは機関投資家やアナリストですら難しいので、個人投資家には、REIT指数に連動するETFが適しているだろう。J-REITは自信をもって提供できる商品なので、さまざまな媒体でマーケティングを展開していくべきだと思う。

国内REIT規模30兆円達成には
デットの量的確保が必要

渡辺 外部成長が難しいなかで、各資産運用会社ではどのような戦略を考えているのか。
 
棚橋 J-REITには、NAV倍率(株式投資のPBR〈株価純資産倍率〉に相当)が1倍割れし、割安のまま放置されている銘柄も存在するなどの課題がある。我々が一番に目指しているものは、分配金の安定成長であり、それは投資家の皆様の満足度に貢献するものだ。昨今の厳しい不動産市場において分配金の安定成長は目指しにくい環境ではあるが、将来的には物件取得の安定性も考慮しつつ、さまざまな取り組みを進めていきたい。

小川 これまで特化型REITというと、伝統的なオフィスや住宅が多かった。昨今では、ホテルや物流といったものも徐々に増えてきている。また、今後は福岡リートのような新たな地方特化型、あるいはESGを意識した老人ホームや病院など社会的要請に応じた物件に特化したREITが出てくる可能性がある。

 一方で、現状の61銘柄だけでも多いため、同じタイプの特化型が合従連衡していく流れも十分考えられる。当社の場合はオフィス特化型だが、働き方改革などにより優良なオフィス物件の需要が高まっている。現状の内部成長は絶好調で、当面需要が低下することはないと考えている。今後は、より一層良質な物件の取得を心掛け、流動性を高めて、海外の投資家にも参入していただくよう努めていく。公募の際はプレミアム増資、かつ継続的な分配金の成長を目指し、投資家の期待に応えていきたい。

田島  政府は国内の不動産投資市場の成長目標として、2020年頃までにREITなどで資産総額約30兆円を掲げている。現在、J-REITと私募REITを合わせた資産規模は約20兆円だ。目標額の30兆円達成には、エクイティだけでなくデットにも着目したい。今日のデット規模は8兆円で、その半分近くは3つのメガバンクからのローンだ。

 エクイティの場合、国内外の機関投資家が投資する資産といえるが、デットは今のところ国内の銀行がほとんどを提供している。ここに成長の余地があると考えている。従来のローンだけでなく、ローンセカンダリーやキャピタルマーケットのボンド(投資法人債)など、多様な資産に参加する機関投資家が増えることが重要だと考えている。

 当社の戦略については、冒頭で挙げたJ-REITの「専門性」「透明性」「流動性」のうち、専門性と透明性に関してとくにこだわり続けていく。当社は、オフィス、住宅、商業施設にそれぞれ投資する上場リート3つと私募リート1つを運用しており、国内外の機関投資家から個人まで、さまざまな投資家の皆様に最適な投資機会を提供することに努めていく。

座談会を終えて
J-REITマーケット拡大に向けて


コーディネーター 渡辺 晶氏

 最前線で活躍される運用会社トップの皆様と、J-REITの魅力・将来性、課題などを改めて確認できる有意義な機会となりました。

 貿易摩擦問題などで世界的にリスク回避姿勢が強まる昨今、国際情勢の影響を受けにくく、高利回りで安定・安全な投資先として、国内外投資家がJ-REITへの関心を高めています。活況を呈する国内不動産の売買・賃貸市場を背景に、東証REIT指数は堅調に推移し、2018年11月にはJ-REITの時価総額が初めて13兆円を超えました。また物件取得競争が激化するなかでも、J-REITは順調に成長軌道を歩んでいます。

 座談会ではさらなる成長に向けた課題として、投資家層の多様化、とくに公的・企業年金や個人投資家へのより一層の啓蒙の必要性があがりました。弊会としても引き続きJ-REITの普及促進活動に尽力して参ります。