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「分配金利回り4%キープ」が目安

アセットマネジャーズVol.4 注目記事

注目を集める運用手法とプロダクト

市場規模の拡大が続く私募REIT
「分配金利回り4%キープ」が目安

非上場のオープンエンド型不動産投資信託の私募REITは、日本国内では2010年のスタート以来、金利が低下した外国債券などの代替資産として市場を拡大してきた。投資方針をみると、主流の総合型以外にも住宅や物流といった特化型の銘柄も登場している。市場の景況感や展望について関係者に聞いた。

住宅などの特化型が増加
換金手段の大半は「譲渡」

■日本国内の私募REITの資産規模推移
(2018年9月末時点)(クリックすると拡大)

 国内の私募REITは2010年11月の第1号ファンド運用開始以降、マーケット規模が着実に拡大している。運用資産規模は2018年9月末時点で約2.8兆円、28銘柄まで増加した。投資方針カテゴリーの85%は総合型だが、銘柄数の増加に伴って、数年前から住宅や物流、底地などの特化型銘柄が登場した。28銘柄の投資対象の内訳は、オフィスビルが46%、賃貸住宅が20%、商業施設が13%、物流施設が16%、その他5%となっている。

 不動産運用商品は、一般的に株式や債券などの伝統的な運用資産との相関性の低さや賃料による安定的なインカムゲインなどが着目される。しかし、2008年のリーマン・ショックによる金融収縮局面においては、J-REITや不動産私募ファンドが相場の影響を色濃く受けてしまい、機関投資家などの期待に応えられないパフォーマンス結果となった。


SMBC日興証券
資本市場本部
ストラクチャード・ファイナンス部長
マネジング ディレクター
浅見 祐之氏(右)

資本市場本部
ストラクチャード・ファイナンス部
副部長
マネジング ディレクター
藤波 賢二氏(左)

 SMBC日興証券 資本市場本部 ストラクチャード・ファイナンス部 副部長 マネジング ディレクターの藤波賢二氏は、「そこで、安定したインカムゲインを狙うミドルリスク・ミドルリターンの商品として生み出されたのが私募REITだ」と説明する。私募REITはJ-REITのような市場時価が存在しない。代わりとなる投資口の価値、つまり基準価額は不動産評価を鑑定評価額ベースとするため、J-REITのように株価と連動することがなく、安定運用が期待できる商品として位置付けられている。

 同社の資本市場本部 ストラクチャード・ファイナンス部長 マネジング ディレクター 浅見祐之氏は、「私募REITは無期限運用を原則としており、有期限の私募不動産ファンドのように出口のタイミングによる不動産マーケットリスクにさらされることがない点から、年金基金などに親和性のある商品といえる」と語る。

 J-REITとの最大の違いは流動性だ。市場で売却できるJ-REITに対し、私募REITは払い戻しか譲渡しか換金手段がないうえ、一定の制限が設けられている。投資主が投資法人へ払い戻し請求を行う場合、払い戻し手数料として解約留保金がかかる。「通常、投資口の保有期間が3年以下で5%、3年超~5年以下で3%、5年超で1%というように、保有期間が長いほど解約留保金の料率は下がる傾向がある」(藤波氏)。

 藤波氏は、「多くの銘柄では、決算期ごとに前期末の発行総投資口数の2.5%を払い戻し口数の上限として設けている。オープンエンド型で払い戻し請求ができるといっても、年間5%までしか払い戻しはできないため、投資主の換金手段は大半が譲渡となる。当社はセカンダリー(2次流通)市場における仲介役を務めており、私募REITは現在10銘柄ほど関与しているが、年間100億円程度は譲渡によって動いている。市場の拡大により、譲渡はかなり一般的なものとなった」と指摘する。


ケネディクス不動産投資顧問
取締役最高業務執行者(COO)兼
プライベート・リート本部長
一木 元志氏

 ケネディクス不動産投資顧問 取締役最高業務執行者(COO)兼プライベート・リート本部長 一木元志氏は、「譲渡理由は大きく2つと推測する。1つは、本当に出口が迎えられるかどうか試すケース。もう1つは、決算対策としての益出しだ」と述べる。実際、毎年4月以降はこうした問い合わせはほぼ受けていないという。

 非上場の私募REITはJ-REITに比べ情報開示が劣っているのではないかと懸念する声もよく聞く。浅見氏は、「私募REITは不動産に知見のある機関投資家の厳しいチェックもクリアするために、J-REITと同水準かそれ以上の情報開示を行う」と明かす。特に、各物件の鑑定評価のほかに、月次で個別物件の稼働率や賃料単価、収支などの情報開示はJ-REITでは用意されないものだという。

 昨今、金融庁による地域金融機関への検査などが強化傾向にあり、導入基準に「主要物件の実査」が定められるケースも増えてきた。「当社では、ファンドが資金調達をする際に物件ツアーのアレンジも行う。J-REITはここまで情報開示しないため、私募REITのほうが情報の充実性が高いといえる」(藤波氏)

