TOP > 注目記事 > 広がる「トータルポートフォリオアプローチ」
年金基金の一部業務を運用会社が代行も

J-MONEY2015年冬号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

広がる「トータルポートフォリオアプローチ」
年金基金の一部業務を運用会社が代行も

2014年は株高・円安と良好な運用環境で推移したが、2015年半ばともいわれる米国の政策金利引き上げなどで流れが変わる可能性もある。今後の先行きが見通しにくいなか、機関投資家はどのようなポートフォリオ戦略を志向しているだろうか。(工藤晋也、津田恒平)

インフラ・デット投資

需給ギャップ大きいインフラ資金
ブラウンフィールド投資に注力

 「リーマン・ショックを機に、市場は大きく変化した」と話すアライアンス・バーンスタイン執行役員、クレジット・アナリストの花井ゆき子氏は、その一例として流動性の低下を指摘する。「規制強化や自己資本規制を背景に欧米銀行のディーラーは自己のポジションを大幅に減らしており、仲介機能低下の深刻度が増している」

 そのような環境下で、むしろ流動性が比較的低いとされるプライベート・クレジットに関心が寄せられているという。「流動性の追求を放棄することで得られるプレミアムにニーズがある。なかでも中長期のインフラ資金は潜在ニーズに対して不足しており、インフラ・デットによる調達に大きな期待が寄せられている」と花井氏は説明する。

 債券部シニア・ポートフォリオ・マネジャーの日暮太一氏は、「対象地域としては、米国に比べて銀行のバランスシート改善が遅れている欧州が有望。インフラ投資では公的セクターからの安定的な資金供給が重要な要素となるため、欧州のなかでも財政規律が堅持されている先進国が望ましい」と明かす。

 アライアンス・バーンスタインのインフラ・デット投資戦略は、リスクを抑え、安定的な収益の確保を目指す。そのため、新規のプロジェクトに対する「グリーンフィールド」投資ではなく、組成から5-6年程度経ち、デフォルト率が低い「ブラウンフィールド」投資に注力する点が特徴だ。

 「仮にデフォルトになったとしても、社会に不可欠なインフラは回収率が非常に高い。高格付け社債よりも低いリスクに対して、流動性プレミアムがのったリターンを期待でき、リスク・リターン特性が優れている点がインフラ・デットの魅力」(花井氏)
 金融危機後、銀行は長期資金の提供に消極的であり、銀行以外の貸し手にとって好機となっている。債券部シニア・ポートフォリオ・マネジャーの大森夏生氏は、「中長期の資金を運用する機関投資家は需給ギャップを埋めるのに最もふさわしい資金の担い手といえるだろう」と語った。

バイアウトファンド

投資家と経営者の双方から「市民権」を得つつあるPE投資

 「リーマン・ショック以降、日本のPEの存在感は薄まっていたが、我々の地道な取り組みと成果の実現により、見直しが進んでいる」と話すのは東京海上キャピタル取締役社長、マネージング・パートナーの深沢英昭氏。日本回帰の原動力は安定的なパフォーマンスだ。リーマン・ショックや東日本大震災に見舞われながらも日本のPEは堅調な成績を収めてきた。

 日本版スチュワードシップ・コードの導入もPEが注目される一因といえる。「対話によって企業価値の向上を促す取り組みはPE投資の本質そのもの。長年エンゲージメント活動を続けるPEの運用手法への関心は高い」(深沢氏)

 運用の成果が見え始めたことも大きい。以前はアセットクラスとしての実績がなく、Jカーブ効果やキャッシュ・フローの不安定性、流動性の乏しさなどのマイナス面から敬遠されがちだった。しかし、取締役でジェネラル・パートナーの佐々木康二氏は、「先行してPE投資を行ってきた年金基金などによって成功体験が語られるにつれ、無視できない資産として意識されるようになってきた」とPE投資の存在感の高まりを感じている。

 年間約100件の案件のなかから東京海上キャピタルがバイアウトファンドを通じて投資に踏み切るのは多くても2、3件という。深沢氏は、「定量的な業績の安定感に加え、経営者の求心力や信頼感、ビジョンの方向性の一致といった定性面を勘案し、投資企業を厳選する。これまでエグジットした案件はすべて元本以上の回収に成功しており、実績と将来にわたる再現性の高さが当社の強みと自負している」と胸を張る。

 取締役でジェネラル・パートナーの重村英輔氏は、「PEはマネーゲームではなく、長い付き合いのなかで企業の問題を解決し、成長に導いていく社会的意義のあるアセットクラス。短期で投資収益獲得を狙う『ハゲタカ』のような誤解は払しょくされつつあり、投資家と経営者の双方から『市民権』を得られ始めたと感じている」と話し、PE市場のさらなる拡大に期待している。

リキッド・オルタナティブ

ヘッジファンド投資のハードル低下
下落局面でも安定的な収益を追求

 リキッド・オルタナティブとは、日次での購入・解約ができ、リアルタイムでのポジション把握が可能、かつ成功報酬なしといった特徴を持つオルタナティブ投資を指す。流動性と透明性、手数料体系の面で従来のヘッジファンド投資が抱える問題点を解決する画期的な商品だ。米国では確定拠出型年金の採用が進むなど、市場が急拡大している。

 ニューバーガー・バーマン取締役、投資運用部長の幾嶋崇氏は、「これまでヘッジファンド投資をしてこなかった投資家からの需要も大きく、年金基金の受託も増えている。また、すでにヘッジファンドを保有しているものの、高い手数料に見合う成果を得られていない投資家からの入れ替えニーズも強い」と、反響の大きさを語る。

 ニューバーガー・バーマンのラインアップの1つである「絶対収益型マルチ・ストラテジー戦略」は10前後のヘッジファンド・マネージャーを厳選して組み入れ、複数の戦略に分散投資を行う。マクロ環境や市場動向に応じて収益機会が見込まれる戦略の比重を柔軟に調整しつつ、市場の下落局面においても追加的なヘッジやエクスポージャー管理を通じて、安定的な収益を挙げてきた。

 「当戦略のターゲット・リターンは年率5-6%程度、実績リスクは2%台であり、低リスク型の商品設計としている。国内の機関投資家のニーズに合致するリスク・リターン特性も広く受け入れられている要因」と投資運用部ヴァイス プレジデントのオレグ・カピノス氏は見ている。

 「リキッド・オルタナティブはヘッジファンド投資のハードルを下げ、これまでアクセスできなかった投資家層に機会の提供を実現した。当社では、クレジット戦略やグローバル株式ロング・ショート戦略などリキッド・オルタナティブのラインアップをさらに拡充していく予定だ」(幾嶋氏)

貿易ファイナンス戦略

銀行の消極化で投資機会生まれる
個人能力や相場の上昇に頼らない

 過去20年にわたって金利が低下を続けてきた環境下では、債券パッシブ投資が結果的にリスク対比で最も利回り効率のよい投資であった。しかし、長期金利がこれ以上は下がりようがない水準に達し、今後の上昇も見込まれる今、債券ベンチマーク運用で予定利率を達成することは難しい。その代替となる低リスク投資戦略として、アーク東短オルタナティブは「貿易ファイナンス戦略」を提案する。

 取締役の古屋武人氏は、「貿易決済のための一時的な融資である貿易ファイナンスは、バーゼルⅢやボルカールールなどの資本規制により、銀行の取り組みが近年消極的になってきている。そこに運用会社が参入することで投資機会が生まれた」と説明。市場のグローバル化を背景に輸出業者と輸入業者の信頼感が高まったこともあり、銀行が信用補完しない貿易ファイナンスの割合は全体の2-3割程度まで上昇しているという。

 貿易ファイナンスへの投資方法には、銀行が組成したローンを切り出す銀行組成型と、運用会社が直接貿易取引の選定を行う直接貸付型がある。前者は銀行がローンを選定するため、受け身のポートフォリオにならざるを得ないが、後者は運用会社が目的に合わせてローンを組み合わせることで主体的にポートフォリオを組成できるメリットがある。

 「貿易ファイナンスは短期ローンのため金利変動の影響が軽微。実需取引であることから資本市場の影響を受けにくく、他資産との相関性が非常に低い」(投資顧問部長の飯島信行氏)

 取締役の鈴木英典氏は、「収益の源泉はクレジット・リスクであるが、融資の短期化、信用力の高い企業の厳選、担保として輸出商品の確保などのリスク低減策によって低いデフォルト率と高い回収率を実現することができる。マネージャーの個人能力や相場の上昇に頼る運用ではなく、安定的なインカム・ゲインを期待できるため、年金基金からの関心も高いオルタナティブだ」と語る。

前へ 1 2 3 4 5