■既存私募REITにおける主要な投資家層の構成(2018年9月末時点)(クリックすると拡大) 現在、私募REITへ出資する投資家の割合は、中央の機関投資家や年金基金など大口投資主が全体の4割以上を占めている。一方で、投資法人登録簿の上位10位に入らない投資主不明の割合は5割程度だ。浅見氏は、「地域金融機関が参入し始めたのは5年くらい前から。低金利政策と売買(譲渡)事例の増加が相まって、小口投資家のすそ野が広がっていった」と解説する。

 私募REITの市場規模は、登場から約8年ずっと右肩上がりで成長中だ。藤波氏は「ほとんどの銘柄が当初発行価格に対する目標分配金利回りを4%以上としているが、今のところおおむね上回っている。足元の不動産市場の物件価格は上昇を続けている。それに伴い利回りが低下していくので、これまでのペースで増資と物件取得をしていけば徐々に希薄化が進み、分配金利回り4%をキープできなくなる銘柄が出てくる。そこが1つのハードルになるだろう」と見解を述べる。

 一木氏は、「新規の物件取得は、各社とも苦労している部分だろう。物件のクオリティと利回り低下のバランスを比較検討するなど、慎重に取り組む必要がある」と話す。「私募REITは基準価額をベースに増資を行うため、売れ行きによって価格を調整できない。売れない状況を避けるには、増資に対してシビアな姿勢にならざるを得ない現状がある」と語る(浅見氏)。

 私募REITはJ-REITと違ってリーマン・ショックのような金融危機を経験していない。下落局面に直面した場合、運営が苦しい銘柄は大手に吸収合併されていく可能性は高いだろう。過去には、J-REITの住宅特化型銘柄の多くが合従連衡の波に淘汰されたこともあった。

 浅見氏は、「ファンド動向を確かめるには、各投資法人が定める投資方針に合致した運用をしているかどうかを注視したい。例えば、増資するために投資方針とは異なる対象外の地方の物件を買い入れたりしていないか。また、投資家の声にきちんと向き合っているかどうかも検討項目の一つになる」と語る。

 不動産市場は現在、ピーク直前との見方が浮上している。藤波氏は、「東京のオフィスビルの賃料単価と空室率の推移を見ていくと、賃貸マーケットの需給環境は引き締まっている。空室率は3%を切る低水準が続き、賃料単価も上昇している。不動産市況は2020年の東京オリンピックまでは堅調に推移するだろう」と説明する。

 一木氏も、「ビルの供給過剰により市況の悪化を懸念する声もあったが、『日経不動産マーケット情報』によれば、都心のオフィス需要は好調で、2016年10月〜2019年10月に東京23区内で完成(予定)の延床1万m2以上の新築ビルの加重平均稼働率は、竣工済が97%、未竣工でも内定率が7割を超えている」と話す。「金利動向から考えると、私募REITは今後も投資家にとって魅力的な商品であり続けるだろう。将来的に、資産規模は5.3兆円前後まで拡大するとの予測もある」(藤波氏)

投資家目線を体現する
運用方針や報酬体系

 2017年に金融庁が地域金融機関に私募REITなどのリスク管理強化を呼びかけたこともあり、いまではモニタリング指標を定める投資家が多く見受けられる。「最近では投資主からフィードバックをいただくこともある。業界的にフィードバックの習慣があまりないため、投資主の意見を知ることができる貴重な機会」(一木氏)。2018年度は自然災害に関する問い合わせが多かったという。一木氏は、「被害状況や復旧状況の詳細をデイリーで発信した点は投資主から好評だった」と胸を張る。

 ケネディクスは、業歴20年超の国内最大級の独立系不動産アセットマネジメント会社だ。同グループの私募REITは2014年3月に運用を開始し、ケネディクス不動産投資顧問が運用を手掛ける。3物件280億円からスタートし、2018年11月時点で12物件1044億円まで成長を遂げた。「希少性が高い大規模オフィスビルへの投資で長期安定運用を目指す。大規模オフィスビルは、東京23区内で延床1万3000m2超、それ以外は同2万m2超と定義。ほかに、長期リース付ホテルと商業施設も投資対象だ。払い戻し請求対策として、流動性の高い小規模の住宅も組み入れている」(一木氏)。用途別投資比率は、大規模オフィスビルが約73%、ホテルが約21%、商業施設が約4%、住宅が約2%。また、エリア別では東京経済圏が約93%、地方経済圏が約7%となっている(2018年11月時点)。

 同社の運用報酬制度は独特だ。一木氏は、「総資産額に一定の料率を乗じる運用報酬Ⅰは、仕組みも料率も一般的なもの。一方で運用報酬Ⅱは、分配可能金額の一定割合を報酬とする制度で、目標分配金利回りを下回った場合は報酬がカットされる。分配金の最大化を目指す投資主と同じ目線に立った運用を体現するもので、全私募REITのなかでも稀有なルールを採用している」と強調し、「優良物件を投資主に優先して提供することで、投資主からのさらなる信頼獲得にも努める」と語った。